薩摩焼酎巡礼


  (株)尾込商店

   川辺郡川辺町平山6855−1
     Tel 0993−56−0075
訪問日   平成14年10月19日(土)
        午後3時
尾込商店入り口
尾込商店入り口。左奥が仕込み蔵、手前は瓶詰め。
  知覧醸造を離れ、マルダイさんの車は時折激しく降る雨なか一路川辺尾込商店へ。

  尾込商店は川辺町の街の中にある。街の中と行っても田舎のことなので、僅かばかりの商店と住宅が密集しているだけなのだが、比較的閑静な地域に、ちょっと眼には焼酎蔵とは思えないような雰囲気がある。
  と言うのも小生今まで何回もこの辺りを通ったのだが、ついぞその看板存在に気付かなかった事からも、そのひっそり度が解ろうという者である。 
 #単に注意力散漫との意見もあるが・・・(^_^;)

  生け垣にはいぬまきの木が植えられ、如何にも南薩の風情が漂っている、同時に芋焼酎造りの芳香も・・・。(^_^;)

  
唐芋の搬入風景
唐芋の搬入。ベルトコンベアーで洗浄槽に運ばれる。

  我々が到着したとき丁度、唐芋の搬入が行われており、ベルトコンベアーに移し、芋洗い機の中に投入する所であった。 若き蔵元尾込宜希氏は陣頭指揮と言うより、自ら身を粉にしてから唐芋と格闘しているように見えた。(^^)

  聞くと唐芋は全て頴娃町の契約農家に委託しているとのこと。 豊饒な土壌と燦々たる陽光が育てた滋養たっぷりの南薩摩産唐芋は、最上級の折り紙付きで、旨い焼酎を造るための必須条件と言えるかも知れない。
 また、知覧醸造と同じく、唐芋の処理には神経を使っており、痛んだ箇所、泥土の落ちない部分やヘタは丹念に切除された上に、半分に切断され、効率よく蒸されるようになっていた。

処理済み唐芋の前の尾込宜希社長
処理した唐芋をバックに尾込宜希氏。
  事務所に通されると、同じ敷地にあるご自宅のお母様をインターフォンで呼ばれた。 
  お母様を紹介されたとき、その若さと美しさに一瞬ドギマギしてしまった。(^_^;) まあ、尾込氏の年齢を考えると、小生とさほど違わないお年とお見受けした。 「宜(よし)ちゃん!」と氏を呼ぶのも、何とも微笑ましい。(^^)
  尾込氏の純朴で飾らない人柄も、おっとりとして上品なお母様から受け継いでいるのであろう。

  事務室のソファーでお茶を飲みながらお母様を交えて色々お話を伺ったのだが、何かしらアットホームな雰囲気に、初対面とは思えないような親近感を憶える。

  また尾込氏とも今年の3月川辺町岩屋公園で一緒に飲ン方をしており、蔵元と一焼酎ノンゴローと言うより、仲間のような連帯意識があるから不思議である。(^_^;)


  
「寿」ホーロー看板
懐かしさの籠もる看板
試留機
事務所奥にあった試留機。
何かしら楽しそうな・・・(^_^;)
工場の賞状
 工場入り口に掲げられた表彰状の数々。
最初に「寿」が大ブレークしていることに水を向けると、親子共々全くそんな実感はないそうである。 肝心要の地元川辺町での消費が低迷しているのがその主な理由であるらしい。 やはり遠く離れた評価よりは身近の評判が気になるらしい。 数年程前まで、小生の行った川辺町の飲み屋では、殆どが「寿」「八幡」だけだったと記憶していたのだが、現在では大半が北薩系の著明銘柄だけか、かろうじて「桜島」程度まで置いてある店がほんの少しとのことである。
  小生は川辺町は加世田市と異なり地元の焼酎を大切に可愛がっていると確信していただけに、大きな衝撃を受けた。 

  如何に焼酎ブームと言えども、やはり経営の基盤は地元消費を第一としないと、ブームに依存した経営では、バブル後の日本経済のようになりかねない。

  我々がこんなに高く評価する「寿」も地元では、「辛い!臭い!」などと無知蒙昧な発言が飛び出すらしい。 挙げ句の果て、薩摩の至宝と文化財指定に匹敵する出色のラベルに対しも、「古くさい!ちった垢抜けたとに変えんかよ!」等と罵詈雑言の限りを尽くす輩もいるらしい。(-'-)

  焼酎に限らず日本酒でも地元の蔵は有名蔵から数段低く見られ、かえって都会や余所での評価が高い現象があると聞く。
 
工場内全景
手前が芋蒸し器、奥が貯蔵タンク。コントラスト補正した。

  酒造りは農業など自然資本に立脚した物造りであり、やはり地産地消が大原則であろう。  地元の銘柄に振り向かせるにはどうしたらいいのだろうか? 身近に気だての良い娘がいるのに、グラビアのボインちゃんやスターばかりに憧れる軽薄さと同じ病理なのだろうか?

