店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

南日本新聞:南点(H11.10.18)

「発生ゼロ」を

先月、友人が玄関前でハブに打た(かま)れた。幸いにもひざ頭 だった。一週間の入院ですんだが、大工の仕事にさわりがあるという。

 昨年、私は自宅となりの空き家で草取り中に、ハブを見つけた。も し私が気付かなかったら、逆に打たれたかもしれない。すみわけはで きないものか。

 ハブのいる奄美の大島・加計呂麻島・請島・与路島・徳之島など十 の市町村の人口は約十一万人。ここでは平成十年に百二十人のヒトが 十大毒蛇のハブに打たれた。およそ三日に一人、九百人に一人だ。血 清のおかげで死亡者は二名。

 平成十年度の『ハブ対策事業の概要』(県保険福祉部薬務課)を読 むと、奄美が日本復帰した直後の一九五四年頃は三百人以上が打たれ ている。ほとんど毎日だ。それが三分の一に減ったのは、生きハブの 県の買い取り価格を平成二年度に千三百四十円から三千円に引き上げ たからだ。さらに平成六年度からは全市町村が一律二千円の上乗せし たことにより、毎年度二万匹以上の買い上げになっている。しめて約一億円。

 しかし、『概要』の中の「ハブ咬傷者発生状況」に接するかぎりでは、 「ハブ捕獲奨励買上げ」事業は地方負担ではなく、国庫適用事業でも当 然ではないかと主張したくなる。

 たとえば、最近五年間の合計をまとめた「月別」表では、九月がト ップだが、ハブは冬眠をしないのでゼロの月がない。四時間おきの「 時刻別」でも、午前八〜十二時がトップで、ゼロの時刻帯がない。十 歳ごとの「年齢別」でも、六十歳代がトップで、ゼロの年代がない。 「場所別」では、畑、道路、庭(屋敷内)がベスト3で一人ずつ死ん でいる。最後に「動機別」の中の歩行中五十五人、就寝中十七人、室 内雑用中十四人、用便中七人、遊び中五人、炊事中二人、入浴中二人 という発生状況をどう読んだらいいのか。

 日本復帰からおよそ半世紀、九千二百三十九人のハブ咬傷者と、八 十四人の死亡者が「発生」し、進行中である。その間、国が奄美に投 じてきた一兆三千億円もの基盤整備事業とは誰のためだったのか。住民が安心して住めるように、せめて「発生ゼロ」を。

(森本眞一郎)

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