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成人の自閉症者の特効薬(SSRI)?とその副作用

1997年1月、伊地知信二/奈緒美
1999年6月一部訂正

話題の薬は,選択的セロトニン再吸収阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitor:以下はSSRIと記載します)です.現在欧米で知られているSSRIは,フルボキサミン(fluvoxamine),フルオキセチン(fluoxetine),セルトラリン(sertraline),パロキセチン(paroxetine)の4つで,この4つは日本での医療用医薬品にはまだ含まれていません.日本での処方薬の中では,塩酸トラゾドン(trazodone hydrochloride,一般名デジレル/レスリン)がセロトニン再吸収阻害作用を持っていますが,選択的ではありません(ウェルフェア九州病院の鮫島先生に教えていただきました).1999年6月から,フルボキサミン(デプロメール)が日本での初めてのSSRIとしてうつ病に対し使えるようになりました.

Harveyらは,20歳の自閉症女性にフルボキサミンを投与し,重症の繰り返し行動が劇的に改善したと報告しています(文献1).McDougleは,15人の成人自閉症者にフルボキサミンを投与し,8人(53%)の患者で明らかな症状の改善がみられたと報告しています(文献2).改善したとされる症状は,繰り返し思考や行動および攻撃性です.社会への適応能力についても,2例は共同生活施設から自宅へひとりで帰れるようになり,1例は普通の日勤の仕事をこなせるようになり,また他の1例は,親戚の結婚式に出席するための飛行機旅行が可能な状態になったと,具体的に報告されています(文献3).また,Hellingsらは,セルトラリンを5例の自閉症患者を含む9例の成人に投与し,8例に効果を認め,SSRIが自傷行為や攻撃性に有効な治療薬として期待できると結論しています(文献4).自閉症児に関する臨床報告は,現時点ではないようです.

このSSRIは,最近,別の意味(副作用)で話題になっている薬です.SSRIはうつ病の治療薬として世界的に知られています.フルオキセチンはアメリカでは抗うつ剤の中では最も頻用されており(文献5),また世界中で1200万人以上のうつ病患者がフルオキセチンを使っているとのことです(文献6).フルオキセチンは,現在副作用に関する2つの議論をかかえているのです.

一つ目の議論は,この薬の副作用として,自殺企図や殺人企図,攻撃的な行動,振戦(ふるえ),てんかんなどがアメリカのマスメディアによって注目されたにもかかわらず,その副作用に関する医学的な裏付けが得られていないという問題です(文献7).この問題は,一例一例の経験を重視し,大規模で科学的な副作用の再検討の必要性を示唆する臨床医と,副作用については検討済みとしてあくまでも安全性を強調する薬品製造会社との対立の構図まで浮き彫りにしているようです(文献7).同じSSRIであるセルトラリンでは,てんかんや意識障害を誘発する低ナトリウム血症の報告もみられます(文献8).はっきりと効果が期待できる薬であれば,副作用も当然出現する可能性があるというのは常識なのですが・・・.

もうひとつの議論は,フルオキセチンの妊娠中の投与が胎児に影響を及ぼすか否かの議論です.母親が妊娠中にこの薬をのんでも,その子供には何の問題も生じないとする報告(文献9-14)と,妊娠3ケ月以内にフルオキセチンをのむと,子供に小奇形を誘発する危険が増し,また妊娠7ケ月以後にのむと,早産や出生時のトラブルの可能性が増加するという報告(文献5)の両者があり,結論がでていません.

SSRIは,自閉症に有効な薬として期待されているようですが,副作用に関するこういった議論の結論がでるのを待つ必要がありそうです.


文献
1. Harvey RJ and Cooray SE. The effective treatment of severe repetitive behaviour with fluvoxamine in a 20 year old autistic female. Int Clin Psychopharmacol 10: 201*-203, 1995.
2. McDougle CJ, et al. A double-blind, placebo-controlled study of fluvoxamine in adults with autistic disorder. Arch Gen Psychiatry 53: 1001-1008, 1996.
3. Larkin M. Approaches to amelioration of autism in adulthood. Lancet 349: 186, 1997.
4. Hellings JA, et al. Sertraline response in adults with mental retardation and autistic disorder. J Clin Psychiatry 57: 333-336, 1996.
5. Chambers CD, et al. Birth outcomes in pregnant women taking fluoxetine. N Engl J Med 335: 1010-1015, 1996.
6. Robert E. Treating depression in pregnacy. N Engl J Med 335: 1056-1058, 1996.
7. Bourguignon RP. Dangers of fluoxetine. Lancet 349: 214, 1997.
8. Kessler J and Samuels SC. Sertraline and hyponatremia. N Engl J Med 335: 524, 1996.
9. Pastuszak A, et al. JAMA 269: 2246-2248, 1993.
10. Rosa FW. Reprod Toxicol 8: 444, 1994.
11. Nulman I, et al. Clin Pharmacol Ther 59: 159, 1995.
12. Goldstein DJ. J Clin Pharmacol 15: 417-420, 1995.
13. McElhatton PR, et al. Reprod Toxicol 10: 285-294, 1996.
14. Nulman I, et al. N Engl J Med 336: 258-262, 1997.


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