実験的数学教材による授業展開2

〜今年度(平成26年度)の教室の風景から〜

鹿児島中央高等学校

  教諭 堂薗幸夫

http://www.synapse.ne.jp/dozono/

 

1 はじめに

 

 平成23年度に同様のタイトルで,その年度に作成したような教材を紹介する機会を得た。そのレポートを東書ネットで発表させていただいた。今回はその第2弾となるレポートである。今年度を振り返って,自分の中で印象に残っている教材と,その授業の周辺とをお知らせしたい。

 

2 具体的な例

 

 (1) 区分求積法の立体モデル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回は,回転体の実モデルとして,以下の写真のようなものを作成した。

 

 

 区分求積の配布プリントとしては,板書するのも時間がかかるところであるし,生徒らも美しい図をノートに切り貼りすればよいだろうという考えから,右のようなものを準備し,そこに実モデルを見せながら,書き込んでいくというような方式をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は,それを発展させてというか,違った角度から区分求積を行いたいと考え,教科書に載っている次のような問題をテーマにした。(東書 新編数学V p.227 チャレンジ問題)

 

 

 

 

 いわゆる非回転体の体積である。直角三角形の面積S(x)が大切であり,それらを集めていくといった積分の手法がよく分かる問題である。

 

 この問題の問題点は,立体を縦に切った断面は,常に直角二等辺三角形であるということが分かりづらいところではないかと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左のような立体模型を作り上げ,生徒に回覧させた。平面図としてはもちろん教科書に載っているものではあるが,イメージとして,大根を斜めにカットした,と言っても伝わりにくいのではないか,と思い,制作したものである。

 

 これは,100円ショップの5mmの発泡スチロールを,大小取り混ぜながら直角二等辺三角形を切り出し,(正方形を作り,それを半分にする方法で切ると,左右対称に,かつ数もそろった形で得ることができ都合が良い。)うまくカーブが出ているように揃え,円柱を斜め45°に切った形になるように,左右対称に並べたものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                          

 

 この立体模型は,全体像は円柱の切り出しのような形になっているが,底面部分だけを,透明な梱包用ビニールテープ(これも100円ショップに並んでいるものである。)で接着しており,左の写真のように,ばらばらと開いてみることが可能にしている。

そうすることで,全体は立体だが,断面としては直角二等辺三角形の集合であるということが理解できるようになっている。(ただし,乱暴に扱うと,1つ1つのピースが剥がれ落ちたり抜けたりすることがある。)これによって,生徒たちは実際に手にしながら,「面積が集まることによって体積ができる」という感覚をつかんでもらえたのではないか,と考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (2) 正多面体の立体モデル

 鹿児島県では郷中ゼミという難関大学対策の講座を行っている。多くの学校から意欲ある生徒が集まり,切磋琢磨するという授業である。今回その授業内で話題になった正20面体の体積の問題をヒントに,このような立体?モデルを作成してみた。

 出題された問題としては,以下のものである。

実際の授業では,立体モデルは折り紙などで作成していたが,私はGrapes3Dを利用して,「立体視」できるモデルを作成してみた。

正多面体の頂点は,それなりの対称性を持っており,座標をとるという段階で数学的に面白いのだが,このあたりの考えについては別のレポートを改めて作りたいと思う。今回は,その立体視部分だけにとどめる。

 

 

 さて,上図が飛び出して見えたであろうか。左右を同時に見ながら,焦点をぼかしていくと,両者が重なり,飛び出して見える。これは映画の3D効果と同じことである。個人差もあり,また紙で見ている状態か,画面で見ている状態かによっても異なっては来るのだが,私は3040cm程度離れた状態で青の矢印がこちら側へ向かっているように見えてくる。

このような複雑な形は,実際の立体を作成するのにも,折り紙や切り紙を使っておそらく1時間程度の手間と時間がかかるだろうと思われる。しかし,これなら立体物を「頭の中」に作り出すことができ,結果的に作ったことと同じ効果は得られるのではないだろうか。高校生の実際の問題としては,作ることよりもイメージしたときに得られる平行性や垂直性などから断面をどこにとるかが解法のきっかけになることを考えると,この程度で十分かもしれない。実際の東大の2008年の入試問題で出された正八面体の問題,2005年の円柱の重なる領域の問題,2002年後期の正20面体の問題等について,この3Dを利用した解説があっても良いだろうと感じている。

また,教科書に掲載すると2Dの紙の中に3Dを入れられることになり,教育的に価値もあり,また面白いのではないか。教科書会社の皆様,保健的,健康的な見地で,医学部眼科医等のアドバイスはもちろん必要だろうが,検討されてはいかがだろうか。

 

 

このモデルは,その後自宅でMADMAGという磁石のおもちゃで作った立体モデルである。(これでも製作に30分以上かかっている。)正五角形を組み合わせている様子がお分かりいただけるだろうか。作りながら考えたのだが,ヒトデのようなモデルは,三角形の単純な形から作られていることがわかるとともに,よく知られたことではあるが,正五角形には黄金比が潜んでいる。その美しさがにじみ出ている感があることを再認識したところであった。(これは授業では利用していない。)

 

 

3 まとめ

 

 生徒の腑に落ちるという感覚を大切にしたいと考えている。そのために教師自身が工夫することが大切だろうと思うのだが,しかし,それ以上に大切だと感じたのが,自分自身が楽しく準備しようという感覚だった。今回の区分求積の発泡スチロールモデルは,自分の中学生の娘と一晩で作り上げたものだった。娘もいったい何を作ろうとしているのか分からないが,楽しそうに作業ができた。何を作っているのか,疑問に思いながらも,出来上がった立体を手にすると,「おぉ」と感嘆の声を上げていた。本当ならこの作成の作業を生徒たちと楽しくすることが一番なのかもしれないが,そこは日本の教育課程においては,時間的制約が許さない部分かもしれない。

最後は,前回のフレーズと同じことを述べて終わりたいと思う。

具体物が,頭の中に「動きのある観たイメージ」や,「手で触った感覚のイメージ」として残るということは,忘れ難いものになるだろう。昨今,インターネット利用の結果から,どこにいても座ったまま作業のないまま本物に触れた気になってしまうことが多い気がする。そうではなく,触感のようなリアルな五感を使った感覚は自分の操作とともに印象に残ることであろう。本物が持つわくわくするような空気感を授業の中で伝えたいものである。