宇宙船地球号の同乗員たちは大きく分けて「動く者」と「動かざる者」に分けられる。「動かざる者」の代表が植物たちであるが、彼らは動かない代わりに自らを多種多様に変化させ、いたる所に適応させて生活している。結果彼らはこの地球号の全てを覆い尽くしてしまったと言える。それなのに彼らの名前は何十年も同じところで一緒に過ごした人々にさえほとんど知られていないほど関心をもたれていないのはどうしてでしょう。「雑草」だとか「名もない花」などと呼んで欲しくない。ですからこんな彼らの中から忘れられない変わった仲間を紹介していきたいと思うのです。

同乗員
ラン
花を咲かせる植物は単子葉と双子葉に2分類される、その単子葉植物で最も進化しているのがラン化植物だと言われている。世界中で2万種とも言われ、国内でも263種が確認されている。この種ほど色、形、大きさ、と様々に分化している種も他にない。またランに魅了された人は多く、熱心なコレクターによる改良品種も特に多い
    「樹上で花咲く幻の」ヘツカラン
自生地の鹿児島県大隅半島の辺塚にちなんでこの名がある。
樹上着生種。花穂が垂れ下がる野生ランでは珍しい花色は、白地に紫の線が〈っきりと流れた特異の配色。
〔分布〕 九州大隅半島の一部や日本南西諸島の一部に希産する。
〔自生状態〕 常緑樹林内の木の叉や、太い横枝に着生している。樹上に生えたコケやシデの根塊の中や、席木の中に根を伸ばし、根が露出した状態にはほとんどならない。

素晴らしい大自然、原生の照葉樹林がそのまま残る鹿児島県肝属郡内之浦町辺塚、その辺塚の地名にちなんでつけられたヘツカラン、今やこのランは辺塚周辺から佐多岬「日本最南端」までの間のわずかな原生林と種子島の一部に産するのみとなりました。私がこのヘツカランを求めて初めて辺塚の川を歩いたのは10年ほど前のことです。最初見つけた川沿いの倒木に付いた小さな株に、手が震えるほど感動したのを覚えています。ヘツカランは原生林の森にある大きな巨木の10メートル以上高い所にしか花を咲かせません。その根を巨木の洞の中に張り巡らせささやかな栄養をとって何年もかけて成長します。風と霧と太陽が好きな植物です。
8年ほど前、もう1つの産地である種子島にヘツカランを探しに行った事があります。かなり真剣に探しましたが結局見つからず、この島にはほとんど原生林は残っていませんでした。やはり辺塚の原生の照葉樹林はかなり貴重なものだとあらためて感じた。辺塚の森では朽ちた倒木「上中央写真」やその中からよくヘツカランの根「左下写真」が見つかることがありますが、特に台風が通り過ぎた後など大きな木の周辺に朽ちた木とヘツカランの大きな株が一塊になって落ちています。しかし、地面近くにある株から花が咲いているのを見たことがありません。たぶん成長できずに枯れてしまうのでしょう。やはり風と太陽の強い光が必要なランなのです。

ヘツカランの着生する森に10月下旬頃に来ると、高い木の上で優雅に揺れている下垂型の白に赤筋の入った見事な花を見ることが出来ます。「中央上写真」、他にも同じように着生しているのがよく見られる「オオタニワタリ」というシダがありますが「右上写真」この二つが同時に1本の巨木に着生していたりするのを見つけるとあまりの素晴らしさにもう言葉もありません。後はこの森が何時までも原生林のままで残されることを願うだけです。


    ナゴラン
 「まるで和製のコチョウラン」ナゴラン
自生地の一つである沖縄県名護市にちなんでこの名がある。初夏に、なんとも言えない甘酸っぱい芳香のある白い花を咲かせ、野生ン、洋ラン両趣味家に好んで栽培される。菓は肉厚でつやがあり、花も肉厚で観賞価値が高い。自生地では樹幹に下きに着生するので、野生ランとして栽培するときも、この姿を再現したい。うっそうたる森林の樹幹や横枝に、太い根でしっかりと着生している。
〔分布〕 伊豆諸島、紀伊半島、四囲、九州、南西諸島に分布する日本特産種。

