宇宙船地球号の同乗者の中で「昆虫たち」ほど繁栄している仲間は、他に居ないであろう。水の1滴もない砂漠であろうと激寒の高山地帯であろうと、水の中であろうと、この宇宙船のあらゆるところに住みつきその多様性を武器に今でも華やかに繁栄を続けている。この宇宙船内で初めて空中を征したのも彼らである。このページは彼らとの同乗記の中で出会った素晴らしく個性ある同乗員たちについて、私の記録の中から少しづつ紹介してゆきたいと思います



同乗員
[蝶]
「蝶々」は昆虫の中でも、一般的に最もよく研究されておりマニアも多い。他の多くのマニア達と同じように私が最初にコレクションしたのも確か蝶々だった。この仲間は日本中に240種ほど生息しており、個性豊かで楽しいエピソードも数知れません。
     迷蝶の中の迷蝶
  
タイワンアサギマダラ
〔形態〕 アサギマダラにその色彩・斑紋は類似するが、後翅表面の地色は濃茶褐色で前翅黒色部との色彩の差はアサギマダラのように著しくはないそのため一見した感じはアサギマダラに比べてその色彩は黒ずんで見えるアサギマダラとの最も明瞭な区別点は腹部の色彩で、アサギマダラの暗褐色一黒褐色に対して本種は明るい橙褐色である。
〔分布〕日本では琉球の石垣島、西表島、沖縄本島、奄美大島、宮崎県宮崎市で採集されているが、これらは迷チョウまたは迷チョウによる一時的発生と推定される。
〔生態〕 成虫の習性はアサギマダラと同様で、飛びかたはおそく、各種の花に集まる。年間の発生 ・経過、発生回数など不明であるが、多化性のものであることは疑いがない。

「迷蝶」という言葉を知っていますか?元々日本には生息しない蝶が春先の季節風や台風などに乗せられて外国からはるばる飛んで来ることがあります。これを「迷蝶」と言います。よく採集される迷蝶に「カバマダラ」や「リュウキュウアサギマダラ」、「アオタテハモドキ」、「メスアカムラサキ」など多数ありますが、中でも1年に一匹採集されるかどうか分らないと言うほど珍しい蝶もおります。「タイワンアサギマダラ(左上写真)」はそういう珍しい迷蝶の1種です。幸運にも私がこの蝶に出会ったのは奄美大島の最高峰「湯湾岳(上中央写真)」にあるコガネムシを採集に行った時のことでした。
湯湾岳の登山道(左上写真)を毒蛇ハブの恐怖におびえ、足元を注視しながら歩いていたその時です。この辺では良く見かけるアサギマダラ(上の写真中央)が一匹、いつものように頭上をかすめて飛んでいきました。ハブの事でいっぱいの私の頭の中に「あれ、あいつにしては妙に黒っぽいなぁ」と言う思いが閃いたのです。危機一髪で何とかネットインできました。そしてよくよく見てみるとやっぱしただのアサギマダラではないかと思い、手放そうと思ったその時「待て、やっぱ何か変だ」と再び思い直しました。やはり随分小ぶりで黒っぽい「う〜ん、疑わしきは持って帰れだ」という訳で持ち帰り調べてみると、なんと「タイワンアサギマダラ」でした。ほんとに運が良かったとしかいえません。はるばる台湾から飛んできたこの1匹は仲間を探してこの薄暗い森の中を寂しくさ迷っていたのかもしれません。ちょっと可愛そうな事をしたかなぁ(右上写真はやはり紛らわしい「リュウキュウアサギマダラ」)



同乗員
クワガタムシ
男の子なら誰でも1度は憧れた事のある昆虫がクワガタムシでしょう。あの黒光りするまるでロボットのような硬くてかっこいいボディーに巨大な顎、「カクカク」と動く玩具のような面白さ、この虫に似せられて世界中をさまよった人はかず知れない。この仲間は日本に35種程が生息しており、昆虫たちを代表するに相応しい風格がある。

