(虫歯歯周病にならないで、頭も良くなる方法を教えます)
秘伝「かむ健康術」 その4
著者 市来英雄
@ 古代人には、むし歯はあったのか?
グルメは? その謎解きの旅
今からおよそ一万年近く、正しくは紀元前8000年から紀元前200年ころまで存続していた文化が縄文文化時代でした。
その次からが弥生文化時代に移行しました。
はたして、その時代に生きていた人たちはどんな顔つきで、どのような生活をして、
どんな食べ物を食べ、また、どのような歯をしていたのでしょうか?
これから古代へ旅しながら、その謎をといてみましょう。
鹿児島市の中心には、黎明館(れいめいかん)という鹿児島県立の歴史資料館があります。
入り口から入るとすぐに親子のブロンズが目につきます。
それは、「縄文人の親子像」といって、鹿児島県の薩摩半島の中央に位置する市来町で、縄文時代中期以降
(今から約3千年も前)の市来貝塚から発見された人骨をもとに復元された縄文人の親子像です。
ブロンズ像の製作者で、長崎大学医学部第二解剖学の内藤芳篤教授は、
「縄文人の顔つきはホリが深くて鼻が高いのが最大の特徴です。
平均身長は、男性で157センチ、弥生人に比べて4.5センチ低く、顔は、鼻根部がへこみ,
眉のあたりの骨が隆起してかなりでこぼこが激しい。
市来貝塚の人は、163.46センチでかなり身長が高いノッポです」と、話してくれました。
歯について聞いてみると、「歯並びはきれいですが、かなりひどいむし歯にかかっていました。
考えてみると、市来貝塚の人々は,当時煮たり焼いたりのかなり高度の食生活だったのでしょう。
それは、デンプン質の食物をとっていたということもうかがえます。
前歯は上と下の歯が先端で接触するという,爪きりのようにかみ合う形で、
前歯を良く使う噛み方の食物をとっていたことも考えられます」と。
前歯を良く使い前歯を使って粉砕する噛み方というと木の根や実です。
彼らは、デンプン質の食物と木の実、そして果物も良くとっていたということなのでしょうか。
縄文時代草創期・早期には、縄文人にはむし歯はほとんどみられませんでした。
しかし、縄文時代前期以降には、むし歯は一般病として広がり、むし歯罹患率は9.5%に達していたという説もあります。
デンプン質、つまり糖質は、むし歯の発生菌を育てるには非常に格好の食物です。
果物の果糖もむし歯の発生の速度はデンプン質よりも遅いのですが、
やはりむし歯を発生させます(文明食がむし歯を発生させるということは、他の章で詳しく述べた)。
さらに弥生時代になると、むし歯は急増して、19.8%になったと考古学者の佐原真氏らの説があります。
弥生時代からは農耕開始と糖質などの米食普及がかかわっているからではないでしょうか。
さて、鹿児島県では最近,まさに内藤教授の説を解き明かしてくれるような、
そして、縄文人の生活を現出してくれている遺跡が発掘されました。
これはいま、国内はもとより世界中の話題にもなっています。
鹿児島県本土の中心部に位置する国分市の高台に、縄文時代早期、つまり約9500年前の、
国内で、最古で最大級の集落の後が発見されました。
この遺跡は、その地名の名をとってすぐに、「上野原遺跡」と命名されました。
この遺跡の発掘で、集落民の生活様式が次々に解明されています。
残念ながらまだ人骨や歯は発見できていません。というのは、この地区は、鹿児島県独特の火山灰土質です。
火山灰の化学反応で、骨や歯の成分のカルシウム,リンなどの石灰分が他の土質よりも早期に溶解してしまったからでしょうか。
もし、人骨や歯が発見できれば、市来貝塚のような人間そのものの研究が大いにできるはずです。
ししかし一方、そこに積もった桜島からの火山灰で、集落の保存には大いに貢献してくれました。それは積もった灰と遺跡とはすぐに区別できるし、簡単に掘り進むことができたからでした。
発掘が進むにつれて集落の中での人々の暮らしぶりが浮き彫りにされてきました。
そこで出土した物品、集落の作りなどを調査してみたら、村人の暮らしはとても豊かなもので、
みんなで力を合わせた多くの生活の工夫を垣間見ることができました。
やじりを用いて狩や漁をして、持ちかえった獲物を調理して燻製品を作っていた証拠も、肉や魚を石で蒸し焼きにするための石場や、そのほかに調理をするためのいろいろな道具も、木の実などでパンやクッキーを作っていたこともみつかりました。
私たちが考えていた縄文時代というイメージ以上に人々の生活は豊かで,頭もよかったということがうかがえます。
A 日本型食事から欧米型食事へ
厚生省の食生活指導のハテナ?
現在、日本は世界一の長寿国として、その存在を世界に示しています。
その最も大きな理由として考えられるのが食生活で、長寿との関係について世界中が注目しています。
これまで、日本型食事は欧米型食事にくらべて成人病予防の観点からすぐれているといわれ、
ヘルシーフーズとして世界的に日本食ブームをもたらしました。
しかし、近年日本人の胃ガンの発生率が急激に低下しつつある反面、大腸ガンや乳ガンの発生率は増加して
欧米と似たような状況になっており、日本人の健康や長寿が懸念されています。
その最大の原因は、食生活が欧米化してきたことにあると、多くの専門家や医師は指摘しています。
食生活の欧米化とは、高脂肪、高タンパク、低食物繊維の食事が多くなったということです。
また、日本が現在、世界一の長寿社会をもたらせたのは、以下のような理由から起きた現象ですから、
きっと将来は諸外国から追い越される危険性があります。
それは、現在ある長寿者の,あるいは高齢者が若いときから、
日本古来から引き続いてきた穀物,野菜類、魚類などが多いの普通の食事(つまり現在から見れば粗食とも言える日本食)を
とってきたから長寿があるわけです。
しかし、現在のように贅沢で食べ放題、世界からのグルメに浸っている現在の若者の将来は、
きっと早死に追いやられ、世界一の座からずつと下方に下ろされると予想できます。
理化学研究所・培養生物部分類室長である辨野(べんの)義己農学博士は、食事の欧米化は次のような影響を及ぼしているとして、
現代日本人の食生活の見直しをするよう警告しています。
「食生活が発ガンに深く関係していることは、日系アメリカ人が一世、二世と世代を重ねるに従い、
食事が日本型から欧米型に移行し、三世では大腸ガンや胃ガンによる死亡率がアメリカ人の平均と変わらなくなる例でもわかります。
また、カリフォルニアの厳格な菜食主義者(セブンスデイ・アドベンチスト)のガンによる死亡率が、
一般的アメリカ人の30%以上も低くなっている例でも明らかです。
さらに、このような食事の内容以上に、とり方にも大きな問題が生じています。
ファーストフードが青少年層の食生活に定着していますが、このことによって、
じっくり時間をかけて食物を噛むことが少なくなったという点です。
伝統的な日本食には多くの食物繊維が含まれており、これを消化するためには、十分に噛むことが必要とされています。
噛むことはヒトの体にさまざまな刺激を与えます。
その一つとして、腸管の運動を亢進すると考えられています。ゆっくり噛んで食べることは、おなかの健康維持の面からも必要です。
いまこそ食生活の見直しを急がなければなりません」と。(社団法人日本栄養士会発行の『健康増進のしおり』 No.67)
ここで、カリフォルニアの厳格な菜食主義者(セブンスデイ・アドベンチスト=SDA)の,
ガンによる死亡率が驚異的に少ないということを、もう少し詳しく説明を加えたいと思います。
