今月の一押し

[2000.08]


      写真集                           
奄美 二十世紀の記録 
シマの暮らし、忘れえぬ日々
越間 誠著
南方新社・2000年8月15日発行
215頁・3800円+税

(目次)
第1章 光の果てに
第2章 うりうり(折々)の風景
寄 稿 小川久夫 素顔の芸能、仮面の芸能 
寄 稿  山下欣一 越間 誠論―豊穣の大地に立つ奄美人
越間誠  私の伝えたいこと―あとがきに代えて―


1998/09の「今月の一押し」は、写真詩集『残照の文化―奄美の島々』(写真:越間誠・詩:藤井令一)だった。これで詩人の藤井令一さんは沖縄の「山之口貘賞」を受賞したが、越間さんの今は亡きモノクロの風景がナイスなキカシ味になっていたからにちがいない。

「本書はいわば奄美の四十年の一つの断層である。そして風景や祭、人の暮らしなどを現象のみではなく、願わくば、それに関わる島人の心の絆、神の祈りと感謝、そしてしたたかな生命力を,いささかなりとも感受していただけたらと願う。」(著者「あとがき」から)とあるように、奄美写真界の中心的存在、越間誠さんが初めて世に問う全体像である。

今、名瀬市は夏の恒例の「奄美まつり」の季節だが、そこには、ハナビを楽しむ人々を撮り続ける越間さんが…。昨夜(8.6)の八月踊りでは、名瀬在住佐仁郷友会の踊りの輪にまじってほこらしゃに歌い踊っている誠さんが…。
そして今日は、「超大型・台風8号」の接近。ほんとにあわただしい奄美だが、そのニュースを横目に、越間さんは今もどこかの海辺や集落の風雨の現場にいて、シマの心と祈りと生命力を共有しているのだろう、とぼくは思わずにはいられない。

奄美とともに、奄美そのものを表現しつづけている越間さんの写真集をながめていると、ぼくなどは思わず喜怒哀楽がいっきょにごちゃごちゃに噴きだしてきて、いつまでもそこに釘づけにされてしまうのだが、その求心力の原点は、四十年間もの間、ひたすらシマ島の変化とともにありつづけてきた越間誠さんの、「奄美への固執であるが、奄美における生活者として、その行動様式に本能的に従うということでもあろう」(山下欣一)。

ぼくたち奄美(びとの世界)は、これからどこへ向かうのだろうか。今のままでいいのだろうか。
本書は単なるナチカシャ(懐かしさ)を超えた、未来に生きる奄美人への「現在への警鐘」であり、「二十世紀の記録」としての貴重な証言写真集である。
 8月14日更新の「こんな本はいりました」ではビデオ版を紹介してます。 

(本処あまみ庵代表:森本眞一郎)


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