「精霊の守り神」アマミマルバネクワガタ
分布
 奄美大島、請島、徳之島。
生態
 成虫 発生は8月中旬に始まり、個体数が最も増すのは8月下旬〜9月上旬。シイの大木か多く見られる原生林にのみ   棲息する。夜行性か強く、夜間に発生源であるシイの大木につく。発生初期は♂のみか見られ、中期以降に♀か出現する。9月中旬には昼夜問わす林内を歩き回り、下旬にはほとんと見られなくなる。寿命は短く、野外では1〜2ヶ月で死亡する。野外趣冬はしない。
 幼虫 シイの大木の根元などに蓄積した朽ち木が赤茶色に土化したものに見られる。幼虫は朽ち木より脱出し、土中に   繭を作る。羽化はは7月上旬〜中旬におこなわれ、羽化後2ヶ月ほどで野外へ出る。ほとんどの個体は3年1化型。
(日本産クワガタムシ大図鑑より)
毒蛇「ハブ」の住む奄美の原生林、この森に「南島の王者マルバネクワガタ」も一緒に潜んでいる。奄美で育った地元の人でさえこのクワガタを見たことのある人はほとんどいない。幻のクワガタである。
幼虫は2年程を巨木の洞の中の土の中で過ごし、やがて土の中にまゆを作りその中で蛹化し成虫となる。
奄美の森の巨木「御神木」には「ケンムン」と言う名の精霊が宿っており、森を侵略者から守っていると言う。この巨木の洞の中にマルバネクワガタの幼虫は潜んでいる。

「南島の王者マルバネ」




同乗員
カミキリ
ムシ
鋭い牙、体長をはるかに上回る太くて長い角、スリムなボディーに長い足、どれをとってもおしゃれな虫がカミキリムシだろう。大きな角をユラユラと振り回しながら、今にも落ちそうに飛ぶ様は優雅そのものである。この虫だけにこだわって専門に収集する研究家は多く、この虫の魔力にとり付かれたものは一生逃げられることはない。この仲間は600種程が日本中至る所に生息している。
「古代地理の証明者」オオスミミドリカミキリ
体下面は青緑色。前胸背板前縁側方は張り出しは僅か。雄交尾器例片は狭い。体下面は育緑色。成虫は野外では得られておらず,寄主植物からの脱出個が知られているだけである。【分布】九州(大隅半島)。(東海大学出版会、日本産カミキリムシ検索図説より)
メタリックグリーンの美しいこのカミキリははほとんど採集されないため、その分布や生態は全く知られていない幻の虫であるどういう訳か大隈半島の太平洋側南端にしか生息せず、最も近縁の種ははるか南方海上の屋久島に分布するという。
更に近い種が奄美大島にも分布するため、古代において琉球列島が大隈半島まで陸橋でつながっていた事の生き証人かもしれない。幼虫は海岸線に多いヤブツバキの材を餌にしているため、このカミキリムシも海岸近くの森ででよく採集されている。

大吉虫「大隅みどり」

「最貴重種」クロモンキイロイエ
        カミキリ

体長14.5−21mm。体は全体やや透明感のある黄褐色で,上翅に3対の黒斜帯をもち,前胸が大きく発達する特徴的な種。前胸背板は全体に微細な果粒を持つ。上麹の点刻は不明瞭で,細毛をもち,端部はまるい。雌雄差は顕著で,雄では前胸が大きく張り出し,上翅は先端に向けて強く狭まるほかに,触角ははるかに長く,第7節で上翅端をこす。成虫は,黄昏時によく飛翔し,夜間立枯れ木上で活動する。屋久島では発生地が伐採されたときにやや普通にみられたが,他地域では採集は困難なカミキリである。【成虫出現期】7−8月。【寄主植物】バリバリノキ,ヤプニッケイ,ホソバタプ。【分布】九州(大隅半島),屋久島。(東海大学出版会、日本産カミキリムシ検索図説より)
今年こそはと思いながらもう4年、未だに私の標本箱にその姿はありません。という訳でオリジナル写真もありません。このカミキリムシだけの為に20回以上大隈半島に渡り、食樹バリバリノキやホソバタブの材を集めトラップをかけたり、夜に暗い森を散々さ迷ったりしましたが、何が悪いのか全く姿は見られません。いったい何処に居るのでしょうか?