世界中に組織を持っているSDAという団体は、キリスト教プロテスタントの一つです。
すべての信者は、聖書の思想に基づき,肉体的,精神的な健康作りのために積極的です。
禁酒・禁煙を実行して,あらゆる刺激物や肉食を極力避けて、菜食を原則とする食生活が彼らのライフスタイルの特徴となっています。
厳格な菜食主義者SDAの人たちと、そうでない、喫煙・飲酒・肉食を毎日のようにとっていて、
緑黄食野菜を毎日とっていない逆SDAの人たちと比べてみました。
SDAの人たちは,逆SDAの生活をした人たちと比べて、ガンになって死亡した人は60%少なかったといいます。
もっとくわしく分析したら、食道ガン、肝臓ガン、膀胱ガンは約35%少なく、
口腔ガン,咽頭ガン、肺がんは90%低かったということが分かりました。
さらに、心臓病や、そのほかの成人病についても同様な傾向が見られたこと、
毎日肉食と、高度喫煙が重なると,乳がんが7倍高くなり、夫の喫煙本数も多くなることも、
味噌汁や緑黄色野菜を毎日食べていると胃ガンの死亡率は少ないということも分かったのでした。
以上が、SDAの人たちの教義と智恵、そして長年の実践の結果が確実に物語ってくれています。
さて、グラフは各国の脂肪摂取量と大腸ガン(結腸ガン)死亡率との関係をあらわしていますが、
脂肪を多くとっている国では、大腸ガンで亡くなる人が多いということがわかります。
世界保健機関(WHO)は、全カロリーに占める脂肪の摂取量を30%以下へ減少するように勧告しています。
欧米では、脂肪の摂取量は多く、現在37%を占めています。
日本はというと約25%で、WHOの勧告以下ですが、しかし摂取量は、しり上がりで現在もまだ増加し続けています。
とくに、アメリカではこのところ、脂肪分を減少させる一つとして日本の食生活を研究しながらいろいろなデータを抽出し、
それを健康対策の一部としていますし、後で詳しく述べますが、
「日本の食事体系に近づくように」というスローガンを掲げるとともに、そのための目標をも設定しています。
さらに、日本型食事を中心にした官民一体の栄養教育も盛り上がっています。
さて、アメリカでは、朝鮮戦争,ベトナム戦争でたくさんの若い兵士が戦死しました。
爆死や銃創や弾創で戦死した兵士は戦場では当然多いのですが、ほかに、全身の病気が原因で死んだ兵士も多発していたのでした。
これらはどうも奇妙だということで、彼らの遺体を調べたところ、
20歳代の兵士多数の心臓には6大成人病の一つである動脈硬化症があることが注目されました。
同じくアメリカ国内でも、いろいろな成人病(6大成人病は、ガン、心臓病、脳卒中、糖尿病、肝硬変、動脈硬化症をいう)も
激増していることも分かりました。そのためにアメリカ合衆国の医療費は15年で2倍近くに上昇していました。
このままではきっと将来、連邦政府と州政府の財政は破綻するのではなかろうかということが問題視されました。
このことを、アメリカ政府は重大なことと受け止め,上院では、「栄養と人間のニーズに関する特別委員会」とが設けられ、
世界諸国のありとあらゆる種類(例えば歴史的、地理的背景、人種,宗教、食生活など)を対象に調査や研究が開始されました。
もちろん日本人も対象に入っていたのです。
2年後にはその結果がレポートで出ました。
レポートは5千ページにも及ぶもので、その中に、「アメリカの食事改善目標」という今後の目標を決めたものがありました。
アメリカではこれらのことを実行するためにさっそく、多くの予算が盛りこまれました。
日本食育協会会長で栄養科学研究所所長の蓬田康弘先生は、『歯科医師・衛生士のための栄養学』(日本歯科新聞社)という
書籍の中で、このレポートを要約して次のように述べています。
「アメリカでの文明病まんえんの原因は、
@今日の文明諸国に共通する加工食品のはんらんをはじめ、食事にあること。
Aさらに、アメリカの医科大学で栄養のコースを必須の科目としている大学はわずか4%にすぎず、
現代の医療はこれらの疾患に対してほとんど無力であること。
B要は、「20世紀初頭の食事にもどれ」ということ。
C根本的な対策としては、国家的規模による国民に対する栄養教育のキャンペーン以外にないこと。
Dそして、「このままに推移すれば,アメリカそのものが病気のため経済的に破産してしまう」と警告すること。
そして,緊急の対応として食事改善の7つの目標を掲げました。
@野菜と果物を増やす。
A黒パンや玄米などの全穀物食品を増やす。
B乳製品は、できるだけ低脂肪のものを選択する。
Cマーガリンやクッキングオイルなど低コレステロールのものを選択する。
Dドリンク類は甘みをひかえたものをとる。
E牛肉を減らして鶏肉や魚を選択する。
F大豆のような植物性タンパクをもっととる。
以上が、その主な目標の要約ですが、
「振り返ってみれば、これは1950年代の日本人の食事内容とそっくりであるということに驚きを感じます」
と述べています。
アメリカ農務省は、1992年春に、栄養教育の手初めとして、新しい食品選択ガイドを作成しました。
それによると、「穀類を多めに、肉や卵は少なめに」などと欧米型食生活から日本型食生活への転換を呼びかけ、
また、一般の人にも分かり易く指導し啓発するために“食事指針のピラミッド”というのを発案しました。
それは、「穀類は何よりも多く摂らなければならない。野菜と果物はその次に多く、乳・乳製品、
そして肉や卵などは少なめに摂ること、油脂や砂糖は控えましょう」などと、ピラミッドの中に食品のイラストをはめ込んで、アメリカ国民がなすべき目標の設定がしてありました。
ピラミッドの中には食品群のイラストを、多くとるものを基礎の土台のほうに,
ひかえたいものを先端のほうに書き入れてありました。
一方、それにこたえて民間では、健康的な食事をとることや、
成人病予防の食生活のために、「世界の伝統食の見直し」に取り組みました。
その結果、最近では、心筋梗塞による死亡率を15%減少させることに成功したと発表しました。
それでは、なぜ日本は、世界中が注目している日本型食事を離れて欧米型の食事をしているのでしょうか,
このことを、後から充分に考察してみましょう。
さて、現在,日本でも若い人の動脈硬化症が増加しています。
交通事故などで死亡した若者の遺体を解剖してみると、
心臓の冠動脈や他の場所の大動脈には蓄積したコレステロールが見つかるそうです。
またこれらの現象は、胎児にも見られ10歳頃から急速に増加しだして、30歳代の心筋梗塞が増加しているといいます。
これらの事実を、東海大学医学部名誉教授で、現在、私たちの禁煙医師連盟の会長であられる五島雄一郎先生は、「30歳以上のコレステロール値は、日本よりアメリカのほうがまだ高いのですが、30歳未満では日本の方が10ミリグラムも高くなってきました。一昔は、40歳未満の心筋梗塞患者は、1970年代には大きな病院でも年間,1人か2人程度だったのが1980年代になってからは4〜5人と跳ね上がっています。
1990年代にはその倍になりました。」と警告を続けています。
それらの原因を、五島先生は、「一つには、肉食などを中心としたの欧米型食生活化の普及、二つめは、若い人の喫煙の増加です。三つめは、入試などの社会機構から受けるストレスで、次には運動不足が上げられます」と。
はて、さて、厚生省の日本国民への食生活指導対策はどのようになっているのでしょうか。
疑問を感じているのは私だけではないと思います。
B 「おふくろの味」から「袋」の味へ
食卓・食事は警告する!
