フェリックス”TITO”トリニダード

「良いカラダしてますねぇ」と、ジョーさんは言いました。
「しなやかそうで、筋肉も柔らかそうで・・・」
そういうジョーさんの声は、なんだかうっとりしていました。

「本当に才能ある者が見せる『才能の輝き』というものが、このボクサーにはありますね」とも。

見る者を酔わせるほどの才能、それがトリニダードなのです。

※ジョーさん・・・ジョー小泉氏。
WOWOWのボクシング番組「WOWOWエキサイトマッチの解説者としておなじみ。
ボクシング評論家、マッチメーカー、リングジャパン総帥としても有名。


これがトリニダード。爆発的なパンチの持ち主。
ボクシング普及委員会が自信を持ってお送りする、SSBの4番バッター。それがこのフェリックス”TITO”トリニダードです。
180pのスラリとした痩身。プエルトリコのKOアーティスト。
ニックネームの「TITO(ティト)」とはネコ科の獣のことだそうで、それこそネコ科の獣のように柔らかく、しなやかな体を持つトリニダードにはピッタリの名前でしょう。

トリニダードのパンチは、良く「竹がしなるような」という風に形容されますが、本当にしなやかで、良く伸びるパンチです。そしてそのパンチは意外な、というか、呆気にとられるほどの破壊力を秘めています。

力まずスッと、何気なく振っているように見えるパンチですが、これがまともに当たった瞬間、相手は吹っ飛ぶ。あるいは一拍おいて崩れる。人間が人間を、こんなに簡単に殴り倒して良いのだろうかと思います。我が身に照らし合わせると、ちょっと想像がつかないなと。
体全体をひとつのバネのようにして、全身のしなりを使って放たれるパンチは確かに鋭いのですが、素人の僕などは「あんなに細い腕のどこにあんな破壊力が?」と思ってしまいます。


非常に高いKO率を誇る、いわゆる「倒し屋」と呼ばれるボクサーは、何人か見ました。しかし、トリニダードのパンチはそのどれとも違う印象を受けます。
タイソンのような、鉛でガーンと殴りつけるようなパンチとも違う。
ロペスのような、針の穴ほどの急所を打ち抜くようなモノでもない。
何というか、バットの先に地雷が埋まっていて、それでボールの代わりに相手の頭を打つような、そんなパンチです。真芯で捉えた瞬間、爆発するような。
トリニダードはそんなパンチで、ほぼ全ての試合をKOでクリアしてきました。

IBFウェルター級王座を獲ったモーリス・ブロッカー戦では電撃的な2RKO。チャンピオンは横倒しになったまま数分間動けず、まさに「天才が現れた」と呼ぶにふさわしい試合でした。

初防衛戦では何と1Rにいきなり4度のダウンを奪って圧勝。
相手が起きあがってくる度に「それじゃあもう一回」という感じでダウンさせ続け、難なく王座を守ってしまいました。

過剰なほどの安全運転で知られるプエルトリコの先輩王者、カマチョとの防衛戦は倒しきれなかったものの、文句ない判定勝ち。それ以外は10度以上に渡る防衛戦全てをKO(しかも大抵早い回)で飾ってきました。
あっけらかんと相手を倒してしまうトリニダードの攻撃力は、戦績以上の魅力を見る者に感じさせます。が、しかし、相手をコロコロと倒すトリニダードは、自らもまたコロコロと倒れてしまうのです。

「天才の幼児性」という言葉を聞いたことはないでしょうか。僕はあります。
大人と子供の違いはどこにあるのでしょう。僕は集中力にあると思います。例えば道とか歩いてても、大人は「向こうから車が来る」と気付いて事前に避けるのに、子供は避けない。子供には目の前のモノしか見えてないんですね。目の前に何かしら興味の対象があると、全神経がわーっとそこに集中してしまう。それは非常に危ないことなのですが、だからこそ子供は時として大人が呆れる程レベルの高い仕事をこなすのではないでしょうか。


こういう「えっ?」というようなダウンを、トリニダードはよく奪います。

トリニダードは、どこかそんな子供のイメージとダブるところがあります。

トリニダードがダウンした試合を二度ほど見てますが、いずれも接近した時にもらった左フックでした。長距離だとダウンしないんですね。
トリニダードはジャブをあまり使いません。基本的に手を出さずにプレッシャーをかけ、ヘッドスリップで相手のパンチを外しざま打ち込む、といった感じです。
私見ですが、トリニダードは子供のように、全神経を集中させて「一瞬の隙」を探しているのではないでしょうか。普通のボクサーが見逃してしまう、或いは見送ってしまうほんのわずかな隙。そこに思い切りよく飛び込むことで周囲が呆れるようなKOシーンをモノにしているように見えます。
「パンチを外しながら距離を詰め、接近して打ち込む」という一連の流れには集中していますが、その反面それ以外のことには注意がいってない。だから「飛び込み」が失敗に終わったとき、不意にダウンを食うのでは。(実際、不用意に左フックを打っていったところにパンチをもらって、ダウンしたりしてます)


意外と不用意にパンチをもらってしまい、簡単に倒れるトリニダード


これも似たような状況から似たようなパンチでのダウン。

ボクシングに限らず、トリニダードは全体の雰囲気が何となく不用意というか無防備なのです。
ド派手なKOシーンを演出しても、それがどれほどのことかも判らないようにあっけらかんとしています。カメラに向かって何事かまくしたてる様は往年のアリを彷彿とさせますが、トリニダードのそれはアリに比べてずっと無邪気です。
見ていて危なっかしく、ハラハラするのですが、それでいてこちらが呆れるほどの仕事をしてしまう所にトリニダードのたまらない魅力があるのでしょう。

現在、トリニダードのいるウェルター級は実力者揃いの花盛り。
トリニダードを始めオスカー・デラホーヤ、アイク・クォーティー、パーネル・ウィテカ、ホセ・ルイス・ロペス・・・。全員入り乱れての大激戦を期待したいところですが、最強を決める頂上決戦は何と言ってもこのトリニダード対デラホーヤでしょう。

6階級制覇を狙うデラホーヤは攻守を始め全ての点で高いグレードを誇る隙のないボクサー。加えて相手の長所を封じ、八方塞ぎにするサディスティックなまでの戦略を立ててくる周到なボクサーです。
無邪気なトリニダードは下手をするとデラホーヤの術中にはまり、何もできなくなるかも知れません。
しかしながら天から授かったしなやかなバネと、そこから生まれる常識の枠を 越えたパンチ力。一瞬の隙を見つけ、それを爆発させることの出来る集中力さえあれば、デラホーヤの張るであろう周到な罠をあっさり抜け出し、事も無げに倒してしまうかも知れません。
トリニダードは、そういう期待を持たせるボクサーなのです。

デラホーヤのハンサムマスクを、打ち抜けトリニダード!!

  
柔らかくてしなやかで、常軌を逸したトリニダードのパンチ。相手はボンボン吹っ飛んでます。

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