お酒に酔うと色んなクセが出てくる。笑い上戸、泣き上戸、やたら女性を口説きたくなる人、饒舌になる人、寡黙になる人等々。 これらのクセはあまり人に迷惑を掛けないから良いのだが、ヤマイモほり(怒り上戸)だけには座が白け、何度もイヤな目に遭わされている。 なかには傷害事件にまで発展する恐ろしいケースもあるらしい。
  アルコールは脳に入ることを許された数少ない薬物の一つであり、薬理作用は麻酔薬と同様中枢抑制である。 抑制されているのにヤマイモほりのように暴れるのは不思議かも知れないが、中枢抑制薬はまず大脳の一番外側の新皮質と言われる、高次な精神活動の司令塔とも言うべき所から効いていく。 これと対照をなすのは大脳辺縁系と呼ばれる部分であり、食欲及び、性欲等動物活動の基本的な欲望を司っている。 新皮質は常に辺縁系に対して抑制的に働くために、酒池肉林なんて羨ましいことが、通常の理性を持った我々には到底体験できないのである。(^_^;)
  アルコールはこの新皮質を抑制するため、新皮質の呪縛から解き放たれた野生の如き大脳辺縁系が大いに生き生きしてくる。 酔って出てくるクセは全てこのメカニズムによって引き起こされる。 裏を返せば、酔ったときのクセはその人間の潜在意識そのままであり、本性と言えなくもない。
  ヤマイモほりは常日頃抑制された不満や怒りが前面に出るため、情動は極めてストレートで激しいものになる。 人間誰しも大なり小なりの怒りは抱えているが、それがヤマイモほりの様に酔ったときに爆発するのは、平時が如何に自己抑制をしているかの現れであり、このような人は大人しく自己主張が大の苦手である場合が多いようである。

  ヤマイモほりと似たようなことが医療現場で起きることもある。
  恐怖心が極端に強い人の歯科治療に笑気鎮静法というのがある。
これは麻酔ガスの笑気を低濃度で吸入させ、睡眠一歩手前の外界からの刺激に鈍くなる程度にまで麻酔をかけ、患者の不安を取り除き治療する方法である。 まず最初に新皮質も麻酔されるために、程度の差こそあれ興奮期が観られる。 酷い場合は治療中に暴れたりする。性的な情動の強い女性患者では、術者より性的辱めを受けたと妄想して訴えるケースもある。
  また老人性痴呆症に陥った高齢者の中には性的に執着される方も見うけられる。 普通の人は高齢者が何故?なんて思うかも知れないが、痴呆はまず大脳の外周新皮質から来るため、大脳辺縁系に対する抑圧が効かず、看護婦さんのお尻を触りたくなるのである。
  だから高齢者に対しては性をタブー視するのではなく、人間の尊厳の一部としての配慮が必要となってくる。 これはある高齢者施設の方から聞いた話だが、最近は高齢者施設に於いても愛を語り合える個室の必要性が認識されてきているらしい。
  今回はヤマイモほり発生のメカニズムについて脱線しながら書いてきたが、次回はヤマイモほりへの対処法について考えてみる。


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         平成13年3月24日