「きちんとした食生活をしている子供ほど、いじめっこや情緒不安定児が少ない」と、
福山市立女子短期大学の鈴木雅子教授は、昭和61年に開催された日本栄養改善学会で、
10年間にわたる研究結果を発表しています。
鈴木教授は、昭和40年代後半から多発してきた子供たちのいじめや自殺などが、
食生活の変化と関係があるのではないかとの考えから、福山市と尾道市の1,027人の中学生を対象にした
食生活の実態調査とあわせて、健康、生活、いじめについても調査を行いました。
その結果、「インスタントラーメンや缶ジュースなどの加工食品を多く摂取する子供ほど、
そして全体に親の関心が少ない子、家族そろって食べる回数が少ない子ほど心身が不安定で、いじめに走る傾向がある。
イライラする、すぐカッとなる、根気なく飽きっぽい、自殺したいと思ったことがあるといった情緒不安定児は、
食生活のバランスが悪い子供ほど多かった」と結論づけています。
その理由として、いろいろな栄養素の不足が生じれば体のあちこちに支障が出てきます。
体力も衰えます。それを補おうとする本能から、闘争心や残虐性などが生まれてきます。
そのうえ、栄養不足は、判断力を低下させ、利己主義にもおちいらせます。
それが、いじめ、残虐性、自殺の引き金の一つに数えられるといいます。
食事するときの環境もだいじです。親の愛情の中で楽しくゆっくりと良く噛で食事をとることです。
だんらんもなく、せっぱつまった食事は、
動物が自分の食物を奪われないようにと精神状態が不安定で緊張しながら食事をとる行動と同じで、
その緊張感や情緒の不安定は以後もずっと続き、身体面にも悪影響が出てきます。
現在は、「孤食児童」も増加をたどっていて、鈴木先生の理論はますます的中していくことだろうと思います。
岡山市の三宅医院、産婦人科副部長で,私の友人でもある昇 幹夫先生は、
「頭の中の、わりと深い所には内臓をつかさどる神経のセンターがある。自律神経中枢と言われるところだが、
この内臓脳のすぐ隣に、ホルモンのセンター、そして感情の中枢もあり、食欲をコントロールしている部分もごく近くにある。
だから内臓の働き、ホルモンの分泌、感情、食欲は互いにすぐ影響を受けやすくなっている」という話から始まって
次のような実話を教えてくれました。
「第二次大戦が終わったとき、ドイツでは多くの孤児が修道院に収容されました。
終戦直後のことですからパンもバターも配給制で、どこの収容所も一人あたり手に入る配給の量は同じでした。
A修道院の院長さんは、子どもが大好きであるシスターで、子供を見ると抱き寄せてほおずりし、
スキンシップいっぱいでかわいがりました。
B修道院の院長さんは、ドイツ人らしく、子どもは小さいときからしつけが大切と、
食事のときもおしゃべりは禁物、いつも教育しようとこわい顔ばかりをしていました。
ある日、これらの子どもたちの発育度合を調査していた英国の小児科医が、あるおもしろいことに気づいたのでした。
それは、2つの修道院の配給量は同じなのに、子どもたちの身長と体重の増加には差があることでした。
笑顔のシスターの方がずっと伸びがいいのです。
ところが、6カ月たってAとBの修道院の、院長の勤務がお互いに交代になりました。
その後、半年、不思議なことにA修道院の子どもたちの方は、身長と体重の伸びが減り、
B修道院の子どもたちの方が増加し、1年後には平均値が逆転したのです。
調査した小児科医は、さらに、もう一つのおもしろい発見をしました。
しつけのきびしいシスター院長の、そばにいて食事をする8人のお気に入りは、他の子よりもちょっとだけ伸びはよかったのですが、にこにこシスター院長に代わってからはぐんぐんと大きくなっていったのということです。他の子どもたちも同じでした。
楽しい雰囲気で、また、だれと食べるかで、消化不良になるか良く消化吸収するか、こんなにちがうものなのですよ。
“ニコニコは、お料理のもう一つの調味料”ですね」と。
ある禅寺(ぜんでら)の夕食時の出来事でした。お坊さんたちが食事を楽しんでいました。
突然、「だまれっ!子どもじゃあるまいし。なんべん言ったら聞くんじゃ!」班長の禅坊の声が響きました。
みんなは、うまそうに食べていた食事が急にのどを通らなくなってしまいました。
いつもは、最後までおわんをなめるように食べていた人たちは、その日には夕食を残してしまったのでした。
否定的な言葉によって、待ち望んでいたはずのごはんがのどを通らないという生理的な影響までも与えてしまったのです。
「また、こぼしたのねえっ!」、
「こぼしてはだめじゃないの!」、
「なんだッ、うまくない、バカッ!」、
「お隣の新チャン、じょうずに何でも食べるのよッ、アンタどおしたのヨォ〜」。
案外このようなことを平気で言っている親も多いと思います。
これらは、子ども心にはグサリッと胸に突き刺さる否定的な言葉で、とたんに食欲が減退してしまいます。
せめて、食事のときぐらいは、一家だんらんのひとときを過ごせるように「肯定的な言葉」や、「ほめ言葉」を使いたいものです。
料理研究家で、作家の丸元淑生氏は、1980年代に、アメリカの少年院に収監されている少年の約8千人に、
食事から炭酸飲料水をとり去り、その代わり新鮮な野菜や果物、胚芽付でひいた粉から作ったパンなどを与えました。
しばらくすると、看守への反抗や、お互いのけんかが半減したと言っています。
また、別な少年院では、今までのとおりの食事をしていた少年300人の食事を分析したら、
少年院でも狂暴な少年には、ビタミンB群、鉄分、亜鉛などが不足していたといいます。
前の少年院では、調理をする人のおかげで、自然のめぐみの豊富なビタミンやミネラルを十分に摂取できたからでした。
さて、事故や犯罪、戦争も突き詰めてみると、みな食べ物と関連して発生しています。
最近、私の診療所では不思議だなと思える若者たちの口腔内の異変が起きています。
これらの現象は、私の診療所ばかりでしょうか。
というのは、中学,高校生を含めた20歳代前後の若者のむし歯が、早期に発生してそして極端に悪化しているという現象です。
(16歳の無職少年。シンナー臭あり) (18歳学生。清涼飲料水多飲・喫煙)
私の診療所は繁華街にありますが、近所はカラオケ店が数件開業しています。
現在,繁華街には少年や少女たちが多く集まって夜には彼らばかりの世界になってしまっています。
黄色く頭を染めた子もいます。地べたに座りこんだり、袋菓子や清涼飲料水をかかえたり,深夜までたむろしています。
もちろん,中学生も多数います。
しかし、彼らは、夜は何を食べているのでしょうか?
