コンサートレポートをお伝えする。霧島国際音楽ホールみやまコンセールの自主事業として開催されたこのコンサートは,大萩氏の来鹿4度目になるコンサートとなった。念のため振り返っておくと,最初はデビュー直後のコンサートで,鹿児島においてはサロンのようなスペースでの100人程度の小コンサートであった。(ちなみに,筆者はこのコンサートのみ聞き逃している。知っていはいたのだが電話を入れるタイミングが遅く,もう座席は一杯であった。今思うと,あぁ残念。。。)2回目は,前回のコンサートレポートにもあるように,南日本新聞社の新社屋ホールに招聘されたものであった。3回目は日本フィルハーモニーとの共演でアランフェス協奏曲を演奏した。そして今回4度目の来鹿で3回目のソロコンサートとなるわけである。ご承知のようにCD3枚目にあたる”Bleu”が発売されておりそのコンサートにあたると考えてよい。
チケットの購入は,みやまコンセールのHPでのオンライン予約であった。これも同様でもう少し早ければ,1列目…であり,2列目の座席を妻の分と2つ確保できた。オンライン予約に関しては本稿と趣旨がずれるために詳細は記載しないが,是非公式HPをご覧になり,そのcgiプログラムの美しさを見ていただきたい。
さて,13時半から開場のため霧島へと車を走らせたが,現地着はちょうど13時30分であった。駐車場は埋まりつつあり,入り口付近に立つおそらく第一工大生の誘導のアルバイト君の姿を見て,コンサートの期待は高まってゆくのであった。会場へ向かう緩い坂道脇にはシートを広げてお弁当を食べていらっしゃるこれからコンサートへ向かうと思われる家族連れの姿を見ることができた。階段の途中で,熊本在住(現在は転勤されたか?不明)のギタリスト大塚氏とすれ違った。13時40分に会場入りするとCD販売などますます気分は高まってゆくのであった。個人的な用事でみやまコンセールにお勤めの先生を事務室に尋ねて少しお話をした後,着席した。いよいよあと5分で開演である。
アランフェス以来久しぶりに見る大萩であった。黒系でまとめた服に,ギターが滑らないようなシートを2枚,左と右の腿に乗せゆったりと構える姿勢は,既にベテランの域に達している。念入りに調弦をしたあと,集中をする。両手を真っ直ぐ下ろし,双方の手の指だけをトレモロのように慣らしている。目は閉じてテンションが高まる。コンサートの最初の一音は,どんなプロであっても相当な緊張である。当然聴衆にとっても最も緊張感高まる音になるのは間違いない。一瞬会場の空気が止まる。物音一つしない視線が注ぎ込まれる。その瞬間,大萩の大きく鋭く息を吸い込むアウフタクト音が空気を裂き,直後にラスゲアードの初音が掻き鳴らされる。ラプソディーインブルーである。この曲は,インターネットでライブ中継されたが,2003年2月のケネディセンターでのライブの最初の曲である。その際も同じくラプソディーインブルーのブリーズ音から始まった。意気込みを感じる心拍数の上がる演奏である。
ここで自己紹介を兼ねて心拍数を落とすために一息トークが入る。次の曲は,亡き王女のためのパヴァーヌである。一曲目とは逆に心の内に向かうベクトルを持つ曲である。私も特に好きな曲であるが,ラヴェル自身は貧弱な作品と考えていたようである。ちなみに王女とは誰を指すわけでもなく,原題の「Pavane pour une Infante Defunte」を見れば分かるように〜eの韻を踏んでいるだけである。原曲はピアノ独奏と小管弦楽配置版とであるが,ギターにも数多く編曲され,古くはブリームとジョンの二重奏で好演が聴かれる。大萩も一体何回演奏したのであろう,非の打ち所のない,作曲家ラヴェルに聴かせてあげたい深みある演奏である。前半最後の曲が,コンポステラ組曲より本来6曲であるが,時間の都合上4曲だけ,プレリュード,コラール,レチタティーヴォ,ムニエイラの演奏であった。あえて形容するなら,甘いマスクのとおり甘いしかし緊張感高まる,階段を滑るように上り下りする音階が繰り広げられる演奏であった。
ここで15分間の休憩を挟む。
後半は日本の曲を主体に構成されていた。今までのアルバムが,ブローウェル,ラテン,フランスと明確な意思を持ったものであったため,これら日本の曲集は,次回アルバムを予感させた。後半の曲目は,さくらの主題による変奏曲,全ては薄明の中で,羽衣伝説の3曲である。さくら変奏曲はケネディセンターでの全米デビューの際も演奏されたものであるため,十分準備され計算されているのだろうか。特筆すべきは,羽衣伝説であろう。藤井敬吾の編曲による現代日本のギター曲を代表する曲であるが,その沖縄音階の特殊性や,特殊奏法の影響か,藤井以外の演奏は久しく聴くことが出来なかった。今回大萩の演奏により再度注目されるのは間違いなく,今後のこの曲の展開に興味を持ったことであった。以前キューバを訪れたのと同じように沖縄を訪れ,その曲の持つ深い味わいを再現することを意識したそうで,「天女の羽衣」伝説を語りながら演奏に入った。
