▲こちらが本物のハメド |
このボクサーと同時代に生まれたあなたはラッキーです。
このボクサーをリアルタイムで見ることの出来るあなたはラッキーです。
なぜなら、ボクシングの歴史が変わる瞬間に居合わせる可能性を持っているからです。
そもそもこのボクサー、基本的にまともなボクシングをしません。
スピードがある、パンチがある、体が異様に柔らかい(背中がほぼ直角に曲がります)。
恵まれているのは肉体だけではありません。攻防の嗅覚も犬のように鋭いです。
ハチのようなスピードと鞭のようにしなやかな体で、相手のパンチに全て空を切らせてしまいます。
そして挑発。
相手がムキになって打ち返しても、ハメドの体にはカスリもしません。そこにハメドの唐突な一撃。
(このパンチはストレートともフックともつかない奇妙なパンチです。写真で見ると更に。)
予想外のパンチに対応しきれなかった相手は、大抵の場合レフェリーに抱きかかえられてTKO負けを宣告されます。もし立っていようモノならハメドが襲いかかってもう一撃。
これで確実にジ・エンド。
ハメドの試合は、八割方こんな感じです。相手はバカにされるだけバカにされて何もできない。見ていて可哀想になるくらい圧倒的です。ハメドの独壇場とでもいいましょうか。(試合後、半ベソをかいてる選手も数人いました)
僕は観るだけでボクシングに関しては素人ですから、技術的なことは良くわかりません。しかしながらハメドのボクシングは持って生まれた資質だけではなく、理論的にもかなり煮詰められているようです。
ハメドのパンチは異常な角度、異常なタイミングで襲ってくると聞きます。
普通のボクシングだと「あ、今は攻撃してこないな」という瞬間があるそうです。この体勢からだと攻撃出来ない、という瞬間が。ハメドはその「攻撃してこないな」と思った瞬間、不可能なハズの位置からガーンとパンチを当ててくるとか。攻撃してくると予想がついていればこらえられるパンチも、全くの不意打ちではそうも行きません。かくして相手はマットに沈む、というわけです。常識の外から飛んでくる、理解不能の一撃。
フェイントも巧みなようです。初防衛戦でハメドは1R35秒KO勝ちという荒技(パンチの総数はハメド3,相手0)を披露しました。最初の一発でいきなりダウンを奪いましたが(事実上それで試合は決まっていたのですが)、そのパンチは「足で『下に打つぞ』っと見せて置いて、相手がガードを下げようとした瞬間」(浜田剛史氏・談)に顔面に放ったパンチでした。
この他にもクルクルスイッチしたり、スピードに思いっきり緩急の差を付けたりと、ハメドのボクシングはトリッキーといいましょうか変則的といいましょうか、今まで見たことのないようなボクシングです。
別の理論で成り立ってるボクシングといいましょうか。
モハメド・アリもデビューした当初はダラリと両手を下げたスタイルを批判されました。今までの常識になかったからです。
しかし、両手を下げればパンチも打ちやすいし(ガードが目の前にない分)相手のパンチもよく見える。「目で相手のパンチを見切り、上体の動きでかわすことが出来る」という条件付きでなら、この戦い方も決して間違いではないと言う事を、実績で証明したのです。
ボクシングのセオリー、ボクシングの歴史が変わった瞬間。
ハメドは目下29戦全勝27KO。(KO率 93.1%)
特筆すべきはハメドがフェザー級(57.2s以下)の選手だと言う事です。
御存じない方にはピンと来ないかも知れませんが、この階級でこのKO率は信じ難いことです。一般的に、階級が上がるほどパンチ力は上がるのですが、ヘビー級(事実上100s以上)の選手でも、これほどのKO率を誇る者はいません。タイソンですら(確か)80数%です。
彼らの半分程の体重しかないハメドが、これだけのKO率を誇るという事実=実績。
しかしながら29戦全勝27KO。KO率 93.1%。
何かが変わるには充分な予感とは言えないでしょうか。
ナジーム・ハメド、お薦めです。