恐らく、スナック菓子類や自動販売機で買った飲料水で腹を膨らまし、栄養補給になる晩ご飯は、しっかりと食べてはいないのでしょう。
「驚きました。客待ち時間に見ていたら、中学生の彼らも、喫煙はするし、自動販売機の飲料水をハシゴしながら次々に飲みまくっていますよ。大丈夫でしょうか?」とタクシーの運転手さんも心配そうに話してくれました。
彼ら,彼女らが、しっかりとした生活習慣が取れていないから、きっと、歯も,身体も、精神面もボロボロになっているのでしょう。
厚生省の、平成8年国民栄養調査結果の概要から、若い世代の食品の摂取状況を見てみると、
この世代で摂取量が多いのが、油脂類、肉類でした。一方、少ないのが豆類、緑黄色野菜、その他の野菜、魚介類でした。牛乳・乳製品は、7〜14歳で多く300gを超える摂取量であるが、20歳代以降は減少して100g前後となっていました。
食生活状況では、20、30歳代の男性の2人に1人が、「食事は決まった時間にとっていない」、
「食事に十分に時間をとつていない」という結果が出ました。
また、20歳代男性の3人に1人が「欠食が多い」という結果で、女性では5人に1人でした。
話は変わりますが、平成5年(1993年)11月に大阪で、「食と農と健康を考える会」が開催されました。
その主題は「大阪の学校給食の現況」でした。
西山小学校の石橋嘉重子栄養士は、「子供の行動範囲が広くなっている。
塾や稽古事に行き、生活圏が広くなり、お金をもって行動する。
おやつやファーストフードを自分で買って食べている。
一方で母親の就労率は高くなり、母親の作る食事は見栄えや味に重点が置かれ、肉料理や油ものが多く、
献立の種類は狭まり食品数も少なくなっている。
それらの家庭では食生活も不規則。遠足の弁当を見ると、おにぎり、タマゴ、鶏肉のフライ、ウインナなどで、
ほとんどの児童も同じようである。外食産業やスーパーなどで買った弁当ではビタミン、カルシウムが不足する。
家庭で作ったのおかずや、おふくろの味で育つ子供が少なくなっているとき、
食品の数や栄養面、添加物、低農薬といった面に配慮した日本の食文化の、
最後のとりでを担っている学校給食の役割は大切だ」と訴えました。
しかし、学校給食でさえ大規模な給食センターからの配食がふえ、
地域によっては、外食産業が供給する添加物入りのパンや、半加工品、調味料などを使っているところもあり、
栄養士たちの悩みのタネになっています。
このように現代の日本人の食生活は、一昔前と違ってガラリと変化しています。
そのために考えられなかったいろいろな弊害が子供達にも出現してきています。
現代の家庭では日本風の食事がとだえ、欧米化とともに食事そのものが簡便化してきています。
調理に時間がかかるような食品や献立は排斥され、いまや「おふくろの味」は「袋の味」に変わりつつあります。
家庭での料理がおろそかにされてきている確実な証拠が、下記のような現実と資料からも判断できます。
以下の2枚の写真は、実際にあった、ある家庭での子どもの朝食の一例です。
(悪い朝食の例で340カロリー) (良い朝食の例で340カロリー)
一人の子供は、写真のように果汁入りのドリンク、キャラメル、カステラだけの朝食を摂っていました。
栄養価をみてみますと、総カロリーは340キロカロリーで、蛋白質5グラム、 カルシウム50ミリグラムでした。
別のある家庭では、写真のように、牛乳200ミリリットル、パック1個、ゆで卵1個、トースト1/2枚、
ほうれん草とトマト1/6個 という朝食をとっていました。
これはほとんどの、普通の家庭の朝食で、通常の食べ方であると思います。
二つの食事の栄養価を計算すると、総カロリーは340キロカロリーでどちらも全く同じです。
しかし、良い方の朝食では、蛋白質は3倍の15グラム、カルシウムは、なんと5倍以上の260ミリグラムで、
他に必須栄養素のミネラルやビタミンも豊富に含まれているのです。
現代は写真のような悪いほうの朝食の子どもがますます増えつつあります。
そのため、成長期の子どもの栄養摂取や、そのために起こってくる健康が危惧されています。
私も,時たまスーパー・マーケットやコンビニに行ってぶらりと一巡したり、買い物をしたりするのですが、
よく観察すると、買い物カゴを持つたりカートに子供までも乗せた母親の姿をみかけます。
つい、カゴの中やカートの買ったものに目が行きます。
かごの中には、野菜などの大きなものは目立ちません。意外と殺風景なものが多いのです。
カゴの中には、ふくろ菓子や手を加える必要でない出来合いの惣菜やその他の食品が入っていたりします。
もちろん魚はスチロールにラップがかかった手のかからない、たとえば、さばいてあり、
かっこよく装飾してある刺し身類のようなものです。
子どもも、魚はラップに入ったものとしか記憶されるかもしれませんし、
目がついている本物の魚を見たらきっと怖がるかもしれません。もう魚は、水族館でしか見られないと思うかもしれません。
また、聞くところによると、包丁一本もない若者の世帯があると言います。
グルメブームのせいか、小規模な個人経営の店が大幅に減り大型のフランチャイズ専門店の売上が増えています。
総務庁「家庭調査」の「食料費支出に占める外食費と調理食品費」の統計を見ると、1980年の統計では、外食費が13.8%、
調理食品費が5.6%であったのが、17年後の1997年には、外食費が17.7%に、調理食品費が9.4%に増加しています。
農林水産省の,食料品モニターによる調査結果では、調理食品で,とくに総菜類の購入の頻度を尋ねたところ、
「月に2~3回」と26.7%もあったといいます。
家庭での食事の方法に関する質問に対して、
「家族全員が、だんらん形式で集まって自宅で和やかに夕食のテーブルを囲んでいる」の質問には、
「週に1~2回」と答えた家族が28.4%で最も多く、「毎日のようにしている」は、26.7%もありました。
以上の事柄を分析したら、「孤食化」がますます進んでいるということが如実に表されています。また、
これらの増加の傾向は、まだまだ尻上りにあるといいます。
各家庭内の食費の詳細を調査してみても、現在では、食費に占める外食の比率は平均65%にもなっているということです。
一方、レストランでは若者たちが、たくさんの料理を食べ残して帰ることも日常茶飯事の行動になってきています。
また、外食産業や加工食品業界、スーパーや全国チェーン店は,利益をあげるために当然のことながら
安い食材を求めて世界中から輸入をします。安い食材ほど営業には負担にならないから捨てられるといいます。
スーパーやデパートなどで賞味期限切れになったり、売れ残って廃棄処分されたりする食料廃棄物も増加しているといいます。
飲食,歓楽街で捨てられるものの順位は、1位が「ご飯」、2位が「スパゲッテイ」、3位が「ハンバーガー」ということで、
