今月の一押し
['97.04]
グンセイフの夜
 出水沢 藍子(いずみさわあいこ)著
 (「小説春秋」1996 4号 1996.6発行)
 「小説春秋」 相星雅子 発行 900円
表紙
 <<目次>>
山之内 まつ子
吹けよ風、呼べよ嵐
佐有 トオル
白愁
波平 由紀靖
グンセイフの夜
出水沢 藍子
深き喪失
鳥集 モモエ
別離の賦
三原 実敏
あしたのジョニー
相星 雅子
レインボートッピー
森田 一正
さそり座
福本 正實

  先月の一押しに続いて、今月も96年の「南日本文学賞」を受賞した作品を。  著者は奄美大島・龍郷町・戸口出身。つまり、今回の受賞者2名は奄美人ちゅうくとぅだりょん。詩人大国の奄美から、鹿児島では初の小説での受賞、またまたホラシャ!ホコラシャ!の一押しです。  著者は『何もいらない−歩き続けた画家 保忠蔵の足跡−』(高城書房)を96年に出版したばかり。93年には小説『相似の海』で九州芸術祭文学賞鹿児島地区優秀賞。今回の受賞に気をよくした高城書房さんが、著者のこれまでの作品をまとめて近く出版の運びというから二重の喜びだ。鹿児島県を代表する女性の小説家が奄美から堂々と飛び立ったといえる。奄美二世の干刈あがたさんのようにトびまくって下さい。  ついでに沖縄で活躍中の清原つる代さんも紹介したい。瀬戸内町・久根津出身の彼女は、1983年九州芸術祭文学賞で佳作、1993年第19回新沖縄文学賞を受賞している小説家。宇検村出身のご主人の中村喬次さんは、「スク鳴り」で1992年に第22回九州芸術祭文学賞をなんと受賞してしまったというおしどり夫婦。もしかしたら今世紀中に「鹿児島県では初の、沖縄県では四人目の芥川賞を、奄美出身者が受賞!」なんてニュ−スが流れないとも限らない。ビコ−ズ、昨年、写真界の最高峰の土門拳賞に輝いたのはぼくの友人のカツミ・スナモリだったりするからだ。名瀬の金久中卒ですぞ。シマや文化だか豊かなシマだりょんちば。  ショウもないぼくの脱線より「グンセイフの夜」だ。これはおもしろい。グンセイフのことを知っているぼくらの世代にはことのほか楽しく読める。知らない人は想像をたくましくするだろうからもっと愉快に読める、と、思う。  舞台は日本復帰前の軍政府時代の奄美大島と、現代の鹿児島市とUSA。主人公の叔母の奔放な人生をめぐって奄美からアメリカまで一気に読ませてくれる。実話ふうの筆力、展開の妙、女性の虚栄心と生理的な直感力、奄美の位置の複雑さと豊饒さ、、。なるほど、ざ、小説、いやあ、物語ってほんとにいいもんですねえ、と久しぶりにつぶやいた。藍子さんおめでとう!今度出る本も楽しみにしています。

(本処あまみ庵代表:森本眞一郎)






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あまみ庵:今月の一押し['97.04]