鹿児島県大隈半島のナゴランの自生地、海抜が400メートルほどありいつも霧がかかっているようなところです。このあたりは森が深く直径が2メートルもありそうなクスノキが何本も見られます。林内に入るとそこは大きな空間で青空はほとんど見えず、すべての太陽光線は有効に利用されこの原生林が育っています。この森にはナゴランの他にも、フウラン、オオタニワタリ、ヒロハノカラン、ナツエビネ、ジエビネ、セッコク、ボウラン、ヘッカラン、オサラン、など多くの貴重なランやシダなどが見られます。大きなスダジイの遥か上のほう、地面から10メートル程もある当たりを良く見ると垂直の幹にへばり付くようにナゴランがぺたぺたと付いている、剥き出しの大きな気根がざらざらのスダジイの肌にまとわり付いているのが良く分かる。6月になるとこの森中にナゴランの花のさわやかな香りが漂い、近くに女性がいるのかとつい思わず振り向いてしまうようである。
ナゴランは、どこから見てもまるで和製のコチョウランである。さすがに花は小さいがその香りはコチョウランに負けるものではない。左上の写真は十島村トカラ列島のナゴランです。そのトカラの島々の中でも1番大きな中之島には、南西部にかなり大きな原生林が残されており中にはかなり大きな木も多い、ナゴランやトカラカンアオイ、オオタニワタリ、ツルラン、アコウの木やガジュマルの木などが育つ亜熱帯の森となっている。夏には不思議な黄色いノコギリクワガタが出ることで有名な島でもある。
さらに南の方に浮かぶ悪石島では、残念ながらその90%以上は伐採されているが南側の斜面にほんの1部のみ原生林が残されており、この貴重な森にほんの少しばかりのナゴランがひっそりと育っていた。本土産に比べ葉っぱが肉厚で硬く照りが強いのが特徴です。
左上の写真は中之島の周回林道です。十島村で最も大きなこの島はさすがに歩いて1周すると疲れはててしまいます。港の近くの海岸には天然の温泉があり各家庭にお風呂のないこの島の住民は、夕方になると全員この温泉に集まってきます。入浴料はいくらでもいいと書いてありましたまた。また役場の玄関前にでんとナゴランの鉢物をいくつも置いてあり見事な花が咲いてました。

「甘い香りと優雅な姿の白い花」フウラン
風のよく通る場所に生え、花が風にそよぐ姿より風蘭の名がある。肉厚で、菓先に触れると痛いほど堅い葉で、菓姿はしっかりとしており、芳香に富んだ白い花を咲かせ、花、葉、香りの三拍子がそろった非常に観賞価値の高いランである。富貴蘭と呼ばれ東洋ランの一分野であり、洋ラン界でも好んで作られ、野生ラン趣味家のみならず、ランに興味を持つ人すべてに人気がある。針葉樹、広葉樹を問わず、太いこずえい樹幹や高い梢に、灰白色の太い根を露出させながらしっかりと着生している。時には岩壁にも着生する。
〔分布〕 茨城県南部から九州にまで分布。わずかながら朝鮮半島にも見られるというが、事実上日本特産のランと呼んでよい。

鹿児島県大隈半島のフウランの自生地原生林の森(左上)、この森に育つ巨木の高いところに絡みつくようにしてフウランは育っている。中にはフウラン同士が絡み合い大きな1つの玉となって木にへばりつくこともなく空中に浮いていることも多い。毎日きりがかかるようなこの森だから生きていけるのでしょう
鹿児島県大浦町カメヶ丘の南西側斜面には上の写真のような大岩がいくつも露出してるような場所があります,この岩をはい上がっていくとそこには、上の写真のような見事なフウランの群生が見られる所がある。他ににイワヒバや珍しいオキナワチドリの群生も見られます。

氷河期の残留植物も多く残る鹿児島県大浦町の磯間岳の山頂に、高くそびえるむき出しの巨大な1枚岩がある。この岩の西側斜面のかなり高いところに所々フウランがへばりついているのが見える。黄色く干からびかけており,こんな厳しい環境にさえ適用して生きていける植物は他にはないでしょう。やはりフウランの回りには岩とイワヒバぐらいしか見られない。この磯間岳には他に朝鮮野菊、サツマイワギリソウ、サツママンネングサなどこの山にしかない珍しい固有種が非常に多い。


同乗員
樹木




同乗員
きのこ
「見るからに不気味な姿の」冬虫夏草
                  (とうちゅうかそう)
[オオセミタケ]



同乗員
草花
植物たちの中でも、中心的存在がやはり草花「草本」でしょう。その花は昆虫にとっては食卓となり、人間にとっては心の安らぎとなり、多くの動物たちにとっては食物となり、こんなに地球号で役にたっている物も他にあるまい。
 「氷河期の忘れ物@」サツマ
     イワギリソウ




同乗員
食虫植物
「動く者を捕食する動かざる者」食虫植物
モウセンゴケ



同乗員
カワゴケソウ
「絶滅瞬前の水中花」トキワ
   カワゴケソウ



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