喜界島が最有力

OTHレーダー基地

防衛庁構想


 水平線を越え、シベリア・沿海州まで約3000キロを監視できるOTHレーダーは、先に決定した中期防衛力整備計画(61〜65年度)で最大の焦点になっているが、防衛庁筋は8日、鹿児島県・喜界島と馬毛島が同レーダー基地の最有力候補となっていることを明らかにした。当初考えられていた硫黄島が火山現象による地殻変動が激しく、基地の維持が難しいことが分かったためで、この案には米軍も同意しており、防衛庁はなお詳細な検討を急ぎ、62年度予算で調査費を要求、建設に向け本格的に動き出す構えだ。
 防衛庁は、米軍と協力して今年夏からOTHレーダー基地候補地の検討を急いでいた。候補地の条件としては(1)監視域がどうなるか、などの効果(2)用地取得の可能性(3)造成康治の難易度(4)補給など(5)電波障害、の5項目について評価を行った。
 同庁は候補地として(1)硫黄島(2)喜界島(3)沖縄・伊江島をそれぞれの中心とした3つのグループを選び、検討した。米軍が強く希望し、防衛庁側も当初第1候補としていたのは硫黄島を受信局に、母島または兄島を発信局とする硫黄島グループ。ここに設置すれば、監視域がアリューシャン列島のアムチトカ島や南方のグアム島などに設置する米海軍OTHレーダーの監視域と絶好の関係になる、というのが主な理由だった。しかし、硫黄島はなお火山活動があり、滑走路も持ち上がるほど地殻変動が激しい。OTHレーダーは受信局で長さ2600メートルという大型のアンテナを極めて精密な関係位置を保って並べる必要があり、地殻変動で狂えば修正が大変な作業になる。また、発信局とする母島、兄島では国立公園があるなどで用地取得が困難、などの事情も明らかになった。伊江島を受信局に、沖永良部島や奄美大島を発信局とする伊江島グループ案も、地元の住民感情などから用地取得が難しい、などで建設実現の見込みは薄いうえ、位置が南に下がりすぎサハリン方面が十分写らない、などの問題点が明らかとなった。
 残った喜界島グループは、喜界島に受信局を設け、馬毛島に発信局を置く、という案。しかし喜界島には林野庁の保安林があり指定解除が出来るかどうかが、用地取得の課題として残っている。
 OTHレーダー局は、発信局では縦約1200メートル、横約1500メートル、受信局では縦約200メートル、横2600メートルの広さが必要とされている。
 喜界島には、既に自衛隊の無線傍受(コミント)基地がある。防衛庁は中期防衛力整備計画で「象のオリ」と呼ばれる巨大な円筒状アンテナを建設するなど、同基地の能力向上を図る計画で、OTHレーダー受信局も建設されることになれば、同島は国内でも最重要の戦略情報拠点となる。
 OTH(オーバー・ザ・ホライズン)レーダー:通常のレーダーでは探知できない水平線、地平線を越えての超長距離探知を目的としたレーダー。電離層に反射する短波を使い、電離層を経て目標に当たり、再び電離層を経て返ってくる電波をとらえる。米国は米空軍が米大西洋岸に1カ所設置、太平洋岸にも設置を決めている。米海軍もやや小型の「リロケータブル(移設式)OTHレーダー」を世界各地に配置する計画で、太平洋ではアラスカ・アンカレジ、アリューシャン・アムチトカ、グアムに設置を予定している。防衛庁が導入を計画しているのは米海軍型レーダーで、基地から半径約900キロは死角となる。
1985年11月08日、朝日新聞記事より