今月の一押し

[1998.09]

『残照の文化―奄美の島々』写真詩集『残照の文化―奄美の島々』

著者 写真 越間 誠
    詩 藤井令一
発行所 南海日日新聞社
1988年8月25日
定価:本体1500円+税

 あまみに帰ってきて18年になる。その間いつも敬愛し、何かとお教えいただいてきた奄美を代表する表現者のお二人が、世紀末の奄美のたそがれ時に、協同で一冊の写真詩集を産み出してくれた。奄美では珍しい瀟洒な詩写集(?)の誕生を心からご祝福させていただきたい。

 「振り返って見ますと、当時の島々を巡り廻って夢中で写し取ったころの、記憶が蘇って参ります。まだ奄美の島々は貧しくて、今日のような物の豊かさはなく、交通をはじめあらゆる面が不便で、情報文化も乏しい時代でした。
 だが、人々はとても豊かな自然に包みこまれて古くからの島のしきたりを大切に受け継いで生きてきました。そんな島と人を語るには、この写真ではほんのささやかなひとかけらにしか過ぎません。」(越間 誠・あとがきより)

 「この写真・詩集『残照の文化』は、名瀬市在住の民俗写真家の越間誠さんが、1965年(昭和40年代)から1985年(昭和50年代)にかけて、いずれはなくなり見られなくなると思える日本の南島である奄美諸島の、古くからの習俗文化を真摯に写し撮った膨大なモノクロ写真の中から、越間さんの承諾を得て私が選び出し、その四十点に詩(ソネット=十四行詩)をそえたものです。」(藤井令一・あとがきより)

"『残照の文化』とは?"

 このお二人の地味で幽かな協同作品群に対して、私は賢しらな文章でどういう風にコメントしたらいいのだろうか。ただただ写真の時空をまぶり(目守る)続けて、そえられたソネットの詩(うた)をつぶやき続けるしかない。無言こそがにあう詩写集だから・・
 越間さんと藤井さんへ、とぅとぅがなしだりょっか!ありっがっさまありょうたぁ。

 最終の作品「野辺送り」を掲載して紹介に代えさせていただく。

(本処あまみ庵代表:森本眞一郎)


野辺送り(『残照の文化―奄美の島々』より)
土に死者を葬ることは清める事であった
島では肉は土に溶け、魂は天に昇り
遠い昔から骨は墓の下に白く清く残されて

粛々と葬列は野辺の道を墓所へと行く
白鉢巻の担ぎ手が誘い近親者が棺に傘を差し
熱い日差しや雨を避け優しくいたわりつつ

先旗、弔旗、棺、マエズク、下駄、草履
その後に人々の葬列は黙々と後生への道を行き
墓所の入り口で担ぎ手は棺を左に三回廻し
マブリに「生まれジマ」への最後の別れをさせ

遠い頃の島の葬式は死者を愛おしみつつ
土に帰して七年以後の改葬の再会を待った
その野辺送りの文化も今はもう参照に薄れ
死者は急かれて火葬場にと葬送され

マエズク=墓の前に置いてロウソクや線香や供物を載せる台。
マブリ=人の霊魂

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