クロモンキイロイエカミキリの人生観




同乗員
[蛾]
仮に「蝶」の羽の華やかさを京都の西陣織にたとえるなら、「蛾」の羽の何ともいえない落ち着いたデザインと色使いは大島紬にたとえられよう、夜の闇の中で洗練された本物の美しさである。いくら見ていても飽きることがない。この仲間は国内だけでも5000種を越える程進化しており、ほとんどの植物を餌に、ありとあらゆる所に生息している。正しく地球号を100パーセント利用し尽くしていると言える。
 「不思議な生態を持つ」カワゴケミズメイガ
歯翅前外縁は中央で角ばる.内外横線のあいだは前・後翅とも白い.九州(鹿児島県),屋久島,インド,ジャワから記録されている.我が国ではわずかの個体しかとれていない.幼虫は流水に生えるカワゴケソウ属に寄生する.
この「蛾」ほど変わった生態を持つ「蛾」も他にいないであろう。「蛾」の幼虫なのにこの芋虫は川の水中に生息しているという。実は「カワゴケソウ」と言う水中に生えるコケのような植物を幼虫が餌にしているからであるが、この「カワゴケソウ」というのがまたとんでもない植物で、鹿児島県の二、三の急流に産する特異な水草で、形態の特殊化が進み岩にはりついている姿はいかにもコケの仲間を思わせるが、きちんと花を咲かせる立派な被子植物である。「下の写真と絵」  ところで、この蛾の幼虫がどのようにして水中に潜り呼吸をし、どのようにカワゴケソウを食べるのかほとんど見た人は居ない。たぶん蛹になるときは水中から出るはずですが、一度観察したいものである
カワゴケソウのような珍しい植物を餌にしているため、この蛾も非常に珍しい蛾となり鹿児島県の二、三の川の近くでしか採集されてなくてカワゴケソウと一緒に絶滅瞬前といえる。最近、カワゴケソウの発見されていない川の近くでこの蛾が採集され、あらためてこの川を調査したところ未発見のカワゴケソウが発見されたという出来事があり、未発見のカワゴケソウの産地を探すのにこの蛾の採集が役に立つことが確認されました。



同乗員
ゴミムシ
名前はゴミムシですが、決してゴミのような虫ではありません。確かに何処にでもいてゴミに集まる虫ですが、この虫の研究家に「生きた宝石」とまで言わせるほどの美しい仲間が居るのもこの虫です。宇宙船地球号の清掃係りとはこの虫のことです。



同乗員
コガネムシ
黄金虫「コガネムシ」の仲間には本当に黄金の輝きを持つ者がいる。何故ここまで美しい色が必要なのか一見不思議に思えるが、実はこれこそ太陽光の強い熱帯地方における最高のカムフラージュなのである。またこの仲間にはフン虫というファーブル昆虫記に出てくるフン転がしの仲間もいる。もし彼らが地球号にばらまかれた様々な排泄物を分解してくれなければ、この地球号は終いにはフンに埋もれてしまうことであろう。
   「クロウサギの隣人」マルダイコクコガネ
南西諸島で特異なものは奄美大島のマルダイコクコガネで、甲虫の中には後翅が退化している場合に肩部がくびれていることが多いが、この甲虫もその例である。日本産のデイコクコガネ属の仲間の五種の内四種は大陸系で、マルタイコクコガネは南西諸島が大陸とつながっていた時代にやってきて、奄美大島で特異な進化をとげたのであろう。マルダイコクコガネは奄美大島ではアマミノクロウサギのフンを主に餌にしておりクロウサギの生活圏に彼らも生息しているという。
 3月〜10月に発生  奄美大島、徳之島に局地的に分布する 
奄美大島と徳之島に局地的に分布するマルダイコクコガネは、主にアマミノクロウサギのフンを餌に細々と生き延びてきたと言える。もしクロウサギがマングースの為に激減するようなことがあれば、まず先にこの虫が確実に絶滅するであろう。私が奄美大島に行くようになってからこの8年程の間に林道なら何処ででも見られたあの小さな可愛いクロウサギのフンが最近次第に見られなくなり、ここ2,3年ではコップトラップの餌に使うためクロウサギのフンを真剣に探して見ても全く見つけられない状態になっていて非常に気になります。クロウサギの生息場所で有名な湯湾岳山頂付近「上の写真」の小さな神社前の広場でも最近では全くフンを見かけなくなりました。マルダイコクコガネは生き延びているのでしょうか。
の「上の写真」林内に猛毒ハブと共にひそむ彼らは、名前の通りダイコクコガネの中でも特に体が丸く羽が退化していて飛ぶことは出来ないと思われる。私が初めてクロウサギのフンを餌にコップトラップで採集した時、全くマルダイコクコガネのメス気づかずに、フンごと捨ててしまうところでした。この虫が丸まった様子は形といい大きさといい色といいクロウサギのフンそっくりでした。明らかにフンに対して擬態しているとしか思えません。




同乗員
トンボ
この虫ほど巧みに空を舞う生き物は居ない。ある時は瞬時に補注網をかわし、ある時は空中静止して獲物を待つ、その姿は正しく空を制する王者の技である。



同乗員
その他の虫

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