新南島通信は、奄美に関する様々な書籍・文献等から印象的文章をピックアップして紹介します。
●bP 不思議な魅力を持つ島の風土記 椋鳩十 奄美風土記の前文より
●bQ リュウキュウイノシシに出会いました
●bR 島口(奄美の方言)入門その1−あなたもシマンチュに−
●bS 島口(奄美の方言)入門その2−トン普通語について−
●bT 島口(あまみの方言)入門その3−【…ち】(トン普通語)−
●bU 島口(あまみの方言)入門その4−【だから、何ち?】(トン普通語)−

bV 黒糖焼酎は奄美だけのラムに似た酒
 
●南西諸島では三種類の蒸留酒がある
 酒は料理によって造られる。島酒くらい土地柄がでるものはない。おいしいかイケるか、旅のもうひとつの楽しみが地元の酒である。

 南西諸島の酒は大別して三種ある。北からいうと鹿児島の芋焼酎。これは屋久島、種子島までがその文化圏に含まれる。南へ飛ぶと沖縄は八重山まで泡盛一辺倒でこれは米による。さてその間の奄美諸島だが、ここは黒糖焼酎の世界となる。島が変われば酒が変わる。島の風土が味に刻まれるという大別三種の酒は、すべて蒸留酒の焼酎というのが共通のキーワードだ。

 ここでは奄美の島酒、黒糖焼酎を追ってみたい。砂糖から造られる酒で世界的に有名な銘酒にラムがある。黒糖焼酎も糖蜜から造られる酒なのでラム酒に分類されるが、法律的保護のもとに砂糖から焼酎を造ることを許されている地域は奄美だけだから、日本で唯一のラムに似た酒が黒糖焼酎である。

 私は今回飲むだけで酒造所の見学のチャンスが無かったので、神谷裕司さんの『奄美、もっと知りたい』のご自身の記事で醸造法と現状を紹介させていただく。

 「黒糖焼酎、原点に帰る。奄美群島、緊急輸入でタイ米を使う」 奄美群島特産の「黒糖焼酎」。まろやかな甘みで人気があるが、実は、原料の黒糖とコメのほとんどは奄美産ではない。沖永良都島・知名町にある新納酒造の新納忠人社長に酒造所を案内してもらった。

 1953年に奄美が日本に復帰した際、島民はサトウキビとコメを主原料とした焼酎を飲んでいた。だが、日本の酒造法では、ラムの原料ともなる砂糖は焼酎に使えない。政府は特別措置として奄美だけで黒糖焼酎の製造を認めた。

 焼酎づくりはコメを蒸すことから始まる。種麹を混ぜ、二日ほど置くと各種の酵素ができて麹となる。タンクに麹と酵母を入れ、黒糖の溶液を加える。麹一対黒糖二の割合。二週間ほど置いた後で蒸留し、一年以上貯蔵する。「製造は一月から五月末まで。夏は腐るので涼しい間につくります」。

 黒糖のほとんどは沖縄産だ。黒糖焼酎に使うのは昔ながらの「含蜜糖」だが、奄美では国の政策もあり、ざらめ糖などの「分蜜糖」が主流だからだ。「島の主要産物であるサトウキビが、特産の黒糖焼酎に使えないことに矛盾を感じますね」。

 コメも本土から移入していたが、94年は外国産米の緊急輸入でタイ米を使った。
「もともとは沖縄の泡盛と同じくタイ米を使っていた。今年は原点に戻ったわけです」。
 黒糖焼酎は長い間、砂糖からのみで造られていると思っていたのだが、この記事で黒糖焼酎も沖縄の泡盛と同じようにタイ米から造られていることを知った。
 
●酒は文化だ、各地に伝統の酵母が生きている
 南島の酒文化はもともと東南アジアからの伝播と聞く。沖縄へ伝えられた酒造りは本土では珍しい蒸留酒の製造法だ。やがて奄美へ、そして九州南部へ拡まった。サツマイモもサトウキビも、皆、南の文化の恩恵で入ってきたものだ。酒と簡単にいえば日本酒のことだが、その酒は南の熊本県まで。その熊本県から南では酒といったら焼酎のこととなる

 沖縄の泡盛は酵母にいわゆる黒酵母菌を使う。奄美ではどんな酵母菌を使うかわからないが、恐らく文化圏が同じようだから似た仲間を使っているかもしれない。

 埼玉県越生町で造り酒屋を営むA氏から聞いたところによれば、酒に変えてくれる酵母菌は日本では200種以上あるという。よく知られるイースト(東方)菌もそうだから、戦争直後の密造酒造りにはよく使われた。造酒は税金との関係で各県で一定の種類の酵母菌が選ばれ提供されるという。それでも伝統ある醸造所では代々の酵母が保存されているから、製造時の杜氏の力量と相まってそれぞれ特徴ある酒が造られることになる。

 蒸留酒は一般には寝かせることで味がまろやかになる。沖縄では長期に寝かせたものを5年古酒とか7年古酒とかいって持てはやす。奄美諸島ではあまりそういう習慣はなさそうだ。黒糖焼酎のアルコール度数は一般的に25度前後が多かった。

●愛飲者にはいろいろな造り手があったほうがよい
 私の黒糖焼酎初体験は鹿児島に移住した大先輩都築三郎さんによる。都築さんは私の尊敬する三大酒家のお一人で、氏が東京にいた頃、酒の面でも鍛えてくれた方だ。この都築さんが鹿児島で愛飲しているのが喜界島の「朝日」で、おじゃまするとこれで酒盛りとなる。今回、奄美のどこでも出されたのが龍郷町大勝の「里の曙」でどうやらこれが今流行らしい。

 酒は好みの差が激しいもの。それぞれ愛飲する銘柄があると思うので、奄美大島と喜界島の醸造所を北から紹介する。醸造量(石高)等はわからないのでお許しを(「」内は代表銘柄)。

 笠利町、住用村、大和村には見当たらない。龍郷町は三軒。浦に奄美大島酒造「浜千鳥乃詩」、大勝に町田酒造「里の曙」、同じく山田酒造「長雲」がある。浦にある酒造所は浜千鳥館という博物館とみやげ店をやっており、ここでは黒糖焼酎の製造工程を見学できるそうだ。

 名瀬市には本社と醸造所を含めて七軒が市街地の中にある。奄美大島開運酒造「レント」、ここは宇検村潟湾に醸造所をもつ。大島食糧酒造所「緋寒桜」、富田酒造場「龍宮」、西平酒造「珊瑚」(同じ会社と思うが瀬戸内町で「瀬戸の灘」)。西平本家「八千代」、弥生焼酎醸造所「弥生まんこい」(五十音順)がある。以上が奄美大島。

 喜界島は二軒、朝日酒造「朝日」、喜界島酒造「しまっちゅ伝蔵」がある。

原料が輸入品であれ、なんであれ、黒糖焼酎は島が育んだ島の味である。我らも食事のチャンスには親しませていただいた。
出典:南海日日新聞 「黒糖焼酎」特集より抜粋
奄美大島酒造組合ホームページ

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