円柱の斜め切断で分かること

〜体積,断面の描く曲線,側面積について〜

鹿児島中央高等学校

  教諭 堂薗幸夫

http://www.synapse.ne.jp/dozono/

 

 

1 はじめに

 

 数か月前になるが,この東書Eネットで,非回転体の求積問題に関して,発泡スチロールを切断した直角2等辺三角形を積み重ねる形での実モデルを作成するというレポートを出させていただいた。その問題の周辺を考えていたが,同じく東書Eネットで山口県立岩国高等学校の西元先生の,「対称性のある関数の定積分の値について」というレポートを読むと,私のイメージしていたものと似たものがあったため,このような原稿を作成するに至った。円柱の斜め切断を行い,その体積と断面の描く曲線と側面積とが,三角関数で面白く表現できるということをまとめたつもりである。

 

 

2 西元先生の対称性のある関数の定積分とは

 西元先生の研究によると,「すべての実数αにおいて,である。」ことが分かっている。これを関数として,について考えると,点に関して点対称

であるから,前述のような,という値につながることが分かる。という研究であり,グラフで表すと右図のようなものとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 具体的な例 円柱の斜め切断モデル

 

 今回の問題の「円柱の斜め切断モデル」というものは,右図の通りである。Grapes3D利用して,実モデルではなく,図を次のように表した。

前回のレポートで,円柱の45°切断という,いわゆる非回転体の求積問題について,次のページのような問題を考えたが,その立体の“全体図”を考えたようなものと想像していただければと思う。

 

 

 

 本レポートでは,計算の便宜上,半径1の円の底面をもつ,高さ2の円柱を切断することにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (1)  体積について

 

 体積については,入試問題等でお馴染みであるため,今回は多くを話題にしないつもりであるが,

@ 断面をでとらえ,三日月型面積を集める方法

A 軸に平行な平面で切断し,長方形面積を集める方法 

B 軸に垂直な平面で切断し,直角二等辺三角形の面積を集める方法

このように,大きく3通りの手法が考えられ,非回転体の求積問題としてはあまりにも有名であり,多くを考えさせる問題として教育的価値も高い。

 

 (2) 断面の描く曲線について

 

 断面はご覧のとおり楕円を描く。この楕円であるという証明も円柱に球が入っているような図を考えると幾何的証明として面白いが,本レポートでは割愛する。

表題の「断面の描く曲線」という意味は,切り口を平面に展開したときの曲線の方程式を意味している。

円柱の方程式は,

(は任意)

で表される。

媒介変数表示すると,

()

である。

切り開いて側面を考えると,円周のが新たな平面における横軸と考えることになる。

 ところで,切断面の平面の方程式は,底面とαの角度で切断した場合,

となるため,に,を代入して,

()

と表される。

具体的に45°の場合は,であり,仮に0°であれば,円柱を真横に切っただけの()の円であることが容易に理解できる。

 

 

 

 つまり,断面の描く曲線は,

()

と表されることが分かり,平面を通常の平面で表すならば,

()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

であり,そのグラフは,下図のように,αを様々に変える,つまり斜めの切断角度を様々に変えることによって,サインカーブの亜種形状をなすことが分かる。(最も太線が45°の場合である。)

 逆に考えると,この正弦曲線をはさみで切り取り,くるっと1周巻けば,最初の円柱の45°斜め切断の立体ができることが分かる。三角関数を習い始めたばかりの状態では,なぜそうなるかは説明が難しいが,興味を引く題材になると思われる。

 

 実際に紙を切って作ってみたモデルは下の写真のとおりである。

 

 

  (3) 側面積について

 

 側面積を求める計算をすると,上のグラフの山形部分面積を求めればよく,45°では,

である。

 

 

 

 

 

 

 

 

ところがこれは,もとの円柱で考えると(円柱を横から見た図を考えて),斜めに等分しただけに過ぎないので,平面が円柱の側面を真っ二つに切り分けていることがわかる。それは,円柱の側面積の半分と考えてよい。つまり長方形の面積の半分と考えればよく,

  (底辺×高さの半分,底辺はつまり円周のこと)

である。

 ここでようやく,西元先生の「点対称なグラフの面積は,全体の半分」の意味が読み取れることになる。先ほどの,

()

において,に関して点対称となるこのグラフは,元を正せば,円柱を斜めに切断してだけにすぎないので,側面積としては,長方形の半分という一定の値をもつことは当然として理解できることになる。

 更に,正弦曲線の「ひと山2」の有名事実を利用して,

 

であるから,

円/楕円​​: 3

 

@+A+Bを考えると,http://www.synapse.ne.jp/dozono/math/SPP.files/image020.jpg

円/楕円​​: 2

という等積変換も,考えを深めるためには面白いだろう。

 

 円/楕円​​: 1

 

 

 

 


  (4) 具体的な事象について

 

円柱の切断の展開図など,3次元と2次元とを行き来するような今回のテーマは,具体的なものとして身の回りにあふれている。授業の隙間で眠気覚ましにちょうど良いのではないだろうか。

 

・建築などで現われる。螺旋階段。

・床屋のサインポール。

・洋服の袖の部分の展開(型紙)の曲線。

・ばねやねじ。

http://www.synapse.ne.jp/dozono/math/SPP.files/image004.jpg  http://www.synapse.ne.jp/dozono/math/SPP.files/image003.jpg  http://www.synapse.ne.jp/dozono/math/SPP.files/image013.jpg  http://www.synapse.ne.jp/dozono/math/SPP.files/image014.jpg

 

 

3 まとめ

 

 今回のこのレポートでは,授業中に活用した実践研究ではなく,西元先生のレポートにヒントを得て,考えを深めていっただけである。そのため,こういった周辺の話題を生徒にどのように還元していくか,ということが問題になるだろうと思われる。例えるならば,パイプの切断などの工業的現場などの場面で十分に現実的な,数学が生きていることが確認できる問題ではないかと思われる。

 立体的なものは,生徒にとってイメージすることが難しいようである。ゲーム機器やスマートフォンなど2次元平面上で遊ぶことが主流になってきており,リアルな物体のパズルや積み木やルービックキューブのような3次元空間で「もの」と戯れていないことも一因としてあるのかもしれない。(しかし,検索してみると3Dのテトリスなどもあり,一概には言えないようだ。)

 数学的な面白さや不思議さを追求し,粘り強く考える生徒たちを育てたい。