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水銀と自閉症(2)
:ランセットの記事

2001年8月,伊地知信二・奈緒美

ランセットの記事から2つです.これまでの報告の中にはThimerosalが自閉症の原因になり得ると結論できるような証拠は,今のところ存在しないというアメリカでの見解です.同時にまた,関連がないと結論できるような証拠もない段階です.アメリカの行政サイドの見解ですが,thimerosal含有ワクチンしかない場合は,thimerosal含有ワクチンを使うべきであると強調しています.
IOMのレビュー(文献1)
ワクチンの安全性に関して続いている懸念が,US National Academy of Sciences Institute of Medicine(IOM)によるマサチューセッツ州Cambridgeでの公開会議を召集した.この公開会議は7月16日に行われ,ワクチンの生産過程で使われる水銀含有防腐剤thimerosalと神経発達障害(特に自閉症)との関連に関する証拠をレビューすることを目的としている.自閉症の有病率は最近10年で明らかに増加していることが知られている.

Thimerosalはエチル水銀としても知られており,1930年から防腐剤として使われ,現在はメチル水銀と同様なリスクを持っていると考えられている.メチル水銀は動物でも人間でもその毒性が有名である.1999年6月,アメリカ小児科学会(American Academiy of Pediatrics)とアメリカ公衆衛生局(US Public Health Service)は,ワクチンからの水銀暴露量が,生後6ヶ月の子供でガイドラインに定められた最大許容レベルを超えていることを認知し,ワクチン製造会社に対し,thimerosal含有ワクチンの製造停止を勧告した.アメリカではもはや通常thimerosal含有ワクチンは存在しないが(ヨーロッパおよびイギリスの関係当局もまたthimerosal含有ワクチンをなくしていくことを推奨している),特に開発途上国などでは未だに標準的ワクチンである.Johns Hopkins大学のNeal Halseyは,全ての国でthimerosal含有ワクチンの使用を中止する必要があるが,単体ワクチンへの切り替え,保存のために必要となる追加資金,製造,他の防腐剤,そして新たな剤質管理など多大な費用が必要になり発展途上国の負担となると述べた.

この会議は,IOMの予防接種安全総括委員会(CDCとNIHの共同召集により設立された独立専門グループ)が主催した3回目の召集会議である.

その報告は,会議後の90日以内に発令されることとして,委員会は公衆衛生対策としてサーベイランス,研究そして政策を推奨することを述べた.原因の証拠に加え,副作用の生物学的整合性も考慮され,問題の社会的および文化的文脈が検討される予定とのことである.


Thimerosalと神経発達障害に因果関係は証明されていない(文献2)

いくつかのワクチンの中に防腐剤として入っている水銀含有化合物であるthimerosalが小児神経発達障害のリスクを増加させることを示唆する十分な証拠はない(10月1日に公開されたUS Institute of Medicineの予防接種安全総括委員会報告による).

「現存する易学的証拠は,ワクチンからのthimerosal暴露と,自閉症やADHDや会話・言語発達遅滞などの神経発達障害との間の因果関係を,肯定するためにも不十分であり,また否定するにも不十分である」と委員会議長のMarie McCormick(Harvard School of Public Health)は,報告書の発表会で語った.

Thimerosalはメチル水銀に密接に関連しているエチル水銀に代謝される.また,高濃度の水銀化合物は神経毒性があることで知られている.このthimerosalの安全性に関する懸念が問題となっているのである.Thimerosalは1930年代からワクチンの製造過程での細菌混入を防ぐためにに使われている.1999年にアメリカ公衆衛生局とアメリカ小児科学会は,通常小児に使用されるワクチンから水銀化合物を除去すべきと勧告し,その勧告に従って,ワクチン製造会社はthimerosalを含まないワクチンの製造を始めた.しかし,thimerosalフリーワクチンへの切り替えは迅速にはできず,thimerosalを含んだワクチンがどれだけ流通されているかは不明である.

2001年1月に,CDCとNIHの要望により予防接種安全総括委員会が立ち上げられた.この委員会は,thimerosalと神経障害の間の関連を示唆する既に公表された研究と未公開の研究結果を検討した.7月にはボストンにおいてエビデンスをレビューする公開会議も開催された(文献1).これらの情報源を基に,委員会はthimerosalと神経発達障害との間の提案された関係はエビデンスによって支持されたものではないと結論した.この結論の理由は,人においては,低濃度のthimerosalは発達遅滞に関連がなく,またエチル水銀に関する毒素学的データも,特に低濃度では,限られたものであった.加えて,神経システムにおける異常は,出生後ではなく,出生前に低濃度のメチル水銀に暴露した時のみに見られる.

関連を支持するエビデンスが欠如しているのにもかかわらず,報告書では,thimerosalと発達障害の間の関連が「生物学的にはもっともらしい」と述べられている.委員会はthimerosalフリーのワクチンが,子供において使われるべきと推奨している.しかし,実際はいまだにthimerosalを含んだワクチンが供給され続けているのである.しかしMcCormickはthimerosal含有ワクチンは,もし代替品がないのであればワクチンとして使われるべきであると強調した.「Thimerosalの健康に与える効果は不明であるが,ワクチンを接種しないことに起因する深刻な結果は非常にはっきりしているのである.つまり,もしthimerosalフリーのワクチンが供給されなければ,thimerosal含有ワクチンが使われるべきである.」としている.


文献
1. McLellan F. IOM reviews evidence on thimerosal link to autism. Lancet 358: 214, 2001.

2. Frankish H. Report finds no link between thimerosal and neurodevelopmental disorders. Lancet 358: 1163, 2001.


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