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異食をなぜするのか、その治療について
(行動分析研究での報告)


1999年1月、群馬県立渡良瀬養護学校、猪熊 信

 養護学校などでは、異食をする子供への支援が問題になることが多いのです。多くの子ども達は、幼少時に異食をしても、口に入れた物を飲み込むまでには至らず、また、医学的手術が必要になることは滅多にありません。そして、成長にしたがい、異食以外の行動を学習するにつれて、異食は少なくなります。しかし、学齢期や青年期になっても口の感覚に伴う行動を行い続ける人がいます。現在の養護学校におけるこのような人への支援は、なるべく他のものごとへの興味を向けるような支援を行っています。しかし、その対策や支援方法は十分ではないと言えるでしょう。

 ここに紹介します研究報告(文献1)は、異食がどのようなことで維持されているのかを、客観的な事実から明らかにしたものです。自閉児と思われる子供を含む3人の異食について、行動分析の立場から、機能分析を実施しています。異食にともなう口への刺激(自動強化)と、異食した際の周囲の人の反応(社会的強化)から、論議しています。一人の異食は、物を口に入れる口内刺激だけによって維持されていました。他の2人の異食は、社会的強化と自動強化により維持されていたことが明らかになりました。このように、有意義な報告ですので、このホームページをお借りして、本文から抜粋して簡単に報告いたします。

抜粋
 この研究の目的は、3人の参加者の異食の機能を確認し、どのような治療が効果的か決めることでした。
 第一研究は、参加者の異食の機能分析から構成されていて、(a)この異食行動が、社会的な結果によって維持されているかどうかあるいは、(b)異食行動が、社会的な随伴性と別に固執して維持されているかどうか、そして、この行動は、自動強化によって潜在的に維持されているかどうかを決定するために計画しました。
 第二研究は、異食行動が社会的な強化だけによって維持されるように思える参加者について、社会的に維持される異食の治療(無随伴強化)の評価をしました。この治療が完全には成功しませんでいしたので、彼の異食が社会的な結果がない場合でも持続するかどうか決めるために、別の(治療)セッション系列を実施しました。
 第三研究は、好み評価と治療評価で構成しました。好み評価を次のように計画しました。(a) 口部刺激(異食の仮説的強化刺激)を提供する刺激が、口内刺激を生じない刺激以上に好きであるかどうかを評価すること。そして、(b)異食の強化の仮説的源(口部の刺激)への治療が、口刺激以外の治療より効果的であるかどうか評価することでした。
 第四研究は、より組織的に2人の参加者について異食の維持に働く好み評価と、治療評価から構成する口刺激(例えば、味 対 舌触り)の特異な面を評価しました。
 第五研究は、第一研究の結果から、自動強化と社会強化によって異食が維持されていると思われる参加者について、社会的に維持されている異食治療(実物と注目を伴う無随伴強化)の評価をすることでした。

 討論
 重度知的発達途上児者の異食は自動強化(異食時の口内刺激)と社会的強化(大人の注目)が関係しています。異食はその人の体力を弱くしていきます。行動分析での治療が必要な問題行動です。
 自動強化のうち、参加者の好きな口内刺激(堅さ、風味、味)を調査することが必要になります。食べられる物で、好きな食べられる物を与え続けることで、口を刺激する物を変えていきます。子どもによっては、異食する場面の声かけが異食を続けることになります。異食をしていない時、声かけをすることが効果的な子どももいます。
 3人の参加者の異食の社会強化と自動強化の機能を評価し、治療しました。異食の維持に、一人は基本的に自動強化が働いており、二人には部分的に働いていました。
 三人の参加者について、(口刺激を生じる)行動にともなう刺激が、行動に伴わない刺激よりも好きでした。好みの決定と治療効率を高めるのに、食べ物の口刺激の舌触りの調査が重要でした。硬い食べ物を好み、異食を少なくするのに、軟らかい食べ物を使うより効果的でした。
 結果は、異食を続ける条件は一人一人違う可能性があります。ある人には、社会的な強化(注目)が異食維持に重要な役割を果たします。別の人の結果は、社会的強化の役割が決定的ではなく、口刺激と注目の両方が異食の維持に役割を果たしている可能性があります。また、社会的な結果が異食維持に役割を果たしているかもしれないことを示しています。2人に異食の感覚の特性に無関係な刺激(例えば、ラジオ)を提供しても、異食は維持されました。
 妨害行動の治療は、任意の刺激を使う選択的強化と罰手続きのような満足できない方法で行われていました。妨害行動の機能を確認する方法の発達(妨害行動後のどの結果がその行動を維持しているか確認すること)が、より効果的な治療を導きます。強化の源をいったん確認してしまえば、強化源の操作で妨害的行動を消去できます。そして、社会的随伴を調整することで、より良い行動ないし、適正な行動に置き換えることができます。
 行動分析技術が強化の特異な源を確認するよう開発されていけば、潜在的に自動強化によって維持される行動を特定できるようになります。本研究で、異食について自動強化の源の確認をして、別の口刺激をもたらす物を与え、自動強化をやめさせる(異食をブロックする)物を用意できました。
 異食と競合する刺激が確認できれば、治療の必要な努力を最小にできます。実際、一人の人には自分でいじれる別の刺激を提示するだけで、この人の異食をゼロにしました。介護者が直接観察できない場面で、時々危険な物を飲みこんだので、一人しかいない場面で異食をゼロにすることが重要です。継続して密接に監視できず、生命を危うくする異食がある人に、自動強化の特異な源を確認することは価値があり、また、その努力を必要としています。
 最後に、将来の研究は、異食をする人にとって、どのような口刺激が強化刺激なるかを決める方向に向けられます。食べ物の形、固さなどの口刺激が、強化刺激の機能を果たすことが、生物学的な見地から考えられます。しかし、なぜ、石ころとか、車のキーとか、クリップのような食べられない物の飲み込みが、高率の危険な状態で食物摂取と関連して起こるかは、はっきりしないままです。


文献
1. Piazza C. C, et al. Treatment of Pica through multiple analyses of its reinforcing functions. J. of Appli Behav Anal 165-189 31 1998.


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