薩摩焼酎巡礼


  吹上焼酎(株)

   加世田市宮原1806
     Tel 0993−52−2765
訪問日   平成13年12月1日(土)
吹上焼酎工場全景
 仕込み蔵
  
  前の週の土曜日、吹上浜海浜公園へのウォーキング帰り、「古薩摩」購入のため吹上焼酎に立ち寄った。 その時工場の方からえもいわれぬ芳香が漂い、吸い寄せられるように蔵の中に足を踏み入れていた。(^_^;) しかし、カメラを持っていなかったため、親切に応対して下さった若い工員さんに次週土曜日の訪問の許可を得て、期待に胸膨らましながら引き上げてきた。
  小心者で人見知りの激しい小生は現場の人に邪険にされるのを危惧して、同社員で長男の同級生のお父上である下別府氏に連絡をすると、その日は丁度宿直で工場内を案内して下さるとのことであった。\(^o^)/

  午後1時半頃工場を訪ねると下別府氏がいつも通りのにこやかな顔で出てきた。
  吹上焼酎の蔵は3階建てになっており、今まで訪れた蔵の中では最も容積が大きい。 まず蔵の入り口でスリッパに履き替え、狭い螺旋階段を上って3階に案内された。

製麹機
 河内式回転ドラム及び通風製麹装置




  そこには巨大な製麹装置が鎮座していた。
ここでは新潟破砕米を麹米として使用しているとのことであったが、1回に米1トンを浸析、蒸し及び冷却した後、1Kgの種麹を加え、温度を35度前後に保ち1昼夜置くと聞いた。 他にも焼酎酵素を賦活化するために途中37〜38度に温度を上げると聞いたが、装置の巨大さに度肝を抜かれ記憶が定かでない。(^_^;)

本製麹の三角棚
 本製麹中の麦麹




  翌日、麹米は2階に落とされ、三角棚で本製麹に移る。
ただ、仕込みタンクの数量の関係で本製麹は500Kgずつに分けられ、残りの半分は一日ずらして行われる。
この日は麦麹の製麹中であったが、麹麦に手を付けると暖かく、麹菌が良く繁殖していることが一目瞭然であった。
  ここの温度は麹がクエン酸を沢山作れるように34〜35度に保たれ一昼夜過ごす。
翌朝はいよいよ出麹で1階の一次仕込みタンクに落とされる。

一次醪
米焼酎用の一次醪
二次醪
栗黄金の二次醪
二次仕込みタンク
 二次仕込み用のタンク列



  一次仕込みは5〜6日。 2次仕込みは8日間行われるとのことであったが、芋焼酎の2次仕込みは一昨日が最終とのことであり、一次仕込みタンクには、米焼酎用の一次醪が入っていた。
  今二次仕込みに入っているのは、黒麹仕込みの栗黄金とのことで、タンクからは甘い芳香が立ち上ってきていた。

  二次仕込みタンクは約5,000L容量で稼働中の物が8個並んでいた。 先週来たときには仕込んだばかりコガネセンガンの二次醪が踊るように活発に呼吸をして、タンクの外に飛び出しそうな勢いであったが、仕込み数日経つと発酵は大分落ち着くようである。

  貯蔵用タンクを案内して貰ったが、貯蔵庫は工場構内に散在しているらしく、蔵に隣接している貯蔵倉庫に通された。
 吹上焼酎ではやはり麦焼酎の生産量の方が多いのか、ここは麦焼酎の貯蔵タンクであった。
  芋焼酎の貯蔵庫にひっそりと眠る芋焼酎原酒の試飲を目論んでいたのだが、少々当てが外れた恰好である。 これ以上わざわざ鍵のかかった倉庫のシャッターを開けさせるのは気が引けたので、芋焼酎の貯蔵庫までは言い出せなかった。(^_^;)

原酒貯蔵庫
貯蔵用のタンク。麦焼酎原酒が入っていた。


  しかし検定室の前で栗黄金で出来た原酒を試飲させて頂いた。(^_^)v スッキリとした甘味とコクが特長で、なかなか期待が出来そうである。

  最後に瓶詰めラベル貼りラインを案内された。 この日は休みのためラインは動いていなかったが、やはり今まで見た中では一番大がかりな工場のように思えた。 倉庫内には出荷を待つ箱詰めされた焼酎が山のように積まれていた。


瓶詰めライン
 手前がラベル貼り、左端が瓶詰め。


 
  2階は事務所兼販売所になっており、商品化された焼酎の空き瓶がずらりと陳列されている。 とても数えきれる量ではない。 芋、麦、米等様々な焼酎の殆どがプライベートブランドであろう。 大関酒造の子会社として全国的に販売網を広げているのが一目瞭然である。

吹上焼酎のラインアップ
 売店に陳列された製品群

  このだだっ広い工場の中で下別府氏と本音の話をしてみた。 氏は長崎県のご出身とお聞きしたが、いつものダイヤメには何を飲むのかお聞きすると、「芋ですよ!」と予想通りの返事であった。 「芋に慣れるともう麦とか米には帰れませんよ。」等と芋焼酎フリークとしては涙の出そうな発言まで飛び出してしまった。

  そして、本当は濾過を最小限度に止め、芋の馥郁たる薫りを前面に出したクラシックな焼酎も造りたいらしいが、白濁した澱(いわゆる焼酎の花ですな)に対する偏見は全国的には根強いらしく、品質管理に対するクレームという面で踏み切れないと忸怩たる想いの様であった。

 
下別府氏
 蒸留機の前の下別府氏。

  お話を伺っていて、薩摩酒造の方も焼酎の濁りを盛んに気にされ、以前その為に「さつま白波」に対してかなりのクレームが来たと話されたことを思い出した。 心ない人が清酒と同様の感覚で焼酎が濁っていると騒ぎ立て、酒蔵所の屋台骨を揺るがしかねない暴挙に及ぶご時世である。 現在のようなディスカウントショップやスーパー等が酒類販売の主流になりつつある流通形態では特にその危惧が強くなるだろう。
  職人の五感を研ぎ澄まされ世に送り出された製品は、やはり対面販売で長短説明を受け、期待と納得の上購入するのが理想であろう。
  「やっぱいちゃんとお客さんにきちんと説明の出来る酒屋さんにだけ卸すということで、我々地元のおんじょ(年寄り)向けの焼酎を造らんですか?」と尋ねたとき、下別府氏の顔が無言のまま明るく輝いたのを見逃さなかった。(^^)

  経緯は知らないが吹上焼酎が大関酒造に買収されて久しい。 従来からの社員はあらかた退職し、焼酎造りに困窮したと言うような噂も聞いたことがある。 現在は5名の造り専門の社員が切磋琢磨して焼酎造りに励んでいる。
  確かに伝統の継承という面での断裂は避けようもない事実かも知れないが、どの様な形で有れ吹上焼酎がこの地に止まり、焼酎造りを脈々と継続していることに一焼酎ファンとしても、また加世田ジゴロとしても敬意を払わざるを得ない。 そして、若く瑞々しい感性と、大企業の俯瞰的視野を持った経営戦略に、新しい芋焼酎の価値創造と市場開拓を期待する気持ちにもなる。
  下別府氏の柔和で真摯な話しぶりに接し、焼酎造りに日夜精進する職人とそれを見守る暖かい環境、そして何より焼酎を愛して止まないノンベーがいる限り、企業の形態如何に拘わらず、響き合う絆がより強固になれると確信した。
  今度は吹上焼酎の社員との合コンでノンベーの愛酎精神を見せつけなくては!(^_^;)v

  

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