故郷の喜界島 基地にするな

横須賀市 大倉 忠夫


 故郷、喜界島が自衛隊のOTH(オーバー・ザ・ホライズン=超地平線)レーダー受信基地の候補地としてクローズアップされている。隆起珊瑚礁のこの島には、一万人余の人が住み、サトウキビを栽培している。
 太平洋戦争の末期、沖縄特攻の中継基地となり、飛行場周辺の村は米軍の猛烈な爆撃を受け、私たちはムヤと呼ばれる横穴式墓地の遺跡に逃げ込んだ。
 戦争が終わって村に帰ってみると、道は爆弾の穴や折り重なって倒れたガジュマルの木で歩けず、ようやくたどり着いた家はどれも吹き飛ばされ焼け跡さえ残っていなかった。飛行場が造られ、周辺の丘に高角砲が林立した時、村人はこんな結果を予想だにしなかったのである。
 OTHが設置されるとソ連極東の爆撃機やミサイルの動きを探知する軍事基地となる。ソ連が本当に戦争をしかける気になった時、島はどうなるのか、私の心は穏やかではない。
 戦前、私たちは米英を憎め、と教えられたが、今はソ連を敵とする戦略構想の中に巻きこまれ、軍の論理による戦争の準備が着々と進められてゆく。この道でよいのか。民を思う政治家なら政治生命をかけて別の道を探すべきではないか。
1986年02月10日、朝日新聞「声」欄より