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セクレチン・自閉症(6)

セクレチン騒動文献リスト(2002年3月)


2002年3月,伊地知信二・奈緒美

セクレチン騒動に関する紹介済みの論文を含み,これまでの主な論文を整理します.オープントライアルのところに紹介しますLightdaleらの論文(文献13)は,single-blinded,open-labelとなっていますが,ビデオテープの録画時期を評価者にブラインドにするという方法です.この研究はオープントライアルであり,70%の親が中等度から高度の変化があったと報告しているのに対し,ビデオテープでの評価では無効という結果がでています.親のプラセボ効果が入らないようにする方法としては,このブラインド法は今後かなり有望と思います.

(治療効果に対して肯定的な論文など)

・Horvathらの症例報告(3例)(文献1):大騒動のきっかけを作った論文です.内視鏡を使った膵液・胆汁液分泌検査で,セクレチンを静注された3人の自閉症スペクトル児(慢性の下痢)が,5週間以内に劇的に問題行動の改善を示したとするものです.膵液・胆汁分泌検査の結果は反応が増加しており,検査の後胃腸症状は有意に改善し,同時にアイコンタクト,注意力,表出言語の広がりに改善があったと報告しました.原文では,「a dramatic improvement in their behavior」と記載されています.

・Horvathらの自閉症児36例の検討(文献2):胃カメラ,胃粘膜生検,セクレチン静注負荷など.セクレチン負荷による膵液・胆汁分泌反応増加の所見は,膵臓と肝臓におけるセクレチン受容体の増加(upregulation)を示唆するとしています.この36例の中に文献1の3例が含まれているかどうかは記載されていないようです.

・Sandlerらの二重盲検プラセボコントロール研究(下記文献5)の結果に対するHorvathの反論(文献3):上の論文の36人のケースの多くの例で,繰り返し注射することで社会的なスキルや行動スキルが徐々に改善したと記載(文献2には書いていない).慢性的な病態が,1回の治療で完全に良くなることは例外的とし(Horvath自身は論文1で1回投与で5週間以内に劇的改善と記載),Sandlerらのケースには消化管症状の症例が含まれていないことなどを指摘.

(プラセボを使ったコントロール研究)

文献 研究デザイン セクレチン 例数 評価 結果
Owleyら(文献4) 無作為二重盲検クロスオーバー ブタ,2CU/kg,1回静注 20人 4週 効果証明されず
Sandlerら(文献5) 無作為二重盲検,28人づつ2群 人,0.4マイクロg/kg,1回静脈注 56人 4週 効果証明されず
Chezら(文献6) オープン+二重盲検クロスオーバー 2IU/kg,1回静注 25人 4週 効果証明されず

(オープンで著効例が盲検では効果証明されず)

Dunn-Geierら(文献7) 無作為二重盲検 ブタ,2CU/kg,1回静注 95人 3週 効果証明されず(メタ解析あり)
Coniglioら(文献8) 無作為二重盲検 2CU/kg,1回静注 60人 6週 注射後3週で危険率0.051

注射後6週で効果証明されず

Robertsら(文献9) 無作為二重盲検 ブタ,6週間隔で2回静注 64人 注射の3週後 効果証明されず
Corbettら(文献10) 無作為二重盲検クロスオーバー ブタ,1回静注 12人 16週 効果証明されず

(活動性が増加)

Owleyら(文献11) 多施設,無作為二重盲検クロスオーバー ブタ,1回静注 56人 4週 効果証明されず

(メタ解析)

・Dunn-Geierら(文献7):上記表中.3つのプラセボコントロール研究を解析.

・McQueenとHeck(文献12):1998年12月から2001年8月までの文献(科学的論文,経験的報告,学会抄録).治癒例なし.効果がある可能性が残るとしており,さらなる研究が必要としている.

(オープントライアル)

・Lightdaleら(文献13):客観的評価のために児の様子をビデオテープに録画し,それを2人の観察者が自閉症観察スケールで評価.このビデオテープが録画された時期が治療後のいつであるのか(1-5週),観察者にはブラインドにして行われています.セクレチンは3CU/kgの一回投与.対象は何らかの消化管症状を有する自閉症児20例.結果は無効.親の報告では70%が中等度から高度な変化があったとしています.

