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日本の特殊教育の行方(6)
「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」に対するコメント
2003年7月,伊地知信二・奈緒美

メーリングリストからの情報で,最終報告が3月28日に出されていたことを教えていただき,遅くなりましたがレビューしてみます.

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301.htm

まず最初に,問題点が非常に判りにくくなってきておりますので,私どもの立場を明記します.

これまでの私どもの個人的立場・考え方
1.私どもは,例え重度の障害児や重複障害児であっても,その教育的ニーズは普通学校で提供されるべきとしたサラマンカ宣言(1994年)を理念として支持します.このサラマンカ宣言は,日本の代表者も参加し,全会一致で採択されたとされますが,不思議なことに,日本では完全に無視され続けており,世界的な批判を受けております.

.私どもは,バンク-ミケルセン氏が最初に唱えた「ノーマリゼーション(ノーマライゼーション)」の主旨である脱施設化・脱特殊学校化の思想が,無視されあるいは誤解され続けていることに憂慮します.

3.私どもは,平成6年に日本も批准した子供の権利条約中の「申し込みに応じた援助を」という趣旨を支持します.従って,特殊学校や通級システムは,本人および親が魅力を感じる形態であれば,必要な範囲内で残してもいいと考えます.

次に,これまでに文部科学省が表明した内容の問題点を簡単にまとめます.

文部科学省のこれまでの立場
1.盲・聾・養護学校存続

2.障害者の自立や社会参加支援だけをノーマライゼーションとして,バンク-ミケルセン氏の脱施設化・脱特殊学校化の理念を無視

3.「申し込みに応じた支援」というスタンスはほとんどない

4.特殊学校対象者基準の徹底と,障害度による就学時選別

 

今後の特別支援教育のあり方について(最終報告)の要点

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301a.htm

要点1:「特殊教育」から「特別支援教育」への転換(LD,ADHD,高機能自閉症への対応も)

要点2:個別教育支援計画,特別支援教育コーディネーター,広域特別支援連携協議会,などの重要性を指摘

要点3:盲・聾・養護学校から特別支援学校へ(重複障害への対応を重視,地域のセンター的役割)

要点4:特殊学級や通級制度を,通常の学級に在籍した上で必要な時間のみ「特別支援教室(仮称)」の場で特別な指導を受けることを可能とする制度に一本化する必要性を指摘

 

各要点に対するコメント

要点1:「特殊教育」から「特別支援教育」への転換(LD,ADHD,高機能自閉症への対応も) について

普通学級に在籍可能なLD児,ADHD児,高機能自閉症児への対応は,これまでシステムとしては存在せず,現場任せであったわけです.これまで特殊教育として対応していた子供たちに加え,こういった普通学級の子供たちも対象とするのが特別支援教育としています.「一人一人の教育的ニーズを把握して,必要な支援を行う」としたこの基本的考え方は,評価すべき内容と考えます.

要点2:個別教育支援計画,特別支援教育コーディネーター,広域特別支援連携協議会,などの重要性を指摘 について

普通学校では,普通クラスに在籍しているLD児,ADHD児,高機能自閉症児と,これまで特殊学級に在籍していた子供たち(普通学級に在籍させてもらえなかった子供たち:今後は普通学級に在籍させ一本化)の両方に対して,個別教育支援計画を立て,策定・実施・評価のプロセスを行うことが重要としています.また,普通学校には保護者に対する学校の窓口の役割を担う特別支援教育コーディネーターを置くべきとしています.さらに,都道府県レベルでの部局横断型の組織として広域特別支援連携協議会を設けるアイデアが提示してあります.普通学校で行う,個別教育支援計画のプロセスはあるべき姿と考えます.