ひどいものになると、釜の形を残したままの、山盛りご飯が捨てられていたともいいます。
子どもたちに今、異変が起きていると、マスメディアも毎日のように大いに報じていますし、
私たちの周辺を見回しても、このような現象は、肌でひしひしと感じられるようになってきているのではないでしょうか。
これら児童・青少年の問題は、日本ばかりではなくて国際間でもしきりに論じられてきている現象です。
それはさらに深刻化しているとも言われています。
これらの現象は、「現代文明がもたらせた影響である」と、断言している識者もいますし、
その最大の原因は,「食との関わりが深い」という栄養専門家たくさん現れています。
さて、子どもが生まれると普通なら、母親の愛情たっぷりなおっぱいを飲んですくすくと赤ちゃんは育ちます。
赤ちゃんが最初に母親のおっぱいから飲む初乳は、
病気にかからない体質を高める免疫物質やいろいろな貴重なものが含まれているだいじなものです。
また母親が抱いて授乳するというこれらの行為は,母親の愛情が赤ちゃんに肌でもって伝わり、
情操をたくましく育むためにはなくてはならない必須のものです。
しかし現代は、勝手気ままの母親が多いと聞きます。それは、母乳育児で自分の容姿が変化するのを心配したり、
シエイプアップしたりするために母乳育児をストップする母親もいるということも耳にします。
さて、おっぱい,ミルクをしっかりと飲んで離乳食も順調に進みましたし、
次に、離乳食が完了する目安の一歳半頃になりました。
この幼児食の時期になると,栄養だけの補給だけではなくて、食の文化を身につけること、
生涯の食習慣の基礎を築いていくことも考えねばなりません。
幼児は胃袋が小さいので3度の食事と、
あと2回の補食(「おやつ」と言う専門家もいるが、食を補う「補食」と言う方が正しい)の時間を作ることが普通です。
そのときにはぜひとも、栄養の補給と同時に楽しさをかねたものが必要です。
楽しければ食欲もわいて子どもは身も心も大きく成長していきます。
また、必然的に食べる量が多くなり、噛む回数も増えてきます。
乳歯のときからよく噛む、これらの動作であごの造骨細胞は活性化して,あごの骨も大きく育ち,
次に生え変わる永久歯がきれいに並びやすくなるようにあごは成長します。
このようにしながら、やがて美しい顔立ちが誕生してくるのです。
さて、補食時には不可能でも、せめて1日に2回は家族が顔をそろえた食卓が必要です。
それはだんらんの場です。家族みんなが楽しく話をすると、子どもはみんなの顔を見て人間関係を学んでいきます。
そして、子どもは親の食べ方を学んでいます。早食いの親には,早食いの子どもが育ち将来の肥満の基を築きます。
きちんと噛んで、ゆっくり、ゆったり良く噛むことで肥満は生まれないし、情緒のたくましい子どもに育っていきます。
話は違いますが、「餌」と「食事」とはどのように違うのでしょうか。
読者の皆さん方、お分かりでしょうか? さて、私の質問に、即答できますか?
「餌」とは、時間がくると、与えられ、胃の中に流し込むだけの食物のことをいいます。
あるいは、いつも緊張した状態で(人間以外の動物であれば、他の動物から自分の食べ物を奪い取られないように)食べ、
死なないようにするために必要なエネルギー源の補給をするとも言えます。
「食事」とは、人間だけができる、食べるための行為です。
それには食べるときに、だいじなマナーが加わります。家族や友人と楽しく語らいながら、
食物を良く噛みしめ、味わいながら食べることです。
そこにはだんらんや社交という精神的な安らぎや、つながりもあります。
エネルギー源の補給と同時に、心をうるおす文化があります。
しかし、現代の家庭では、餌を与えられた子供たちがひとり黙々と、寂しく、心が不安定な状態で食べて、
そして次の目的である塾やお稽古に走って行きます。
あるいは、テレビのある部屋に食品を持って閉じこもり、テレビゲームに夢中になり
ながら「ながら食べ」でエサを取り込みます。
このような「孤食」では、楽しい会話もなければ、食べ物を味わうこともなく、
まして、食べられることへの感謝も生まれてはきません。
食べ物を平気で残します、偏食します、食品や栄養に対する知識も育まれません。
それは、子供たちばかりではありません。
一人暮しのお年寄りや青年男女、学生など、日本中いたるところに餌で生きている人たちが増えています。
厚生省の国民栄養調査では、子どもだけで食事をしている、「子どもの孤食」は
1982年には2.7%あったのが、11年後の1993年には31.4%に増えました。
これは、子どもたちの3人に1人が、餌化したごはんを一人ぼっちで食べていることになります。
食事が餌化したとき、人々の心は満たされず、すさんでいきます。
日本の将来にとって非常に嘆かわしいことといわねばなりません。
「美食家たちは、自らの歯をもって、自らの墓穴を掘っている」(Estienn 1593)
これは、R.ウオルター著『犬と猫の栄養学』(日本臨床社)という本の巻頭に、
著者であるフランスのアルフォール獣医大学教授が引用した言葉です。
そして最後に、彼は「家畜肉食獣は栄養と代謝の点から、人の疾患を再現する最適なモデルである」と結んでいます。
犬の歯は、どの歯を見ても(いわゆる)犬歯です。全部の歯の先端がとがった歯で物が噛み切れるようになっています。
前から奥まで、並んでいる歯は接触せずにかなりのすき間を保っていて、上下全部で42本もあります。
生まれてからまず8週間で乳歯が生えそろい、そしてわずかな期間に抜け落ちが始まります。
そして、1カ月後から次々に永久歯に生え変わり、7カ月で全部の永久歯が生えそろいます。
人間の歯の仕組みと同じように、犬も一生涯で1回だけ歯が生え変わるのです。
犬はもともと肉食獣です。そのため、歯は肉や骨に噛み付き、引き裂くのに都合のいい形や生え方をしています。
あごは、口の開け閉めだけの上下運動を行い、
ある程度、口の中に入れた物をかみ砕いて飲み込みやすくしてからうのみにします。
そのスピードは速いです。
犬は、人間や牛のように食べ物を奥歯ですりつぶす臼磨運動(きゅうまうんどう)はせずに、
噛み切るとそのまま飲み込むだけです。
したがって、食道はたいへん弾力性に富み、唾液も多く、飲み込むのに適した構造になっています。
飲み込んだものを受け入れる胃も、消化器全体から見ると、人間よりもずっと大きな割合を占めています。
胃液は酸度が強く、pH(ペーハー)1.4~4.5もあります。
小腸はその割に短いのです。それは肉類を消化するだけで良いようにできているからです
(反対に、穀物を消化する獣は腸が長い。例えば、西欧人が肉食をよくするので腸は少し短く、
日本人は穀類を主食としているので腸は長いというように)。
