「アスベスト・じん肺ホットライン」相談から、鹿児島で初の労災認定に!
−40年前6年間曝露で中皮腫に−
1,被災者:Tさん(2003年5月27日永眠、享 年59歳、奄美大島)7月労災認定
2,職業:建設業(主に九州電力の下請け)
高校卒業後1962年から関西に出て、鉄工所勤務などを経て、シャッター会社でシャッターの設計施工に従事。その後会社は、取り付け工事を下請化し、Tさんは同僚とともに下請会社で取り付け業に従事。1969年、病気のため帰郷、回復後は一時期シャッター取り付け業を経営したが、その後、九州電力の下請会社の事業主となる。
40年前の6年間従事した作業でのアスベスト暴露がTさんの命を奪った。
3,病名:「悪性胸膜中皮腫」(関西のシャッター会社での石綿曝露が原因)
4,労基署:尼崎労働基準監督署
2003年3月 労災申請(療養補償)
7月 労災認定
月 遺族補償請求
10月 遺族補償認定
5,労災申請に至るまで経過
2002年1月地元の病院(徳州会病院)に入院、3月肺の水を抜く原因不明と診断され、7月県立大島病院へ、結核性胸膜炎と診断される。9月再入院、再検査(レントゲン・CT・MRI・胸膜検査・骨髄検査)後、悪性中皮腫と診断される。
医者に「治らない」と告げられた娘さんが、昨年の「アスベスト・じん肺ホットライン」(東京労働安全センター)に相談があり、鹿児島の安全センター準備会でも家族や、奄美大島にTさんを訪ね聞き取り調査を行う。
その結果、吹付けアスベストがある九州電力の変電所作業はわずかで、他にはアスベストに曝露する作業は確認できなかったが、関西でのシャッター工事でアスベストに曝露していた実態が明らかになった。
1960年代は、スーパーマーケット等の大型店舗が展開を始める時期で、新興大手スーパーが多くの新店舗を建設していた。シャッターは店の正面だけではなく、火災時に延焼を防ぐために、エスカレータの周囲に設置された。
Tさんは、1966年から69年にかけて、この防火シャッターを専門に取り付ける工事を行っていた。当時の鉄骨建築には耐火のためアスベストが必ず吹き付けられていた。シャッター取り付けは、吹き付け工事直後か同時並行的に行われ、吹き付け工事のアスベスト粉じんの舞うなか、自らも吹き付け材を剥がしながら施工していた。
当時の経営者で今でもシャッター工事をしているNさんから、Tさんを雇用し現場作業に従事してもらっていたとの証言が得られ、この証言が転機となり、尼崎労基署へ労災申請を2033年3月行う。
Tさんは7月の労災認定の知らせを聞くことなく、5月27日に永眠。10月には遺族補償も認定された。
鹿児島では初めてのアスベスト曝露が原因の中皮腫が労災認定となった。
アスベスト(石綿)問題を考える
−石綿対策全国連絡会議(BANJAN)の取り組みから−
1. アスベスト・石綿及び石綿製品の状況
(1)アスベスト・石綿の種類
アスベストとは、天然に産出する繊維状の含水珪酸鉱物の総称であり、蛇紋石系のクリソタイル(白石綿)と角閃石系のクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種類があります。
日本では、クロシドライト、アモサイトについては1995年に労働安全衛生法に基づき製造・輸入・譲渡・使用等が禁止されており、現在も使用されているのはクリソタイルアスベストのみが使用されています。
(2) アスベストの輸入量の推移
日本は世界中で最大のアスベスト消費/輸入国のひとつです。
日本は1890年代にアスベストの輸入を始めるようになりました。第2次世界大戦中に、アスベストの輸入は中止され、政府は、国内のアスベスト鉱山の開発を奨励しました(約50鉱山)。しかし、それらの鉱山は現在ではひとつも操業していません。例外は北海道の富良野で、ここではボタ山からわずかな量のアスベスト繊維を取り出しています。日本で消費するアスベストのほとんど全てが外国から輸入されています。
日本のアスベスト輸入量は1960年代より増加し、1974年の35万トンを最高に年間約30万トン前後で推移してきたが、1990年代から年々減少傾向にあり、2001年は7万9千トンとなっている。2002年の輸入量は4万3千トンであり、前年比45%減、ピーク時の88%減となっています。
不況の影響により、1989年以降、アスベスト消費量は継続的に減少してきています。しかし、他の工業化諸国と比較すると、日本の消費量は今なお著しく途方もなく高いままです。
1999年に、日本は117,143トンのアスベストを、カナダ(59,146トン、50.5%)、ジンバブェ(24,392トン、20.8%)、南アフリカ(13,302トン、11.4%)、アメリカ合衆国(6,835トン、5.8%)、ブラジル(6,359トン、5.4%)、ロシア(4,674トン、4.0%)、他(2,435トン、2.1%)から輸入しています。
(3)石綿製品の種類と用途
石綿はその9割以上が建材製品に使用されています。
