店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

南海日日新聞:書評(H7)

『沖縄文芸年鑑1995年』 「貴重な巻末(資料)」

一九九三年、琉球弧の熱い文化の風を送り続けてきた「新沖縄文学」の休刊と、フリースペース「沖縄ジァンジァン」の閉館のニュースは、祖国復帰して二十一年目の沖縄の文化状況を象徴するかのような事件で、奄美の私にもショックだった。

ところが、その年の暮れには、早くも季刊誌「けーし風」と「沖縄文芸年鑑」が補完的に創刊された。両紙とも奄美への目配りを忘れずに、民間版"琉球弧の風"を送り続けている。これも、一県の出版点数が九州全県より多い、文化大国ウチナーならではの力量と執念といえる。三年目の「沖縄文芸年鑑」(1995年版)は、ウチナーのそうした背景に支えられて、さらにリキが入り、磨きがかかってきた。ちなみに、詩と書評のコーナーには、藤井令一氏、矢口哲男氏、進一男氏が定番のように登場している。

去年ウチナーに行けなかった私が、まず目を通したのは「各分野概観」。一年間の沖縄の文化状況をまとめたものだが、各分野のメニューがめちゃ多彩で、明るく、楽しく、そして羨(うらや)ましい。論談、短歌、俳句、児童文学、演劇、映画、音楽、郷土芸能、美術、写真、建築、沖縄研究、出版、テレビ、マンガ、世相、風俗、流行という類の、とても一小県のなせるわざとは思えないほどのエンサイクロペディア的趣があって、これを奄美のバージョンで企画できないものかと、今年も思った。

ところで、私はこの「年鑑」を年鑑たらしめているのは、巻末の百ページに及ぶ「資料」だと、本業の立場から確信している。つまり、沖縄・奄美の「文芸年表」「文芸各賞受賞者一覧」「出版社一覧」「文学団体・同人誌一覧」「新刊図書目録」「文芸関係者人名録」などがそうである。奄美関係の情報は間弘志氏が主に提供しているが、奄美でこれほどの文芸、文化活動が本当にあったのかと疑いたくなるほど充実した「資料」になっている。

感謝。

(森本眞一郎)

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