犬はもともと生肉を食べていた食肉獣です。
しかし犬は、人間が与える餌に順応してきました。その食習慣は環境に応じて変化し、
肉だけでなく人間の食べるほとんどあらゆる物が食べられるようになりました。
ここで忘れてはならないことは、犬には犬独特のバランスの取れた餌があったということです。
現在は飼い犬もペット化して、人間の与えるやわらかいドッグフードや、犬専用の缶詰によって、
あるいは、人間と同じ歯にくっつきやすい食べ物などを与えられて、本来起こるはずのない、
いろいろな弊害が発生し、短命になってきていることが指摘されています。
しかも驚くことに、犬の歯にも多くの歯垢がつきやすくなったために歯周病で
簡単に抜け落ちるようになってしまいました。
大阪市の戸田外穂歯科医師は、ドッグフードだけで飼われていた犬と、
いやおうなしに加工食品を食べさせられた犬の、
全部の歯が抜け落ちる寸前の、口の中の写真を撮影しました。
そして、人間に飼われているそのような犬の口の現状を、現代の人々へ、食事の大切さと、
丈夫な歯で噛むことの大切さを啓発普及する目的で、
『歯づくりの話ー丈夫な歯を育てるためにー』という
小冊子を作って、ずっと以前から警告していました。
その警告と、R.ウオルターの危惧が、ずばり、現在の人間社会に反映されているのではないでしょうか。
犬の世界では、最近ペットショプで、犬用の歯ブラシ、ねりハミガキ剤、
糸ようじ(デンタルコットン)など、
犬の歯用にたくさんの手入れ用品が販売されるようになりました。
動物病院でも、犬の歯にできた歯石を取るために訪れる愛犬家が多くなり、
抜歯や歯根の治療なども行われるようになってきました。
その治療費は、人間の治療料金よりも高額です。
ちなみに、歯石除去治療1回が1万円です。
以上は、平成5(1993)年頃の話ですが、平成19(2007)年では、なんと驚くことに
東京の獣医師の出ている新聞記事(2007/6/18 読売新聞)では、歯周病の原因となる歯石の除去などの治療
では、8〜15万円、歯槽骨再生には40〜50万円必要だということが記載されていました。
フランスでは、犬の歯の歯並びを美しくする矯正治療が流行しているそうです。
さらに犬の世界で困った問題として、エサが原因で起こる病気が発生しているといいます。
人間が食べているあらゆる種類の食事(特に、加工食品やグルメ、高脂肪食や塩分食、添加物の入った食事など)を
豊富に与えられている犬に、脂漏性皮膚疾患がふえてきたといいます。
体から脂がふき出るこの病気や、アレルギー性疾患にかかり易くなった犬がふえたと獣医は指摘しています。
これらの病気はなかなか治りにくいのです。
それらは、栄養が過剰であったり、欠乏したり、著しく栄養のバランスが崩れたりするのが原因のようです。
また、犬にはかってなかった人間がかかる病気やガンも増加していると獣医は話しています。
R.ウオルターが「犬は、人の疾患を再現する最適なモデルである」と言っているように、
人間の子どもにも多発しているというアトピー性皮膚炎やアレルギー性疾患も、R.ウオルターにいわせれば、
当然のことなのかもしれません。
このように、現代の文明食は、人間の世界だけではなく、動物界にもいろいろと困った影響を及ぼしているのです。
(犬用のフロスをくわえた犬・市来クリンちゃん ) (犬用のハミガキグッズ)
E 輸入に頼っている食卓の野菜
日本人の食生活はだいじょうぶ?
現代は、世界のあちこちから驚くほどさまざまな種類の野菜が入ってきます。
野菜は、以前は米に次ぐ高い自給率を保っていました(1985年は95%)。
しかし、現在は、生鮮野菜の輸入は過去10年間で3倍近くも増加しているといいます。
大蔵省統計によると、1995年の野菜輸入量は、生鮮、冷凍、塩蔵、缶・びん詰など合計約185万トンで、
そのうち生鮮野菜は71万トンで、1990年と比べると2.7倍増加し、その増加率は驚くほど急激です。
1997年版の、「農業白書」によると、1996年には、小麦は約580万トン、トウモロコシは約1620万トンが輸入されています。
そのために国内の野菜自給率は90%を割り込み、近い将来、国内産の野菜が輸入品に変わってしまうのではないか
という危機感が持たれています。
その野菜の輸入で最も多いのは冷凍野菜、次いでタマネギで、次いで塩蔵野菜、
そしてトマト加工品、カボチャ、キャベツの順です。
それは国内生産量の半分以上に当たるといわれています。
ちなみに、タマネギはアメリカやタイから。ニンニクやしいたけ、レンコンは中国。
アスパラガスはアメリカやメキシコというように、いろいろな野菜が世界中からどんどん輸入されるようになっています。
保冷技術の進歩により、時間がかかっても野菜の鮮度を保てるようにした運送システムの発展は、
どんな遠くにまでも野菜を運べるようにしました。
また、近年の円高傾向や大手量販店の低価格競争などの複合的な要因により輸入量も増加しました。
日本のスーパーや商社は、現地で日本人向けに開発した農法で野菜を作らせ、
それを日本人好みに選別して日本へ輸出しています。
それが目立って増加しているのは、スーパーや商社にとってそのほうが安く生産できるし、
仲買などの中間マージンも不要で、
輸送システムに乗せれば大量に日本に持ってこられ、利益も確保できるからです。
そのため、作付面積が減るとともに、日本の農地は荒れて、宅地や工場や大型店舗などに変わりました。
また、野菜農家の約4割は60歳以上の高齢者によって占められ、後継者もいなくなってきているといいます。
青森県のニンニク、茨城県のれんこん、そしてショウガなどの産地でも作付面積が減少して深刻な問題となっています。
しかし、鹿児島県や新潟県などでは農業はまだ盛んで、ほとんどが自給できているし、
全国の消費地にも大量に移出できています。
ちなみに鹿児島県には、加世田のかぼちゃ、串良のピーマン、頴娃・知覧のさつまいもなどがあり、
鹿児島ブランドとして全国での評判が高いのです。
輸入が国産生産の約半分と言われているかぼちゃは、加世田では日本の50%をまかなうことができるほどです。
しかし、現在食卓に並ぶ輸入品は、ただ単に野菜ばかりではありません。
たとえば、そば屋に入って天ぷらそばを食べるとしましょう。日本製のものはどんぶりとねぎだけです。
しょうゆの原料である大豆から、そば粉や小麦粉、エビまで80%以上が輸入品です。
しかも、割り箸までも輸入品だとすると、今後私たちの食生活や食文化はどうなっていくのでしょうか。
私たちは、日本人の食生活について、もっと真剣に考えてみる必要があるのではないでしょうか。
F 世界で注目されている日本型の食生活
考えよう「医食同源」の意味
いま、日本型食生活が世界的に注目されています。
