Sorry, so far available only in Japanese.
日本の特殊教育の行方(2)
パブリックコメント意見募集(文部科学省より)


2001年12月,伊地知信二・奈緒美

文部科学省の「パブリックコメント・意見募集」のホームページに,12月26日付けで「学校教育法施行令の一部を改正する政令案について(意見募集)」が掲載されました.

http://www.mext.go.jp/b_menu/public/index.htm

意見提出期限が平成14年1月16日(水)必着で,提出方法が郵便か電子メールとなっております.以下に私どもがメールで提出しました意見を紹介します.「いただいたご意見に対する個別の回答は致しかねますので,その旨御了承願います」としてあり,意見を送っても中身を検討してくれない可能性もありますが,意見をお持ちの方は是非メールででも提出してみてください.

意見投稿用のメールアドレスは:tokubetu@mext.go.jpです.

(心配されていた特例要件は含まれていませんが,やはり問題の多い改正です)

1.氏名 伊地知信二
2−4.省略
5.意見

(1)学校教育法施行令第22条の3の表関連として,「盲・聾・養護学校の対象となる障害の程度に関する基準の改正」をIとしておられますが,この「対象となる障害の程度に関する基準」という新しい表現により,この対象に当てはまる児が普通学校を希望した際に,子供の権利条約で保障されているはずの「親や本人の申し込み」が就学に反映されない傾向を助長する可能性があります.この「対象となる障害の程度に関する基準」という表現を明文化しないようお願いいたします.

現行の表には「法第71条の2の政令で定める盲者,聾者又は知的障害者,肢体不自由者若しくは病弱者の心身の故障の程度は・・・」となっており,教育基本法第71条の2では,「前条の盲者,聾者又は知的障害者,肢体不自由者若しくは病弱者の心身の故障の程度は,政令で,これを定める」となっており,前条であります第71条では,「盲学校,聾学校又は養護学校は,それぞれ盲者,聾者又は知的障害者,肢体不自由者若しくは病弱者に対して,幼稚園,小学校,中学校又は高等学校に準ずる教育を施し,あわせてその欠陥を補うために,必要な知識技能を授けることを目的とする.」となっております.従って,学校教育法施行令第22条の3の表の心身の故障の程度とは,ここで言うところの障害者の定義として位置付けることができます.「その障害者に教育を施すことが特殊学校の目的である」とは書いてありますが,「この基準を満たすものが特殊学校の対象となる」とは書いてありません.

(2)そもそも「21世紀の特殊教育の在り方について」にあるように個別対応の重要性に着目するのであれば,特殊学校適応の基準なるものを新たに設定する場合,それぞれの児における集中的個別指導の必要性や特殊な教育環境の必要性で設定すべきで,障害の程度や援助の必要性を教育上の処遇設定の基準にすることには大きな矛盾を感じます.前述のように,現行の条文には「特殊学校の対象となる障害の程度」という記載は存在しておりませんので,そのような基準がもし必要であるなら,教育的な立場から「親に特殊学校を勧めるケースの参考基準(集中的個別指導の必要性など)」というスタンスで設定されてはどうでしょうか?

(3)Iの表の下に,「学校教育法第71条の2において,盲・聾・養護学校の対象となる盲者,聾者,知的障害者,肢体不自由者,病弱者の心身の故障の程度は政令で定めることとなっている」と記載されておりますが,学校教育法第71条の2には,「盲・聾・養護学校の対象となる」という表現は存在せず,(1)に前述しましたように特殊学校の目的で記載してある障害者の定義が表示してあるだけです.このような新しい表現の追加はバンク-ミケルセン氏が唱えた「ノーマリゼーション(ノーマライゼーション)」の趣旨である脱施設化・脱特殊学校化の思想から著しく逸脱する考えに基づくものと思います.「21世紀の特殊教育の在り方について」でも,ノーマライゼーションという言葉が使われておりますので,このような細部の表現法にもご配慮くださいますようお願いいたします.

(4)IIの就学手続の改正中について:「21世紀の特殊教育の在り方について」の「就学指導委員会の役割の充実について」中には,「審議に当たり保護者が意見を表明する機会を設ける」とありますが,この就学手続の条文案は,新しく設定する特殊学校就学対象者基準に従って事務的に処理する内容しかなく,ここでも子供の権利条約で保障されているはずの「親や本人の申し込み」に対する配慮が完全に欠如しております.

(5)IIの就学手続の改正の中で,「基準に該当しても,その障害の状態に照らして,小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者について,市町村教育委員会が小・中学校の入学期日を通知をするための規定を整備する」とありますが,この規定が就学指導資料などにチェックリスト(なになにの状態でないこと)として盛り込まれることを危惧しております.特殊学校就学対象者基準の新設に加え,就学指導資料での特例要件で,「障害児が普通学校で学べる権利」が法的に完全に奪われてしまうことが非常に心配です.

(全体的なコメント)(1)で記載しましたように,現行の条文には特殊学校対象者基準なるものは存在しないにもかかわらず,それがさも存在するように恣意的にあつかっておられる点が一番の問題です.現行条文では対象者基準とは記載されていない(条文中の障害者の定義として記載されている)第22条の3の表のタイトルや説明文を,この表が対象者基準になるように書き換えることがこの改正の主目的であるようにさえ感じます.確かに,盲・聾・肢体不自由者については,眼鏡,補聴器,補装具などの助けをかりて普通学校に通えることを明文化した点は評価できると思いますが,統合教育,インクルージョンの世界的流れに反する部分の多い改正であり,この内容であれば改正しない方がまだいいと思います.個別指導を教育理念とする「ひとりひとりへの対応」と子供の権利条約にある「申し込みに応じた」教育の両方へのバランスのとれた配慮が必要と考えます.


表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: jyajya@po.synapse.ne.jp