鳴り止まぬ拍手に再登場してアンコールは,1枚目のアルバムから11月のある日である。さすがプロである。トラブルにも全く身じろぎせず,集中を続ける。トラブルが何かは後述。2曲目は3枚目のアルバムからタンゴアンスカイである。拍手の合間のコメントの際に,各アルバムから1曲…とネタばらしをしてしまい,アンコールがあと2曲あることが判明。これはご愛嬌。たぶん最後は,そのあくる日だろうと推理。さてタンゴアンスカイもアンコールピースとしては定着してきた感があるが,高度な技術に頼り過ぎることなく,説得力がある心に届く音楽を聴かせてくれた。最後の最後は,やはりゲーラのそのあくる日であった。違うバージョンでお届けしますと言うことで,イントロ付きの演奏を聞かしてくれたが,トラブル発生!しかし,このトラブルはご愛嬌と言うことで,演奏会の時間を共有した皆様だけの心の中に秘めて置きましょう。やはり疲れるんです。演奏会は。(笑)
さて,最後に,怒で,悲で,哀のレビューになる。また悲しいコメントを書かねばならない。何とアンコールの11月のある日の演奏の最中,皮肉に悲しいことにギターのピアニシモの位置で,更に悲しさを通り越して不運を感じざるを得ないが,私の座席の後ろの席で,例えるならばこんな音「ピーピー,ダ〜ター,タッタァータラター」と,携帯電話,ケータイ,け い た い けけけいいいたたたいいい!!の呼び出し音が鳴り響いたのである。あぁ,また書いてしまった。これをお読みの皆さまにまたしてもお願いをしなければならない。コンサートで携帯を鳴らさないでくれ。もう一度書く。コンサートで携帯を鳴らさないでくれ。本当に頼む。止めてくれ。 や め て く れ 。ここまで打ってて思い出してまた腹が立ってきた。携帯を鳴らさないでくれ。自慢にはならず,今では人間扱いしてもらえないが,私は携帯を持っていない。本当に持っていないので鳴る心配を一切しない。敢えて気になるのは腕時計のアラーム音ぐらいのものである。(もちろんコンサート中は腕時計はアラームを止め,外してバッグかポケットに入れる。)持っていないので心配しないでいい人間が,「今日のコンサートではまさか鳴らないだろうなぁ」という心配をしているのである。これはペースメーカーに与える脅威よりも更に心理的に悪い圧迫感を与える。繰り返す。どうして持っていない私がそんな心配をせねばならんのだ。世の中マチガッとるぞ。ホールも物理的対策で,電波を遮断せねばならない時代かもしれない。検討はされているのだろうか?この事案を推理すると,開演前はアナウンスが流れるので,止める。休憩時間にロビーで誰かと話す。そのまま忘れて会場に戻る。こんなところではないのだろうか?止めてくださいとアナウンスされなければ止めることを忘れてしまう人間は,携帯を使うべきではない。音楽好きからの苦言としては,休憩時間は余韻を楽しむ時間であり,誰と話す必要もない。もし,命にかかわる緊急を要する連絡を待っている人は,コンサートに来てはならない。どこかで待機しておきなさい。長くなったが,それだけ不愉快であったのだ。たったそれだけで,と言って欲しくない。更に悪いのは,携帯を鳴らしてしまう人物は,98%の確率でマジックテープのバッグを持っている。慌てて止めた携帯を,バリバリッとバッグの中にお入れなさる。こうなると冗談でしょ?って感じすらしてくる。長くなりすぎたので要点をまとめて携帯問題を終了する。(もし本人がこれを読んでいたら,謝罪メールを送って来なさい。この下に掲載して,あの日不愉快を感じた皆様への謝罪の場を貸してあげます。)
コンサートの心得5か条
1.携帯を持ってくるな。
2.もし間違って持ってきていたらバッテリーパックを外せ。
3.バッグはマジックテープ厳禁
4.服は安物のナイロンは駄目。シャリシャリ音がする。
5.靴はスニーカー。遅れてきてヒールでカツカツ駆け込むな。
以上である。 |
コンサートレポートよりも携帯への文句が長すぎた。。。更についでに余談だが,ブリームとジョンのLIVEのレコード(CDではない)には,もちろん英語だが,ジョンが,「このコンサートは録音されています。咳は曲と曲の間でお願いします。」と言っている。今なら携帯と言うだろうか?その後,ブリームが,「どうしても我慢できない時は,なるべく大きい音の時に咳してください」とジョークを言っている。こうありたいものである。演奏者が気分を害して,(害すと思うが)演奏を中断した際には,損害賠償は発生するのだろうか?参考となるページをご覧下さい。http://www.kapelle.jp/classic/boston/concert_manner_im_USA.html
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さて,コンサート終了後はサイン会である。ちょっと遅れて会場をでると,長蛇の列であった。先輩の姿を見つけ,後でお話しするつもりで,とにかく最後尾に並ぶ。すると,まだまだ後ろが並んで行く。200人ぐらい並んだだろうか?相変わらずの人気である。サイン会は最近のどの演奏家でもコンサートの定番となっているようである。どのギタリストの演奏会でもCD販売とサインとセットにしてあるようである。不況の影響か,CDの売り上げも厳しいものがあるのであろうかと余計なことを心配してしまうが,大萩の場合は,本人がやりたくて,好きで,サイン会をやっているのではとも推察されてしまう。サインをし,一言二言会話を交わし,そして間違いなく一人も欠くことなく,ファンの目をじっと見て「ありがとうございました」と言う。宮崎出身と言う生い立ちもそうさせるのだろうか,アマチュア時代の福岡モリオカ楽器までの往復のレッスンなど,地方の大変な現状をよく認識しているだけに,心のこもった対応が常に見られるのだろう。味わいある演奏会であった。
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