店主のつぶやき 平成以降に、アナログメディアに書いてきた分を収めています。
その他もれてるものも随時補充していきます。
更新は少ないかと思いますが、バックナンバーを読まれた感想などもお寄せください。

沖縄タイムス(02・5・14付け)
                  「復帰30年、不在の検証」
                                               森本眞一郎(アマミアン)

                    シマンユへの復帰を

                    島津、米支配の歴史重なる


 老婆がドゲザして合掌した。
 「チジサマ、ハヨ、ヤマトゥンユ、ナシクレンショーレ、トウトガナシ、
トウトガナシ……」
 安保条約が発効された一九五二年、鹿児島の重成格知事が旧
領土の奄美に上陸した時だ。

 幻の「奄美群島政府」の年に、ワンは大島に生まれた。復帰にち
なんで名付けられたフキコやフキオ(復帰っ子)たちは今年、四十九
歳になる。
 奄美の復帰を遡行してみよう。

 一九五三年:十二月二十五日、奄美群島日本復帰/一九五二年:
大島郡十島村(トカラ)日本復帰/一九五一年:琉球臨時中央政府設
置/一九五〇年:奄美群島政府設置/一九四六年:大島支庁、臨時
北部南西諸島政庁と改称/一九四五年:敗戦。米兵約六十名名瀬に
進駐。

 プレゼント!

 トカラ・奄美への日の丸返還は、宗主国アメリカからのクリスマスプレ
ゼント!だった。ポスト朝鮮戦争をにらんで沖縄島の基地特化のため、
復帰運動が先行していた奄美グループとの分断をねらっての戦略だった。

 中国における台湾の「生蕃」(せいばん)と同様、倭(やまとぅ)にとって
「南島人」は、王化に浴さ(せ)ぬ「化外の民」であり、それぞれが分離独
立した海彼の島嶼だった。

 たとえば敗戦後の一九四六年、日本政府は在留する外国人の送還の
ために人口調査をした。外国人とは、当時「非日本人(ノン・ジャパニーズ)」
だった朝鮮人、中国人、台湾人、琉球人。「琉球人」とは、トカラ、奄美、
沖縄に本籍がある者だ。調査の目的は、「日本内地ニ於ケル食糧配給、
治安確保等ノ上ニ及ボス影響極メテ大」なるためだった。ほんの半世紀前
のことだ。

 そんな内地人たちから「原日本人」(そんなものあるはずがない)とされる
「琉球弧(人)」だが、復帰以前はどのように切り結んできたのだろうか?

 重要事項6行

『沖縄の歴史年表』(那覇出版社)の「沖縄の重要事項」から奄美関係をひ
ろってみた。六行しかない。いや、六行も。

@七一四年:奄美・信覚(しがき)・球美(くみ)等の南島人帰朝(続日本記)
/A一二六六年:大島諸島、中山(英祖)に入貢/B一四六六年:尚徳、喜
界島に遠征/C一五三七年:尚清、大島を征討/D一五七一年:(尚元)大
島を王府の支配化におく/E一九五三年:奄美群島日本復帰。

  @の「南島人帰朝」はともかく、Aは三山以前で、「入貢」よりは「交易」の
ようだ。BCDの大島諸島への再三の「遠征」「征討」「支配」は、王府の侵略
による従属関係を物語る。

 一六〇九年の「島津の侵攻」。薩琉の戦後処理としての「奄美の併合・処分」
は、ネイティブアマミアンには今でもコロンブスの上陸だが、「沖縄の重要事項」
にはない。大島を侵略後に薩摩に処分して、琉球王国を維持した近世の琉球国
史。その後、琉球を侵略後にアメリカに処分して、天皇制を護持した戦後の日本
国史とは重なって映る。

E以降、在沖奄美人は「非日本国人」から「非琉球政府人」となり、公職追放、選
挙権剥奪(はくだつ)などで二重の分断と差別を受難した。同時に奄美人の沖縄
人へのまなざしも、北高南低型の皇国民的優越感に根ざしていた。

 琉球弧のミゾ

 母なる基層文化は共有するが、歴史的に琉球弧のミゾは深い。六行に漂う偽装
結婚・離婚の「琉球弧」の検証もこれからだ。一六〇九年と一九五三年から続く隔
ての海を結びの海にするには?

 さて、ワンは名瀬市の拝ん山と御殿(うどぅん)浜を結ぶ、神川(かんぎょ)と神道
(かんみち)のたもとでくらしてきた。わが家の近くの水上市場や闘鶏・闘牛場、奄
美固有の動植物、ネリヤからのウルやイノまで本土なみ以上に封印されてしまった。

 奄美・沖縄「シンコウ」のための特別の処方箋。それは補助金進貢による豊かさ
信仰と経済侵攻であり、ヒモツキのODAだ。シャブのアガリは日の丸デパートのモ
トジメたちへ。それぞれのコロニー植民地には、観光と基地に依存した廃墟だけが
増殖する。

 来年は奄美の復帰五十周年で、記念切手を構想中という。そう、「復帰」とはシマ
島固有のマブリをそぎ落とし、日本国の固有の領土として世界に認知させる装置だ
。米国のハワイ州のように。その先棒をかついでいるのが「南島」にかかわる我々自
身だ。

 今世紀のワンのテーマは未来への復帰だ。老婆が祈ったヤマトゥンユから、アンマ
ァたちが見守(まぶ)る聖なるシマンユへ。シャブ漬けでメロメロだが、チブルの腹筋運
動でリハビリだ。
                                              (了)


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