アスベストは耐熱性、引っ張り強さのような多くの興味深い特性をもっていることから、日本ではそのピーク時において3,000種類以上の用途に使用されていたと推定されています。
1996年の日本石綿協会のレポートによると、日本は188,500トンのアスベストを輸入しています。このうち、42.1%が平板スレート(75,100トン)、20.6%が波形スレート(36,800トン)、18.4%が押出成形セメント板(32,800トン)、5.2%がバルブ・セメント板とスラグ石骨板(9,300トン)、4.3%が石綿セメント・サイディング板(7,600トン)、2.4%が他の建材、2.9%が自動車用摩擦材(5,200トン)、1.4%がジョイント・シート(2,500トン)に使用されています。
2,アスベスト・石綿関連疾患と職場における健康障害防止対策
(1)アスベストの有害性
アスベスト・石綿粉じんを吸入することにより、主に次のような健康障害を生じるおそれがあります。
@石綿肺
肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つです。肺の線維化を起こすものは他の鉱物性粉じん等多くの原因があるりますが、特に石綿肺として区別しています。
A 肺がん
肺胞内に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。発がん性の強さは、石綿の種類により異なる他、石綿の太さ、長さにも関与します。
B 悪性中皮腫
肺を取り囲む胸膜や、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜等にできる悪性の腫瘍です。
アスベストの使用量は激減していますが、日本では今なおアスベストがつかられ続けています。過去に建物に吹き付けられたアスベストやアスベスト含有建材は、今後ピークを迎える改築や解体により、その粉塵の飛散が懸念されています。
40年間の潜伏期間を経て発症する悪性胸膜中皮腫は、1960年から80年代のアスベスト消費のピークを考えると、これから被害者が増大すると予測されています。
2)中皮腫―アスベスト関連疾患について
我が国における死亡件数は、1995年以降、人口動態統計により把握できるようになりましたが、1995年の500件(胸膜275件、腹膜51件、心膜51件、その他部位11件、部位不明157件)から、2001年の772件(胸膜530件、腹膜51件、心膜6件、その他の部位16件、部位不明159件)へと急増しています。
これに対して、労災認定件数は、1995年の13件(500件に対する比率は2.6%)から、2001年の33件(772件に対する比率は4.3%)へとわずかに増えてはいるものの、殆どが労災申請できることも知らされないまま、放置されているものと思われます(肺ガンの場合はなおさらである)。
2002年4月の日本産業衛生学会ではも、今後40年間の胸膜中皮腫死亡数が10万件を超す可能性があるとする「将来予測」が発表されています。胸膜以外の中皮腫や肺ガンその他も含めたアスベスト被害の全貌は想像を絶するものになるかもしれません。
特に中皮腫は、発症から約15ヶ月で半数が死亡、5年生存率はわずかに3.7%とも言われ、有効な治療法も未だ確立されていない恐ろしい疾病です。年間死亡率が千件以内に収まっている今のうちに、その全症例を徹底調査し、現状把握、診断、治療、被災者・家族の物心両面にわたるケア、補償等、アスベスト健康被害全体にわたる総合的な対策に役立てることが必要です。
(3)職場におけるアスベストによる健康障害防止対策
・1971年
労働安全衛生法に基づく特定化学物質等障害予防規則が制定され、石綿の取扱作業に関して石綿の発散防止設備の設置、作業環境測定の実施、特定化学物質等作業主任者の選任等が義務付けられた。
・1975年
特定化学物質等障害予防規則の改正により、石綿の吹付け作業の原則禁止、石綿等の湿潤化による発散の防止等が義務付けられた。また、健康管理対策として、労働者の雇入れ時、石綿の取扱業務への配置換え時及びその後6月以内ごとの特殊健康診断の実施が義務付けられた(それ以前はじん肺法により健康診断が義務付けられていた。)。
・1987年
学校施設における吹き付けアスベストの除去が社会的に大きな関心事になり、「学校パニック」と呼ばれる事態を引き起こる。世論の盛り上がりに直面して、環境庁、厚生省および文部省は、1987年と1988年に地方自治体に対して、建築物の解体・改修工事による大気汚染を防止するための行政通達を出す。
・1992年
廃棄物処理・清掃法および関係命令が改正され、飛散性アスベストが「特別管理産業廃棄物」に分類されて、その処理基準も策定した。
労働省は、化学物質の危険有害性情報の提供のための努力の一環として、アスベストを1%以上含有する製品に化学物質安全データシートの提供を求める指針を策定した(これは、1999年に、労働安全衛生法の条文の中に導入されている。)
・1995年
労働安全衛生法施行令の改正により、アモサイト及びクロシドライトの製造・輸入等が禁止された。
