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日本で処方可能な二つ目のSSRI:パロキセチン


2001年6月,伊地知信二・奈緒美

この話題もアップするのが大幅に遅れましたことを最初でおわび申し上げます.パロキセチンは昨年(2000年)9月に承認され,既に処方薬として日本でもうつ病などに使用されております.以前にもまとめましたようにアメリカで処方されるSSRIは,フルオキセチン(プロザック),フルボキサミン(日本ではデプロメールとルボックス),セルトラリン(ゾロフト),パロキセチン(パキシル)の4つですが,このうちフルボキサミンは皆さんご存知のように1999年に日本で処方薬として認可されましたが,これで日本のSSRIも2種3品となりました.以下にパロキセチンについて自閉症との関係がありそうな情報をまとめます.

フルボキサミンとの比較

  フルボキサミン(25mg錠,50mg錠) パロキセチン(10mg錠,20mg錠)
製薬会社 明治(デプロメール)・藤沢(ルボックス) スミスクライン・ビーチャム(パキシル)
日本で承認された適応疾患 うつ病及びうつ状態,強迫性障害 うつ病及びうつ状態,パニック障害
用量 成人で1日50mgで開始,150mgまで 成人で1日10-20mgで開始,20-40mgまで
用法 1日2回 1日1回夕食後
最も多い副作用 嘔気・嘔吐,口渇,便秘,眠気 嘔気,口渇,便秘,傾眠,めまい,頭痛
他の薬剤との主な相互作用 モノアミン酸化酵素阻害薬との併用でセロトニン症候群

塩酸チオリダジンとの併用で心電図異常

シサプリド,精神安定剤などとの併用で心電図異常

モノアミン酸化酵素阻害薬との併用でセロトニン症候群

塩酸チオリダジンとの併用で心電図異常

L-トリプトファン,炭酸リチウムとの併用でセロトニン症候群

自閉症に関連する論文

1.末梢血中の血小板のセロトニン受容体の検査

(文献1)ラベルしたLSDによる5-HT2受容体結合部位の検討では,セロトニンが高い自閉症家族(11人)とセロトニンが正常の自閉症家族(12人)では,セロトニンが高い群で結合部位が有意に低く,アフィニティーは不変.ラベルしたパロキセチンの結合能は両群で変わらず,アフィニティーはセロトニン正常群が高かった.

(文献2)思春期以後の自閉症者での検討(13人,コントロール13人).ラベルしたパロキセチンの結合能は自閉症者で有意に高く,血漿中のトリプトファンは自閉症者で有意に低い.5-HTトランスポーターシステムの障害や血漿中のトリプトファン値の低下など,セロトニン系の障害が自閉症者で起こっており,ノルアドレナリン系には変化がなく,セロトニン代謝は12歳から18歳の間に著明に変化する.

(文献3)5-HTトランスポーターを,ラベルしたパロキセチンの特異的結合能平均値で評価(20人の自閉症者).コントロールに比し,自閉症者ではパロキセチン結合密度が有意に高かった.

2.強迫性障害における効果

(文献4)強迫性障害における検討.無作為,二重盲検治験で,クロミプラミン,パロキセチン,プラセボの3者を強迫性障害(36例)に投与.全血中のセロトニンレベルは投与前,投与後1週間,投与後4週間に臨床所見と共に検討された.パロキセチン投与群では,全血中のセロトニンレベルが投与後に著明に減少した(1週間後は様々な程度,4週後は一様に最も減少).1週目の値は,パロキセチン投与後12週の臨床症状の改善と逆相関していた.一方,セロトニンレベルの反応性がより低い対象者ほど結果的には治療効果が良かった.投与全のセロトニンレベルには季節の影響がみられ,うつ病,自閉症的症候,SSRIの投与歴などがあれば,反応性がみられなかった.治療後の血小板からの速やかなセロトニン流出は,治療効果が少ないことに関係しており,このセロトニンの流出は自閉症に関連することが以前より言われている.

3.その他の症候における効果

(文献5)37例の知的障害者の過去にさかのぼった検討.対象者は適応障害行動に対して,フルオキセチンかパロキセチンの投与を受けており,15人においては無効(40%),9例で悪化(25%)であった.しかし,13例では反復行動や適応障害行動が減少した(35%).フルオキセチンとパロキセチンで差はなかった.

(文献6)重度の攻撃性と自傷行動に対するパロキセチンの効果のオープントライアル.精神発達遅滞があり施設入所している15人を対象.攻撃性の頻度と程度は訓練されたスタッフによりカルテに記録された.4ヶ月の経過観察でのみ攻撃性の程度を改善した.効果は1ヶ月で有意であったが,その後は有意性が続かなかった(4週間後の明らかな効果の減少).


文献
1.
Cook EH Jr, et al. Platelet serotonin studies in hyperserotonemic relatives of children with autistic disorder. Life Sci 52: 2005-2015, 1993.

2. Croonenberghs J, et al. Peripheral markers of serotonergic and noradrenergic function in post-pubertal, caucasian males with autistic disorder. Neuropsychopharmacology 22: 275-83, 2000.

3. Marazziti D, et al. Increased density of the platelet serotonin transporter in autism. Pharmacopsychiatry 33: 165-168, 2000.

4. Humble M, et al. Reactivity of serotonin in whole blood: relationship with drug response in obsessive-compulsive disorder. Biol Psychiatry 15: 360-368, 2001.

5. Branford D, et al. Selective serotonin re-uptake inhibitors for the treatment of perseverative and maladaptive behaviours of people with intellectual disability. J Intellect Disabil Res 42: 301-306, 1998.

6. Davanzo PA, et al. Paroxetine treatment of aggression and self-injury in persons with mental retardation. Am J Ment Retard 102: 427-437, 1998.


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