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一年中季節外れ

No.102(2002.11.29)


私が農業の真似事として真面目に野菜作りに取り組んだのは高々5年間でした。
それでも栽培の成否が天候次第であることを痛感するには十分な期間でした。

台風銀座と呼ばれるような土地柄ですから当然その直撃による壊滅状態も何度か経験し途方に暮れました。
もっともそれほど頻繁に起こる災害ではないのでそんな時は運が悪かったと諦めるしかないのですが。

実際問題として常に気になっていたのは日照時間と降雨量です。過不足なくどちらにも恵まれれば申し分ないのですが、毎年心配の種になっていたというのが現実です。

さらに気温の急激な変化にも注意しなければなりませんでした。

農薬を散布するようになった原因である作物の病気や虫害が発生するか否かもこれらの気象条件に大きく影響されます。

その影響を減らして作物の栽培環境を人工的に管理しようという発想で始められたのがハウス栽培なのでしょう。

太陽光線の日照時間を増やすことは不可能なものの、水源さえ確保すれば雨が降らなくても作物に水を与えられますしハウス内の温度管理も可能になります。

その技術と商業主義が結びついた結果として季節外れの作物が主流になりました。

基本的に作物の価格は生産農家が決めるのではなく市場での需要と供給によって決まります。
露地で旬の野菜を栽培して出荷しても供給過剰のために市場での価格は安値になるのが普通です。

野菜の流通方法に問題があるため豊作を素直に喜べないという歪んだ状況が長く続いています。

このように市場原理で作物の価格が決められる状況ではハウス栽培ものは比較的安定した収入が得られます。

そのため施設に先行投資するという経営上の危険性を承知しながらもやむを得ずハウス栽培に移行していた専業農家が私の周囲でも多かったです。

私が耳にした話ではJAは全国組織なので作物ごとに各生産地の出荷時期を割り振って公平になるように均衡を保っているとのことでした。

ことによると大消費地である都会ではそのような約束事のために一年中季節外れのハウス栽培野菜が売られているかもしれませんね。

さて、「身土不二」とは自分が住んでいる土地でその季節に収穫される野菜を食べるようにしましょうという教えで、それが健康に寄与するともしています。

有機栽培や無農薬減農薬、さらには無化学肥料で栽培された野菜への消費者の関心はかなり高まってきているようです。

そろそろもう一歩踏み出して、露地ものを大前提に自身の移住地からなるべく近い産地の野菜を選ぶようにすべき時期が来ているように思います。

消費者が賢くなることによって農業の工業製品への依存度は低くなっていくでしょうし、また農家がハウス栽培という博打に手を出さなくてもすむようになっていくでしょう。

気象条件という自然に左右される(露地栽培による)農業において生産される安心して食べられる野菜に対しては、市場原理から切り離して(農家の生計が成り立つ)適正な価格を設定するのが理想だと考えます。

ここからは余談になります。

諺や言葉の意味、解釈が本来のものとは変わってしまうことも多い昨今、「温室育ち」に関してはどうなっているのか気になるところです。

もし地球温暖化が事実だとしたら、人類全体が「温室育ち」になっていることになります。

おっと、最後は恒例の大風呂敷になってしまいました。


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