人間を含めた哺乳類の場合、何を食べればその動物に一番向いているか、歯の形態と構造が最も良く示してくれています。
歯の種類と形態はその動物特有の摂食の仕方をあらわします。前にも述べましたが、
犬は、全ての歯が犬歯(鋭くとがった歯)であるということは、元もと食肉獣であることをあらわしています。
ところで、人間の歯は全部生えそろうと上下合わせて32本(親知らずの数まで入れて)あります。
その内の臼歯(きゅう歯=うす状の歯)と呼ばれる奥歯は20本あり、
全体の62.5%を占めています。
犬歯はたった4本で、それは12.5%、前歯は8本の25%です。
人間の歯の約60%が臼歯であるということは、人間は穀物や豆類を主に、
奥歯ですりつぶしながら食べて生きる動物であるということをあらわしています。
4本ある犬歯は、肉を切り裂くような機能を持った歯です。
前歯(以前は門歯と言っていたが)は8本で、これは野菜や果物を噛み切る歯です。
人間がこれらの、歯の本数の割合で食品を食べるなら、
最も理想的な食事ができるということになります。
つまり、「人間は臼歯で穀類を食べるべき動物」であるということが理解できるでしょう。
牛や馬は臼歯が主体ですか、草でもわらでも、干し草や穀類でも食べられるわけで、
下あごを前後左右に動かし、すりつぶす臼の運動を繰り返しながら(臼磨運動)、
しきりに口をモクモグと動かし、そして飲み込んでいます。
牛はさらに、食べて飲み込んだものを胃の中からもう一度口の中に戻して、モグモグと再び噛み直す反芻(はんすう)という
特殊な食べ方をしています。また噛んでいるときには唾液をたくさん出しています。
そのために、わらでも、干し草や穀類でもよく消化されて効率よく肉になり、
栄養の宝庫あるいは万能薬とも言われる牛乳を作ります。
ライオンや犬や猫は先端が尖った歯(犬歯)が主流であすから、まずガブリと噛んで、肉や魚を切り裂き、
ただ上下だけにあごを動かし、飲み込めるようにしてからゴクリと飲み込みます。
サメやフカは、先端がとがっているうえに、ナイフや包丁の刃のように良く切れる歯を持っています。
獲物にガーッとかぶりつき、瞬間に肉や骨を断栽するようになっています。
ここまでみてくると、世界の中で(人間の)歯の構造に最も近い食べ方をしてきた民族は、実は日本人だったことがよくわかります。
それが現在、食生活の欧米化で失われていく傾向にあることは、実に遺憾なことです。
昔から穀物と豆類で約60%、動物性タンパク質は12%というように、そのとおりの食事をしてきた日本人は平均寿命では、
現在世界一の長寿国です。
人間の歯の構成比率に即した食品の摂取割合がいかによいかが立証されているのです。
いま、日本型食事が世界で注目されているゆえんです。
しかし、日本の食事が欧米化してきている中で、現在の若者が高齢になったとき、
はたして世界一の長寿国としての地位を保てるかは疑問です。
欧米では主食が肉類ですが、特にアメリカでは、穀物の比率を食べ物全体の中の60%に引き上げた方がよいとの説が強まっていて、いま、日本食への認識が高まっています。
そしてアメリカでは、穀物の比率を高めていくことによって、肉の消費量を自然に減少させようとしています。
肉を1キログラム作るのに、動物は約7〜8キログラムの穀物を餌として消費するといわれています。それを考えると、世界の穀物生産の1/3は、牛などの家畜の飼料になっているということです。
肉を生産するためには、自然を破壊して広大な牧場を作り、動物にせっせと大量の穀物を飼料として食べさせなければなりません。
この広大な穀物用の田畑を耕す労力や、自然破壊をも含めて肉食過多への反省と、穀物食を見直す政策がはかられつつあります。
現在の日本は、アメリカとは反対に、商業主義に踊らされて日本型食文化の衰退が進み、
肉やファーストフードを主とした欧米食にしだいに近づきつつあります。
古代から、日本では現状維持再生産=和食文化(穀物が主食)があり、自然も環境も全く破壊されずに維持されてきました。
それが近年、商業主義を目指した農業工業化が進んで、その弊害が出始めました。
イギリスで、「狂牛病」が蔓延したのはまだ記憶に新しいと思います。
イギリスでは肉を商業ベースに乗して牛をいくらかでも早急に肥やし、多くの利益を得ようとしました。
冬場には牛の餌となる飼料が足りないからと、牛本来の食料である干し草や牛の飼料の変わりに、
人間の食料として取ったあとに羊の骨や骨髄を粉状にして牛の餌として与えました。
また政府は、毛皮を取るためのミンクや北極ギツネなどの余った獣肉を牛の飼料として与えることも解禁しました。
本来なら、これらは牛の食べ物ではなかったのです。
羊の骨や骨髄はカット粉砕して乾燥して牛の飼料用に加工しました。
ところが、その乾燥の段階で滅菌が不充分で事故が起こったのでした。
普通なら,粉砕したものを洗ったり熱処理したり、その工程を3回位くり返していました。
しかし、そのとき起きたオイルショックでその費用が捻出できなくなりました。
結局、1回だけの工程で手を抜いてしまいました。そのために、プリオンという病原タンパクが牛の中に入って発病をさせました。
プリオンとは、タンパク性感染因子です。プリオンは熱に強いので1回だけの熱処理ではその感染力を減じることはできません。
3回以上の熱処理が必要なのです。
その後、イギリスではたちまち狂牛病が蔓延しだしたのでした。
そのために、ニュースでも報道され衆知のことでしょうが、イギリス中の牛が処分されました。
狂牛病の蔓延予防のためにイギリス中の牛は約400万頭が殺害されたといいます。
イギリスでは、今は、牛に羊の骨や骨髄を食べさすなということになっています。
この狂牛病は、さらに世界中に蔓延する兆しを見せています。
しかし、いまだに、ニワトリの羽を牛や豚の飼料として使ったり、牛を飼うときに積もった牛の糞をブルドーザーの大スコップで
掘り起こし集めて、乾燥させたりして、再度飼料として与えている業者もいるそうです。
このようにしたら牛の糞は、餌として何回も使えるそうですから。
1998には、牛肉の販売が再会されましたが、その販売に供される牛は生後6カ月以前の牛だけです。
やがて、最大輸出国のドイツ方面からイギリスの肉は世界中の市場に出回っていくと思います。
しかし、イギリスでは今も狂牛ショックで牛肉の消費はまだ冷えきっているそうです。
そして、2000年になってフランスを中心に報告が続いていた狂牛病の感染が、まだ被害のなかったドイツやスペインに広がりました。
そこで、欧州連合、つまりEUは、12月4日に緊急の会議を開き、
@汚染源と考えられる動物性飼料の家畜やペットへの使用は当面(半年以上)禁止する。
A生後30カ月以上の食用・酪農家畜は検査が必要、
などの緊急処置を行うことを決めました。
さらに、香港でも、1997年3月、ニワトリのインフルエンザが人間にもうつり重篤になって