  だいたい町おこし・地域の活性化等と美辞麗句を並べて立てて於いて、地元産品を愛用しないなんて言語道断、非国民的所行と断罪せざるを得ない。(-'-)
  これは一酒造所の努力云々をはるかに超越しており、行政及び商工会も今までの冷淡無責任な姿勢を猛省し、不退転の決意で地元の小さな産業を育てて欲しいと切に願って止まない。
  
一次醪
 黒麹一次醪。

  今年の予定出石量数は昨年より増えて400石とのことであり、やはり消費が上向きと思いきや、最盛期は700石以上生産していたそうである。 
  400石・・・38度原酒4万升・・・25度一升瓶に換算して6万本。 アンカウンタブルな数字に思えるかも知れないが、一升瓶の標準価格1620円で、工場出荷価格は1100〜1200円程度だろうか。
  1200円X60000=7200万円 。 約7000万円の売り上げの中から酒税や材料費・経費を考えると・・・、お母様の危惧も実感出来る。 薩摩の蔵はかくも零細なのである。
  薩摩の焼酎飲んごろ達よ、今こそ立ち上がるときだ!・・・て、あまり過ぎると病気になってしまうけど・・・(^_^;)

  事務所には「寿」のホウロウ看板が掛けられて、奥に試留機(醪から試験的に蒸留して酒質を調べる装置)置かれている。
    
当日仕込んだ二次醪
今朝芋掛けした二次醪。発酵が旺盛。

  いよいよ蔵見学である。 お母様は「うちのような小さな古い蔵じゃ恥ずかしい。」などと謙遜されるが、そう言う薩摩の典型的かつ、小さくても地道で良心の塊のような蔵を紹介したいのですよ、と答える。

  事務所からドアーを開けるとそこは薄暗い蔵だった。(^_^;) この日はあいにくの雨だったせいもあるが、本当に薄暗くてストロボを炊いても6m程先は写真には写りそうもない。 まあ、酒造りには暗い蔵の方が好都合なのだろうが・・・。(^_^;)
 
  蔵の入り口、壁一面におびただしい数の表彰状が掲げられている。 なかには古すぎて変色している者の多数あり、美味しい焼酎造りに真摯に取り組んだ歴史と誇りを感じさせられる。
  
二次醪に櫂入れする尾込市
 二次醪に櫂入れする尾込氏。

  工場は焼酎工場特有の2層構造になっており、タンク上部には金網板が敷かれており、清潔かつ安全に作業が出来るようになっている。 しかし、敷き板の幅がちょっと細くて、小生のようなおんじょはバランスを崩して、仕込みタンクの中にドボ〜ンなんてことになりそうな・・・。(>_<) 何かしら歳とともに高い所に不安が・・・。(^_^;)

  仕込みは10月1日から始めて11月いっぱいまで続くそうである。 今日午前中に芋掛けを行った二次醪が既にブクブクと活発に唐芋を食い始めている。 もう少し経つと発酵の勢いで醪自らが対流するらしく、夜の工場内にはゴ〜〜と言う対流の音がこだまし、蔵に入った当初は少々不気味だったと尾込氏の言である。
  
蒸留機
2連装蒸留機。渡りが特長らしい。
  
  我々と話しながら、尾込氏がこの醪に櫂入れを行った。 櫂を引き上げるときに沈査していた下の醪がドバドバドバと湧き上がってくるようである。 あまりにも鮮やかな腕前に、またもや櫂入れをやらせて欲しいとは言いそびれてしまった。(^_^;)

  工場に入って右手に2次仕込みタンク列があり、その奥が瓶詰め場になったいる。 
  二次醪は芋掛け9日目で蒸留されるが、蒸留機は工場の奥に2連装に鎮座していた。 渡りの部分が尾込商店の特長らしいが、小生にはどの様に違うのかがよく解らなかった。(-_-?)
  蒸留機の手前に原酒タンクの列がある。 容量7000Lのタンクが計10個程設置されていた様に記憶している。

  で、お約束の試飲である・・・。\(^o^)/
  尾込氏が先日蒸留した検定前の白麹の38度原酒を汲み出し、コップに半分程注いで下さった。
  先の知覧醸造の原酒同様、荒々しさをあまり感じず、既に深みのある味であり、このままでもゴイゴイ行きそうになる。 「いや〜、よかな〜!もう既に寿の形になっちょいもんど!(*^_^*)」等とほざきながら、結局一人で全部飲み干す。 これは試飲じゃなくてやはり飲酒ですな。(^^ゞ)

原酒タンクの油成分
貯蔵タンクに浮いた油成分。
  
    マルダイさんが原酒表面に浮かぶ油成分を掬い取り、試飲を勧める。 ちょっとアクが強いけどあんまり嫌いじゃないかも・・・。 何かしらこの頃焼酎を溺愛するあまり、焼酎に関すること何でも受け入れられるようになったのだろうか。(-_-?) まあ、これも焼酎の味の内だから良いでしょう。(^_^;)
  
  尾込商店では、この油分を掬い取るぐらいで、濾過は最小限に止めているとのことであった。

  3人でたわいのないことまで色々喋っていると瞬く間に時間は過ぎてしまう。 その間、蔵元は造りの指示や掛かってくる電話で色々忙しい。 もっともっと蔵の雰囲気に浸っていたかったが、尾込氏を解放し、来客の応対に忙しいお母様にはお礼も言い出せずに、帰途に付いた。
  朴訥として真面目な好青年が薩摩の伝統的且つ家庭的な酒造所を継ぐ。 若い蔵元を何とかもり立てようとする周囲の思いやり、そして蔵には心を浄化するような暖かい空気が対流し、何かしら懐かしさを感じずにはいられなかった。 「寿」の濃醇な旨さはこの蔵ならではの産物と大いに納得した次第である。
  また同時に、ヨクロボの力はあまりにも微力ではあるが、精一杯この蔵を応援したいという闘志が沸々と湧き起こったの事実である。


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