店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

南海日日新聞:書評(H8.9.17)

『無学日記』

池田福重・著 よろん文化村「ゆがぷー」発行 2000円

「ユンヌの暮らし描く」

ユンヌ(与論島)は距離的には沖永良部島より沖縄島の山原地方の方が近い。鹿児島県ではあるが地理も文化も沖縄圏。その与論島からユニークな自分史(生活誌)が出版された。

著者の池田福重さんは、一九一三年(大正二年)に生まれ、九〇年(平成二年)に七十九歳でグソー(後世)へ旅立つまで、ユンヌの風土に根を張って「誠の唄を歌い、誠の島に傷をつけない」ように生きてきたと言う。一九六四年(昭和三十九年)、砂糖小屋の前で倒れた時の臨死体験から池田さんは、「わが子や孫を誠の人間につくり育てるためにここに無学学校、無学教室を作ろうとこう決心したのである。そして昔の人が残された尊いたくさんの言葉、自分が経験したこと、いろんな出来事いろんな出会いがあったことなどをここで話しつつ遊ぶ、そんな遊び場所を作ると決心したのだ。」と日記の動機を記している。

五十九章からなる日記は、教室のテキストだろうか、一章ごとに読みデがある。P音の豊富なユンヌ方言で、ユンヌの豊な自然と暮らしを多くの人や事物を通してありのままに描いている。何よりも読み物としてムズライのが一番だ。日記を通してシマの味わい深いコスモロジーと遊ぶ感覚だ。手作りの本書は、ユンヌ在住の多くの協力者の参加によってまぁ(産)れた。とりわけ著者の人柄とその日記の内容に惚れこみ、ユンヌチュの誇りと使命感から、出版、編集、解説までを引き受けたのは喜山康三さん。喜山さんが採録した詳細な解説と方言群は、日記と共に、今後のユンヌ文化の創造に貴重な資料としてかなり役立つと思う。

この島では旅立つ者も暮らし続ける人々も、時空をこえて真実(まこと)の縁で結ばれているのかも。ユンヌや誠ぬ島どぅ。宝ぬ島どぅ。とおーとぅがなしぬ島どぅ。本書でユンヌと出逢った一人から。どうか、どうか。

(森本眞一郎)

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