死者まで出たとたということで、香港中のニワトリが処分されました。
ニワトリだけが持っていたはずのインフルエンザ菌が人間にも感染するようになってきたのです。
これは飼料に混ぜる抗生物質や成長ホルモンなどによる菌の変性が起こり、人間にも感染するようになったからだともいわれています。
最近、日本の輸入業者がベトナムから輸入した焼き鳥用のニワトリの肉から、
いかなる抗生物質にも効かない腸球菌(VRE)が見つかりました。これは,たいへんなことです。
もし、それに人間が感染して体内で繁殖しだしたら、抗生物質の効くものが全く無いので、
それにはもう回復の手だてがないということです。
もし、ニワトリの肉に腸球菌が住みついていたとしたら、
焼き鳥にして食べる場合に、80度で5分以上加熱することによって腸球菌は死滅します。
しかし、生煮えや生焼きに調理したり、腸球菌が調理人の手や指に付着したりして、
万一他の食物に接触して乗り移れば、それを食べた抵抗力の低い人は、すぐに感染して炎症や敗血症を起こしてしまいます。
日本では、1996年11月にこのことを知った養鶏業者が、ニワトリの飼料といっしょに混ぜる、
アボパルシンという腸球菌をかえって増やしていく抗生物質を自粛し、
1997年2月に農水省はこの薬剤の使用の禁止令を出していました。
世界では、それよりも約2年も前の1995年頃から、ヨーロッパや東南アジアでは、
この腸球菌が広がって社会問題になったために、アボパルシンを禁止する国が増加していたのでした。
しかし、昨年の日本の調査でも、フランスとタイからの輸入ニワトリ肉からこの腸球菌は見つかっていたのでした。
また、日本で、その腸球菌が1999年(平成11年)1月17日に検出されたのです。
これはまた、どうしたことなのでしょう。
この種の抗生物質をニワトリの飼料に配合することには、もうすでに禁止されているはずなのに。
しかも、輸入するときに、たまたま、検疫官や、また行政の衛生局の専門家が
ニワトリ肉に感染している腸球菌を見つけたという上での発表でした。これには多くの疑問が残ります。
さて現在、ここにも、世界で大きな健康問題をかもし出しているひとつの事実があります。
それは、20年ぐらい前です。牛を早く肥大させるようにと成長ホルモンを使って利益の拡大をアメリカの肉牛業者が謀りました。
それを常食していた輸入国のプエルトリコの多くの少女らが、8歳で乳腺や乳房が大人のよう大きくなったり、
生理不順や子宮筋腫,子宮ガンにおかされたりしだしたという事実が明らかになりました。
その事実を知った輸入国は、原因究明のため現地査察を計画しました。
しかし、問題を起こしているアメリカ政府は、その情報をいち早く知り、
直ちにその女性ホルモン使用をストップさせ、ウヤムヤにしてしまったということです。
さて、わが国では、昭和30年代からの高度経済成長の波に乗って、農家でも拡大生産を目指すようになってきました。
それにつられて一般国民の家庭では、拡大生産をベースにした食生活が始まり、
「もっとぜいたくで、もっとおいしいごちそうを、だれよりも早く」と、味よりも見た目が美しく、
形の整った野菜や、季節に先駆けてハウスの中で作られる果物など、高価なグルメ食を求めるようになりました。
一方、海洋では、高級魚の乱獲で生態系を破壊するような漁獲をし、それを日本に送り込み、
国民がこぞって食べる食べ方をつくってしまいました。それは現在もエスカレートしています。
古代からの日本人が日常の生活で食事してきた、いわゆる日本型食生活(ご飯食を中心の和食)では、
摂取しているカロリーの少ないこと、脂肪の量、そしてたんぱく質や炭水化物の量などが欧米に摂取に比べて
非常にバランスがとれていたこと、ミネラルやビタミンなどの栄養が適正な比率で摂取できていたことでした。
女子栄養大学の柳沢幸江先生の研究によると、和食(ご飯食=日本型食事)は
ファーストフード食の2倍近い噛みごたえがあり、時間もかかるというデータを出しています。
「オーストラリアでは牛肉とは、固いやつを無理に歯で噛みくだくものだ。日本の牛肉を食うのに歯はいらない。歯のいらないものは肉ではない」と、言っている食の専門化もいます。
しかし、そのような批判も忘れて、日本の商社やオーストラリア現地の業者が日本人向けの
特に軟らかい肉になるように育てさせた牛肉を日本に輸出しているといいます。
食生活の変化には、いろいろな要因がありますが、主婦がパートで生産や販売に進出し、
家庭で家事や食事づくりに時間をかけられなくなったこともその一つです。
主婦に代わって食事を提供してくれる外食産業が急速に伸びたのも、手っ取り早くて、
時間がかからない、後片づけが楽という点が受け入れられたからなのでしょう。
さて、和食の四大要素とは、米・大豆・野菜・魚をいいます。
本来の和食の原点は、素材も形も味も壊さないで活かして食べるところにあるといわれています。
つまり、料理には人手を最小限にしかかけないのが和食です。
そうすると栄養成分や、薬効性も壊されずにたくさん摂取できます。
つまり、いもだったらいもの形のままで出すというように、包丁をあまり入れませんでした。
それは自然の栄養の恩恵を壊さないための知恵でもありました。
日本の食文化をスポイルさせたもう一つの要因は、さまざまな化学調味料であると、料理の専門家はだれしも指摘しています。
誰もの味覚が画一化してしまったのでした。
くわしく述べるなら、化学調味料は、人間の味覚を平均化してしまから、人間を、自然のうま味も、
旬の味も感知できない味オンチ(味盲)にしてしまう恐れがあったのです。それが現実となってしまいました。
食品に化学調味料をまぜると、うま味が増す。英語でもそのままで「UMAMI」と書いて「うま味」を表現しています。
また、化学的に合成したグルタミン酸ナトリウムにごく少量のイノシン酸ナトリウム(グラニル酸ナトリウムでもよい)を
加えただけで、そのうま味は飛躍的に増加します。
ちなみに、市販の調味料は、グルタミン酸ナトリウム97.5%とイノシン酸ナトリウム2.5%の混合物質です。
この化学調味料はごく微量使うならまだいいのですが、少しでも使い過ぎると自然の本来の、
素材の味を消してしまうのがその特性です。
人間に、あるいは自然界の動物に、季節季節毎に対応していくための身体の順応感覚を目覚めさせるのが旬の食べ物でした。
それは、人間の自然治癒能力や自然への順応機能を高めるためにも重要なことであり、旬の食べ物からしか得られないものです。
現代の日本人はそういうことを早急に気づくべきだし、学校や家庭で教える必要があります。
医と食は同じ源から発しているという「医食同源」という言葉の意味を考え、
食の原点をもう一度よく噛みしめて味わってみる必要があるのではないでしょうか。