また、労働安全衛生規則の改正により、耐火建築物等における吹付け石綿除去作業の計画を事前に労働基準監督署に届け出ることが義務付けられた。
特定化学物質等障害予防規則の改正により、石綿等の切断作業等における湿潤化、呼吸用保護具・保護衣の使用、石綿除去作業場の隔離等が義務付けられた。
しかしながら、クリソタイル・アスベストは、吹き付けの場合を除いて、無規制のまま残されていることを指摘しておかなければなりません。
(「日本におけるアスベスト問題の状況と石綿対策全国連絡会議の取り組み」ブラジル世界アスベスト会議/2000年9月での報告から)
3,アスベスト(石綿)使用等に関する国際動向
(1)ヨーロッパ
欧州連合(EU)では、1999年に、加盟国が2005年1月1日までに全種類の石綿の売買・使用を禁止する所要の法令等を施行することを定めた欧州委員会指令を公布しました。
指令では、既存の電解設備用のダイアフラム、各国での禁止措置の実施以前に既に設置・使用されている石綿製品の使用、各国での禁止措置の実施以前に市場に出回っていた石綿繊維・石綿含有製品(在庫品)の売買、研究分析目的での使用等は禁止措置の適用を除外されています。
なお、ドイツは1993年、フランスは1996年、英国は1999年に、一部例外を除き全種類の石綿の使用等を原則禁止する法令を既に整備しています。
(2)アメリカ
アメリカでは、環境保護庁(EPA)において、1993年に製造・使用等が可能な製品18種類が指定されるとともに、波形紙、ロールボード、商業用紙、特殊用紙、フローリングフェルト、新たな用途への使用が禁止されました。
(3)アジア
世界のアスベスト産業界は、アジアの市場を広げようと目論んでいます。2001年11月には、アスベスト業界によってインド・ニューデリーにおいて、「責任ある使用の強化」をテーマに、「クリソタイル・アスベストに関する国際会議」が開催されています。(http:www.asbestos-info-centre.org/
参照)
1997年に、香港、台湾、韓国、タイ、インド、スリランカその他のアジア諸国の労災被災者組織によって、労災被災者の権利のためのアジア・ネットワーク(ANROAV)が結成されました。
2001年10月には、韓国・ソウルにおいて、第3回アジア・ヨーロッパ首脳会議(ASEM)が開催されています。韓国および世界のNGOによって民衆フォーラムが開催されました。その活動の一部として、全国労働安全衛生センターが、「グローバリゼーションと労働者の健康」というワークショップに参加して、この国際アスベスト会議とアスベスト禁止に向かう国際的な潮流について報告してきています。
アジアでは、近い将来にアスベストによる被害が顕在化してくることは間違ない状況にあります。
4,日本におけるアスベスト訴訟の事例
(1) 日本では、アスベスト関連疾患に対しては、これまでに7件の個人傷害訴訟(民事損害賠償請求)事件があるだけです。これらのうち、6件がすでに法廷外和解に達しており、被告企業は被災者1人当たり500〜4,000万円を支払っています。日本では、環境曝露に関連した訴訟や製造物責任訴訟はありません。
(2) 初期の事件は、アスベスト製品製造工場で働いていて、じん肺に罹患した元労働者と被災者の遺族によって提起されたものでした。
(3) 1988年、8人の石綿肺に罹患した元造船労働者が、住友重機械工業を提訴しました。1995年には、アスベスト関連肺がん(労働基準監督署は業務上疾病と認定済み)で死亡した造船労働者の遺族が、同じ会社を提訴しました。すべての被災者は、この会社の横須賀市内にある造船所で働いていました。両方のケースとも、1997年に和解しています。
(4) この時同時に、被災者たちの所属する労働組合が、会社との間で、退職労働者に対する補償に関する協定を締結しました。この協定によれば、会社は、アスベスト関連疾患で死亡した退職労働者の遺族に対して、1千万円から1千6百万円(被災者の年齢に応じて)を支払わなければなりません。
(5) 1993年、四国電力の元労働者の家族が同社を提訴しました。この労働者は、西条火力発電所に勤務し、悪性胸膜中皮腫によって死亡しました。この事例は、1991年に私たちが実施したアスベスト・職業がん110番に相談に来られたものでした。この事件は1999年に解決しています。
(6) 1998年に、米海軍横須賀基地艦船修理廠の元労働者12人と4人の遺族が、日米安全保障条約に関連した特別法に基づいて、日本政府を提訴しました。損害賠償請求額の合計は3億2,500万円です。原告たちは、彼らの病気や家族の死亡は職場におけるアスベスト暴露によるものであると主張しています。この裁判は2003年5月27日に解決しています。
(「石綿の代替化等検討委員会報告書」/厚生労働省2003年5月、「「日本におけるアスベスト問題の状況と石綿対策全国連絡会議の取り組み」ブラジル世界アスベスト会議/2000年9月での報告−をもとに事務局で編集しました。)