(その他)

・Volkmarのエディトリアルコメント(N Engl J Med:文献14):Sandlerらの二重盲検プラセボコントロールトライアルへのコメント.アメリカでのセクレチンブラックマーケットなど.

・LancetのScience and Medicine(文献15):最初のHorvathらの3例報告はブタのセクレチンで,40%もの成分が不明な混入物があったことを記載.

・Rimland先生によるSandlerらのプラセボコントロール研究へのコメント(文献16):Sandlerらの研究姿勢を支持するも,Volkmarのエディトリアルコメントを批判.無効と結論する段階ではなく詳細な研究継続が必要とした.

・Repligen社の社長Herlihyからのコメント(文献17):Sandlerらの結果は,1回投与で1ヶ月間評価での結果に過ぎないこと,対象の非単一性,評価法法の問題などがあると指摘.

・SaidとBodanszkyのコメント(文献18):Sandlerらの無効結果と,Horvathらの有効結果の違いは,人セクレチン(合成)とブタセクレチン(腸管)の違いである可能性を指摘.

・Sandlerの返事(文献19):複数回投与の効果に関する研究の必要性を述べ,消化管症状の有る例(7例)でもない例でもセクレチンの効果は証明されなかったとHorvathに反論.評価法が薬効評価にはむかないことを認めながらも,投与群プラセボ群両者での時間経過に伴う改善を検出できていることを強調.

・Volkmarのコメント(文献20):さらなる研究の必要性を再指摘.

 


文献
1. Horvath K, et al. Improved social and language skills after secretin administration in patients with autistic spectrum disorders. J Assoc Acad Minor Phys 9: 9-15, 1998.

2. Horvath K, et al. Gastrointestinal abnormalities in children with autistic disorder. J Pediatr 135: 559-563, 1999.

3. Horvath K. Secretin treatment for autism. N Engl J Med 342: 1216, 2000.

4. Owley T, et al. A double-blind, placebo-controlled trial of secretin for the treatment of autistic disorder. Medscape General Medicine(インターネットアーティクル)

5. Sandler AD, et al. Lack of benefit of a single dose of synthetic human secretin in the treatment of autism and pervasive development disorder. N Engl J Med 341: 1801-1806, 1999.

6. Chez MG, et al. Secretin and autism: a two-part clinical investigation. J Autism Dev Disord 30: 87-94, 2000.

7. Dunn-Geier J, et al. Effect of secretin on children with autism: a randamized controlled trial. Developmental Medicine & Child Neurology 42: 796-802, 2000.

8. Coniglio SJ, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of single-dose intravenous secretin as treatment for children with autism. J Pediatr 138: 649-655, 2001.

9. Roberts W. et al. Repeated doses of porcine secretin in the treatment of autism: a randomized, placebo-controlled trial. Pediatrics 107: e71, 2001.

10. Corbett B. et al. A double-blind, placebo-controlled crossover study investigating the effect of porcine secretin in children with autism. Clin Pediatr 40: 327-331, 2001.

11. Owley T. et al. Multisite, double-blind, placebo-controlled trial of porcine secretin in autism. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 40: 1293-1299, 2001.

12. McQueen JM & Heck AM. Secretin for the treatment of autism. Ann Pharmacother 36: 305-311, 2002.

13. Lightdale JR. et al. Effects of intravenous secretin on language and behavior of children with autism and gastrointestinal symptoms: a single-blinded, open-label pilot study. Pediatrics 108: e90, 2001.

14. Volkmar FR. Lessons from secretin. N Engl J Med 341: 1842-1844, 1999.

15. Ahmad K. Secretin may not be effective in treatment of autism. Lancet 354: 2140, 1999.

16. Rimland B. Secretin treatment for autism. N Engl J Med 342: 1216-1217, 2000.

17. Herlihy WC. Secretin treatment for autism. N Engl J Med 342: 1217, 2000.

18. Said SI & Bodanszky M. Secretin treatment for autism. N Engl J Med 342: 1217-1218, 2000.

19. Sandler A. Secretin treatment for autism. N Engl J Med 342: 1218, 2000.

20. Volkmar F. Secretin treatment for autism. N Engl J Med 342: 1218, 2000.

 


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