店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

南日本新聞:南点(H11.12.1)

「合掌の旅」

十一月八日、奄美「自然の権利」訴訟の傍聴で県本土に上陸、ひさかたに一泊した。「八・六水害」に遭遇して以来だから、六年ぶりのカゴンマだ。

環境ネットワーク奄美・薗博明代表の、約三時間におよぶ本人尋問を、共有できただけでもかいがあった。ぼくらは、日々の経済生活や自然環境の問題と共に、それぞれの地域固有の歴史や文化的価値を誇りとしたい。そのために、それらを育んできた地域固有の生物や景観の多様性を保全し、共にあり続けたい、と願うだけである。

裁判をはさんでのドライブや飲ンカタも有意義だった。

「人工島」予定地には行けなかったが、工事中の「祇園の州公園」には、西田橋たちが、魂のないレプリカのように生気なく横たわっていた…合掌。

「南州墓地」では、西郷を頼って黒砂糖の自由売買を嘆願しに上陸したのに、西南戦争に従軍させられて死者となった、奄美の六人の名を銅版に確認した。不法な「大島商社」を設立させて島民を苦しめたのは、実は西郷自身だったのだが…合掌。

島津家の当主たちが眠る「福昌寺墓地」は、立派な奥つきではあったが、県史跡としては侘びしい印象が残った。秦氏の末で同族でもある、対馬の宗家惟宗氏の菩提寺・万松院の荘厳さと比較したからか…合掌。

翌日は、朝鮮開国の神祖・壇君(だんくん)を祭る苗代川の「玉山宮」、川内市の菩提寺「福昌寺」や「原発」などに詣で、入來町の君が代発祥の地という「大宮神社」(オオナムチ神=オオクニヌシ)を経由して、乗船した。

スサノオやオオクニヌシなどに環流していく、日本古代神と朝鮮半島。日本全国の神社は約八万社という。わけても新羅系秦氏の「稲荷神信仰」(三万二千社)と、隼人・蝦夷征伐のための「八幡宮」(二万五千社)だけで約七割を占める。奄美には一社もないのだが、日本国が単一民族と言えるのだろうか。

「沖縄で墓参りをしたあと、死ぬつもりだ」。船中で泣いて話しかけてきたブラジル帰りの古老の男性。二日後に沖縄で乗船し、徳之島沖で行方不明になった方でなければ…合掌。 

(森本眞一郎)

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