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自閉症出生時の血液中神経ペプチド,神経栄養因子の高値
:毎日新聞の記事(2000年5月)の研究グループが論文化


2001年6月,伊地知信二・奈緒美

2000年5月7日の毎日新聞の記事「たんぱく質:自閉症などの関連特定,原因解明にも,米チーム」という記事に関しては,掲載直後に何通かの質問メールをいただきましたが,その時点では学会発表レベルでしたので本ホームページでは取り上げませんでした.今回この内容に関する論文(文献1)が入手できましたので,そのサマリーの概訳をご紹介します.

(文献1)自閉症または精神発達遅滞の新生児血液中の神経ペプチドと神経栄養因子

自閉症における脳発達の主な生物学的調整因子についてはほとんどわかっていない.ストックされている新生児期の血液の中から,自閉症スペクトル69検体,自閉症を伴わない精神発達遅滞60検体,脳性麻痺63検体,コントロール54検体について,再生免疫アフィ二ティークロマトグラフィー法で神経ペプチドである,サブスタンスP,血管作用性腸管ペプチド(VIP),下垂体adenylate cyclase-activating polypeptide(PACAP),カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP),および神経栄養因子である,神経成長因子(NGF),脳由来神経栄養因子(BDNF),神経栄養因子3(NT3),神経栄養因子4/5(NT4/5)を計測した.コントロールに比べ,自閉症スペクトルおよび自閉症を伴わない精神発達遅滞児で増加していたのは,VIP,CGRP,BDNF,そしてNT4/5であった(p<0.0001).自閉症スペクトル時の99%および精神発達遅滞の97%においては,少なくともこれらの物質のひとつがコントロール全員の値よりも高値であった.厳密な自閉性障害なのかその他の関連状態(アスペルガーなど)なのかで分類したり,精神発達遅滞の有無や退行現象の有無で分類した自閉症スペクトルのサブグループ間での差はなかった.精神発達遅滞児においても,重症度や既知の原因(ダウン症が4人含まれる)でサブグループ化しても差はなかった.脳性麻痺群とコントロール群の間には差はない.SP,PACAP,NGF,そしてNT3においては対象群間に有意差はなかった.自閉症スペクトルと自閉症を伴わない精神発達遅滞の2グループ間で異なる結果となった物質はない.自閉症および,認知機能障害の非単一な病態においては,ある種の神経ペプチドと神経栄養因子が過剰に発現していることが,生後1日目の末梢血において観察された.


毎日新聞の記事は,ロサンゼルス発2000年5月6日付けの佐藤由紀記者の文責として,「自閉症や知的発達障害に関連するたんぱく質を特定したと,米国のカリフォルニア出生異常モニタリング計画の研究チームが,カリフォルニア州サンディエゴで開かれた全米神経学会で発表した.研究チームは,自閉症などの早期発見や原因解明につながると指摘している. 同モニタリング計画のジュディス・グレサー博士らは,1980年代に採取・保存していた249人分の新生児の血液サンプルを対象に,たんぱく質解析を行った.その結果,成長過程で自閉症や知的発達障害が現れた子供計130人の保存血液の90%以上から,脳神経形成に関連のある4種類のたんぱく質が多量に検出された.一方で,健康な子供の保存血液から,こうしたたんぱく質が高水準に検出されたケースは1例もなかった」と報じました.

同内容は日本のインターネットニュースでも流れ,また,世界ではwww.autismconnect.orgもこの学会発表を取り上げ,「新生児期の自閉症診断を血液検査が補助」とタイトルを付けてコンテンツを2000年7月17に掲載しています.このコンテンツでは,Simon Baron-Cohen先生が「大変重要な結果のひとつである」とコメントしています.

フェニルケトン尿症の出生時検査のためにおこなわれた採血サンプルで,1983年から1985年のサンプルがカリフォルニアでは捨てられずに保存してあったとのことで,それを使った研究です.最初の発表で既に自閉症児5000サンプル,コントロール児数千サンプルでの再検計画がほのめかされていますが,大規模な再現性の検討の結果はまだ発表されていません.結果を信頼するためには他の研究グループからの報告が必要です.


文献
1. Nelson KB, et al. Neuropeptides and neurotrophins in neonatal blood of children with autism or mental retardation. Ann Neurol 49: 597-606, 2001.


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