「お願い」

軍事情報施設「象のオリ」建設反対について

 親愛なる川嶺の皆様。
 島は新北風が吹き、サトウキビの伐採等で」御多忙の頃かと拝察申しあげます。
 私たちは関東在住の喜界島出身者ですが、川嶺地区の皆さんが古くからため池を造って稲作の増産を図ったり、他地区に率先して農業振興や教育に熱意をもってこられたことに敬意を抱いております。喜界島は数年前には奄美の他の市町村に先駆けてウリミバエの撲滅に成功し農産物の移出が自由になるなど困難な中にも農業振興に一段と意欲が高まっているという情報に島の皆さんの御苦労をしのびつつ、心から喜んだものです。
 ところが、去る八月上旬の毎日新聞西部版社会面トップに出た、「川嶺地区が象のオリの誘致を要請している」という内容の報道に大変驚きました。
 川嶺地区にこの「象のオリ」が建設されると、喜界島は、中国、朝鮮、ソ連等の軍事秘密情報を傍受する、最重要拠点のひとつになるということです。先の湾岸戦争でアメリカを中心とする多国籍軍がイラクの通信施設を真先に攻撃したことからも明らかなとおり、極東の紛争や武力衝突の際には、喜界島が真先に攻撃目標になるのではないかと私たちは心配しています。
 また、世界が軍縮の方向に進んでいる現在、何故にわが喜界島に物騒な軍事情報施設を建設しなければならないのか、理解に苦しむところです。
 各新聞は、川嶺地区の皆さんの多数の方々が「水道施設を設置すること」を条件に「象のオリの誘致」を働きかけているとしています。しかし、喜界町議会の「喜界島通信施設整備に関する決議」では、何も川嶺地区の水道施設の設置を交換条件としてはおりません。そもそも、水の確保の問題は全島的な課題でありますので、喜界町当局あるいは鹿児島県当局が地元の皆様と一体となって真剣に取り組むべき問題であり、軍事情報施設と交換にする性質のものではないと思います。
 また、「象のオリ」の建設予定地の上原「うぃばる」は川嶺地区の水源地に近いとも聞いています。
 川嶺地区の皆さんが、花良治からも一部水を分けてもらっていて、水の問題でご苦労なさっていることはよくわかりますが、水道施設の確保と物騒な軍事情報施設の「象のオリ」とを交換条件とすることは、あまりにも島に生きる人々にとって割の合わない大きな危険の伴うことではないでしょうか。また、この誘致問題は、決して川嶺地区だけの問題ではなく喜界島の将来を大きく左右する重大な内容を含んでいるのではないでしょうか。
 第二次世界大戦の際、私達の喜界島は海軍の飛行場や高射砲陣地があったためにひどい攻撃を受けました。湾や中里から川嶺地区へ疎開した人たちもいたことをご記憶の方も多いと思いますが、私達は40数年過ぎた今日でも、その頃の悲惨な記憶は身にしみていますし、また、戦後育ちの人達も当時の状況を何度も聞かされています。
 私達は再びあのような悲惨な事態を招く危険に川嶺地区・喜界島を置いてはいけないと願うとともに、島の次の世代(子孫)にぜひ島の美しい自然と人情の豊かな風土を守り伝えて欲しいと願わずにはいられません。このような心情を抱いて、「喜界島の豊かな自然と平和を守る町民会議」や「赤連農地を守る会」も行動を起こしているのではないでしょうか。
 私達は異郷の地にあっても喜界島の豊かな自然と心温かい島人の中で育ったことを誇りに思っています。喜界島出身の私達が「象のオリ建設に反対」し、真剣に豊かな自然と平和な喜界島を守って欲しいと願っている心情をお伝えし賢明なる川嶺地区の皆様が、ぜひ、軍事情報施設「象のオリ」の誘致を求めたことを考え直して頂き、「象のオリ」建設に反対してくださるよう、切にお願い申し上げます。
 寒さが厳しくなってくる時節です。皆様のご健勝をお祈り申し上げます。
      平成三年一二月七日

親愛なる川嶺の皆様

  「OTH・象のオリ」を考える会
    (東京都千代田区神田神保町三丁目一一番五○五号)
      岩 千鶴子   植野 嘉一   大倉 忠夫   大倉 克大
      里山養一郎   武田 聖一   中田 建夫   花岡 信代
      花岡 正美   保科 隆一   本田 徹夫   正本 洋子
      三島 淳茂   吉野 健二   芳本 征越   (五十音順)


WEB master 註
句読点を含む一字一句、改行位置等も原文のままである。