要点3:盲・聾・養護学校から特別支援学校へ(重複障害への対応を重視,地域のセンター的役割) について

特別支援学校は,従来の養護学校の業務に加え,地域の普通学校などに対する教育上の支援(教員,保護者に対する相談支援など)を行うべきとして,地域の特別支援教育のセンターとなるべきとしています.また,障害の重複化や多様化への対応を可能とすべきとしています.具体的には,盲・聾・養護学校という名称を「特別支援学校(仮称)」と改めて,重複障害児の状態に応じた適切な教育を確保できる学校にするということのようですが,全ての盲・聾・養護学校が重複障害児対応になるわけではないようで,「従来のように視覚障害,聴覚障害,知的障害等に対応して特定の教育部門のみを有する学校を設けることも同様に可能」としています.具体的には,参考5のイメージ図中にあるように,特別支援学校(知的障害+肢体不自由部門)とか,特別支援学校(聴覚障害部門)と呼ばれるようです.

参考資料の5.特別支援教育体制に関するイメージ図:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301l.pdf

要点4:特殊学級や通級制度を,通常の学級に在籍した上で必要な時間のみ「特別支援教室(仮称)」の場で特別な指導を受けることを可能とする制度に一本化する必要性を指摘 について

「特別支援教室の運営形態としては,障害の状態によって,1.従来の通級指導の対象となる児童生徒のように週に数時間のみこの教室で指導を受ける場合,2.従来の特殊学級における教育の対象となる児童のように週の相当の時間をこの教室で指導を受ける場合,また,3.小学校の低学年で集中的に特別の指導をこの教室で受け,高学年ではほとんどの時間を他の児童生徒と共に学習するという場合等様々なものが考えられ,従来の特殊教育の機能を包含しつつ弾力的な対応を可能とするものである.」と記載されており,通常の学級に在籍することを原則とし,必要な個別指導の場所としてのみ特別支援教室を使うとしています.本人にとって必要であれば,従来の特殊学級に在籍している児童のように,週の相当の時間を特別支援教室で過ごす選択肢も残しつつ,在籍は通常学級であっていつでも通常学級に戻れると解釈できます.

 

全体的なコメント

脱養護学校,脱施設という流れは残念ながらまだみられません.現在ある養護学校の名称を特別支援学校(仮称)と変更して内容をより専門的,また多面的(重複障害への対応)に充実させるという方針です.

「今後の盲・聾・養護学校は,障害が重い,あるいは障害が重複していることにより専門性の高い指導や施設・設備等による教育的支援の必要性が大きい児童生徒に対する教育を地域において中心的に担う役割とともに,教育的支援の必要性の程度がそれに至らない児童生徒が就学する小・中学校等における教育や指導に関し,教員や保護者の相談に応じ,助言等を行うなど・・・」という記載があり,教育的支援の必要性の程度が,重度障害児や重複障害児ほどでない子供は普通学校にというふうに解釈できないこともありません.ひょっとしたら,特別支援学校(仮称)の対象児童は,「従来と比べ,より重症度の高い児童や重複障害児童に限定すべき」という意見がでてきたのかもしれません.

これまでの文部科学省の発表と今回の発表の違いをもう一度まとめますと:

1.普通学校では全ての対象児が普通クラス在籍を原則とし,特殊学級(特別支援教室)の柔軟利用を明記した点

2.養護学校(特別支援学校)は,重症児童のために特化することを示唆した点(読み過ぎかもしれません)

現在の養護学校を特別支援学校として重症障害児のために特化し,現在の特殊学級は特別支援教室と呼んで普通クラスに在籍する児童が必要な時だけ使うという方針であるとすれば,一歩前進したと言うべきです.しかし,この指針を机上の空論にしないためには,普通クラスで障害児を受け入れるためのインフラ整備(人的,構造的)が不可欠です.対象児のいる普通クラスに補助教員を簡単に導入できる仕組みや,普通学校のバリアフリー化など早急の対応を期待したいと思います.もし特別支援インフラ整備が伴わなければ,今回の指針で障害児の居場所はさらになくなることになります.


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