11月になると巷ではボージョレーヌーボーでかしましいが、薩摩では10月になると焼酎の新酒が出回る。 蒸留酒は熟成させた方が円味が増し美味しくなる。 芋焼酎も当然長期貯蔵の物は上品な味わいに熟成するため、一般的な銘柄は数ヶ月は貯蔵され、あらかじめ貯蔵されている原酒とブレンドすることにより味を調整し出荷されてきた。 芋焼酎新酒は、熟成されていないまだ荒々しく初々しい味わいを楽しむことをコンセプトとした極めて特異な蒸留酒と言えよう。

  我々薩摩ジゴロは「焼酎は長ご置っとねまりはせんどんまずひんなっ!(腐ることはないが不味くなる)」と長い間信じてきた。 それは昔は濾過があまりされておらず、白い澱が見られる焼酎が殆どで、その上焼酎瓶が透明の為、紫外線により微量の高級脂肪酸成分が変質していたと考えられる。 「新しかうっがうんまか!(新しい内が美味しい)」と言うのは焼酎造りに携わる人から良く聞かされ、いわば薩摩の常識になっていた。

  しかしながら 芋焼酎新酒が製品のラインナップに投入されたのはここ4〜5年のことで、比較的新しい製品と記憶している。

     新酒の面々
 2002年の新酒。左から「桜島年号焼酎2002年」「さつま小鶴新焼酎」「さつま白波新酒」「さつま寿旬」

  焼酎好きを魅了する甘く華やかな味わい! 口に含んだときに感じるガス臭も溌剌さの顕れ、大地の恵み、微生物の恩恵を直截に思い知らせてくれるようである。 いずれの新酒も例外なく美味しい。 1杯又1杯とついつい過ぎて猛省の朝を迎えることも度々・・・。(^_^;)

  そして、新酒の旨さは県内は言うに及ばず、ほぼ全国的に浸透し、各メーカーの新製品が投入されるようになった。 それに伴い新酒の定義付けを行う動きもあるらしい。 
  すなわちその年に出来た原酒だけの新「新酒」前年の原酒をブレンドした「新酒」を激しく峻別しようと言うことらしい。 挙げ句の果ては基準に合格した新「新酒」はラベルに特別な呼称を許すらしい。

  私はこの定義付けの意味がよく理解出来ないのである。
新「新酒」は今年の唐芋から出来ているので、紛れもない新酒で、従来の「新酒」は新酒の価値としてはブレンド品だからランクが下がると言う権威主義的な格付けでもやるつもりだろうか?
  それとも芋焼酎だけに特化された「新酒」というジャンルを消費者の視点から統制し、基準に合した銘柄だけを良品として認定しようというのだろうか?

  原酒の出来は甕やタンク毎で異なり、蔵元や杜氏は色んな原酒をブレンドすることにより、変わらぬ味の製品を送りだしてきたのである。 新酒に関しても新酒の味わいがよく出ており、かつ蔵の個性や飲み易さを勘案した製品に仕上げているのであろう。 新酒の出来によっては貯蔵酒をブレンドすることもあるだろうし、逆にブレンドによってより味が引き立つこともあるだろう。 新酒として蔵元が自信を持って届けてくれた製品にこそ、うんまか!と共鳴出来る筈である。

  「あたしゃこんな暴力的な焼酎は飲みたくないけど、新『新酒』ってぇラベルを貼って貰うと、市場価値がグンと増すらしいよ。」なんて嘯く蔵元が出てきたり、「新『新酒』の時期に間に合わすために、7月にまだ熟していない唐芋を掘っちゃったよ。」なんてぼやきが聞こえて来はしないだろうか。

  このような定義付けは旨い焼酎造りを目指す蔵元のフリーハンドを奪うことにならないかと危惧している。

  小賢しい理屈や格付け権威よりも、うんまか焼酎を飲めればそれで幸せというのが薩摩焼酎ノンゴロの本音と考えるが如何だろうか。



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            平成14年11月24日