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農村で暮らす (1)

No.57(2001.08.01)


神奈川生まれで東京育ちの私には田舎と呼べるほどの古里はありません。

そんな私は子供の頃から未知なる田舎暮らしに漠然と憧れを抱いていました。

玄米菜食で内なる自然が目覚めて価値観が激変してしまってからはさらに思いが募りました。

また、自然食を始めた人間の多くが欲するように自分で野菜を育ててみたくもなっていました。

たまたま当時はバブルの真っ盛りで、巷には金銭欲に踊らされている人間があふれかえっていました。

そんな環境での居心地の悪さに嫌気がさした私は思い切って田舎に引っ越すことを決断しました。

とはいっても私も連れ合いも自然が豊かな田舎に親戚は一人もいません。

結局それまでにスキューバ・ダイビングをしに数回訪れて、そののんびりした気候風土とおおらかな人間性に魅力を感じていた南九州のとある地域に決めました。

排他的な集落には住みたくなかったので、家をさがす際に不動産業者の人にそこの土地柄やよそ者に対する接し方などを併せて調べてはもらいました。

しかし、しょせんそれらは実際に住んでみなければ分からない事柄です。

また、方言は全然理解できなかったので言葉の面での不安もありました。

最終的には、どうせ地縁血縁のまったくない土地で暮らすと決断したのだから最後は当たって砕けろだ、という心境になり、ある農村で暮らし始めてしまった私でした。

その頃の私は、東京での損得勘定優先で疑心不可欠な人間関係に疲れていたために、田舎の人々に過度の期待をしていたことは否めません。


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