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「樹上で花咲く幻の」ヘツカラン
自生地の鹿児島県大隅半島の辺塚にちなんでこの名がある。
樹上着生種。花穂が垂れ下がる野生ランでは珍しい花色は、白地に紫の線が〈っきりと流れた特異の配色。
〔分布〕 九州大隅半島の一部や日本南西諸島の一部に希産する。
〔自生状態〕 常緑樹林内の木の叉や、太い横枝に着生している。樹上に生えたコケやシデの根塊の中や、席木の中に根を伸ばし、根が露出した状態にはほとんどならない。
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素晴らしい大自然、原生の照葉樹林がそのまま残る鹿児島県肝属郡内之浦町辺塚、その辺塚の地名にちなんでつけられたヘツカラン、今やこのランは辺塚周辺から佐多岬「日本最南端」までの間のわずかな原生林と種子島の一部に産するのみとなりました。私がこのヘツカランを求めて初めて辺塚の川を歩いたのは10年ほど前のことです。最初見つけた川沿いの倒木に付いた小さな株に、手が震えるほど感動したのを覚えています。ヘツカランは原生林の森にある大きな巨木の10メートル以上高い所にしか花を咲かせません。その根を巨木の洞の中に張り巡らせささやかな栄養をとって何年もかけて成長します。風と霧と太陽が好きな植物です。 |
8年ほど前、もう1つの産地である種子島にヘツカランを探しに行った事があります。かなり真剣に探しましたが結局見つからず、この島にはほとんど原生林は残っていませんでした。やはり辺塚の原生の照葉樹林はかなり貴重なものだとあらためて感じた。辺塚の森では朽ちた倒木「上中央写真」やその中からよくヘツカランの根「左下写真」が見つかることがありますが、特に台風が通り過ぎた後など大きな木の周辺に朽ちた木とヘツカランの大きな株が一塊になって落ちています。しかし、地面近くにある株から花が咲いているのを見たことがありません。たぶん成長できずに枯れてしまうのでしょう。やはり風と太陽の強い光が必要なランなのです。 |
ヘツカランの着生する森に10月下旬頃に来ると、高い木の上で優雅に揺れている下垂型の白に赤筋の入った見事な花を見ることが出来ます。「中央上写真」、他にも同じように着生しているのがよく見られる「オオタニワタリ」というシダがありますが「右上写真」この二つが同時に1本の巨木に着生していたりするのを見つけるとあまりの素晴らしさにもう言葉もありません。後はこの森が何時までも原生林のままで残されることを願うだけです。 |
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