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人格障害と広汎性発達障害の関連について
:始めは人格障害と思われたAsperger症候群の2症例の検討から


1999年12月,福田真也(東海大学保健管理センター)

臨床精神医学 28(11):1541−1548,1999より

はじめに
 大学の保健管理センターや学生相談室などの 学内相談機関には,対人関係や社会性で大学内でさまざまなトラブルを起こすが,医療機関を 受診するには至らないsub−clinicalなケースが多 く来室する。筆者は大学保健管理センターの常 勤の精神科校医として,そのようなケースを多 く経験しているが,その中で始めは“人格障 害”と診断されたが,その病理を詳細に検討し たり,幼小児期に受診していた医療機関からの 情報から,実際には広汎性発達障害,すなわち Asperger症候群や高機能自閉症の年長例であったケースを2例経験したので報告し,人格障害と広汎性発達障害の関係について若干の考察を 加えて述べたい。

抄録:大学保健管理センターで,その症候から始めは人格障害と診断されたが,その 病理や幼小児期に受診していた医療機関からの情報で,実際には広汎性発達障害,すな わちAsperger症候群や高機能自閉症の年長例であったケースを2例経験した。診断につ いて,DSM一Wで検討したが,広汎性発達障害の主徴や症候は,分裂病質人格障害や強迫 性人格障害と類似する点が多く,広汎性発達障害の知見をもたないと診断が混乱しやす い。人格障害の診断は,他人を振り回す陽性の行動化を起こす境界性人格障害などでは, 明確になってきたと思われるが,この2例のように他人とあまりかかわらなかったり, 不登校のような陰性の行動化を起こすケースでは,幼小児期の病歴が不明だと診断は難 しく,また知能障害のない広汎性発達障害のケースは想像以上に多いため,人格障害を 疑うような青年期・成人のケースを診察する際,広汎性発達障害の知識をもつことは必 須である。


コメント(by伊地知)
コピーライトの問題に配慮し,「はじめに」の部分と抄録を掲載しました.福田先生のご好意に感謝いたします.この論文は非常に重要な指摘を含んでおります.成人自閉症者が受けている臨床診断に誤診が存在するという事実は欧米では一般的に認識されているようで,Rapin先生の総説では強迫性障害,分裂病質人格(schizoid personality),分裂病などが挙げられております(文献1).それぞれの病態や関連性については,福田先生の論文中にも一部触れられておりますが,歴史的な議論と発展中の考察があります.福田先生は慎重な臨床姿勢と客観的な考察を模範として提示してくださり,成人自閉症例(特に学生例)における鑑別診断のノウハウを提供し,同時に発達障害の観点が精神科の臨床診療に不可欠であることを指摘されております.


文献
1. Rapin I. Autism. N Eng J Med 337: 97-104, 1997.


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