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自閉症傾向・多動傾向の脳外科手術の問題点(3)
(軽度の三角頭蓋に対する形成術)


2000年7月19日,伊地知信二・奈緒美

7月12日に沖縄県立那覇病院にて,三角頭蓋(軽度)の形成手術に関する院内倫理委員会が開かれたようです.詳細は,7月13日の沖縄タイムス朝刊の記事(http://www.okinawatimes.co.jp/day/200007131300.html)をご覧ください.この記事から得られる情報の要点を以下にまとめ,コメントを付記します.また,ポイントをはっきりさせるために上記のサブタイトルを「軽度の三角頭蓋に対する形成術」と変更しました.

沖縄タイムスの記事の要点


(コメント)

あるべき形に一歩近づいたという印象です.県立那覇病院の先生方が示された「問題点を反省し,改善していこうとする姿勢」に感謝いたします.

自閉症傾向・多動傾向の脳外科手術の問題点(2)で記載しました実験的臨床研究の必要条件は,

  1. 実験的臨床研究が行われるための十分な根拠がそろっていること
  2. 必要な倫理的議論が尽くされていること
  3. 被験者(親)の認識と研究者(医師)の認識の間にずれがないこと(厳密でわかりやすいインフォームドコンセント)
  4. 科学的な評価への努力(医学的な証拠となるような研究でなければ意味がありません)
の4つですが,2の倫理的議論と3のインフォームドコンセント(文書)に関する配慮が,約70例も手術した後にやっと始まったわけです(4の科学的な評価への試みも既に始まっていると伝え聞いております).軽度の三角頭蓋の形成手術が実験的臨床研究であることは,「治療法がまだ専門分野で公認されたものではない(記事中)」として間接的に認めてくださっているようですが,実験的臨床研究(人体実験)であることが明瞭に親に伝わるかどうかが一番重要です.インフォームドコンセントを得る際の文書には実験的臨床研究であることが明記されていなければなりません.「脳が発達しやすい条件を整える手術(記事中)」という表現では,軽度の三角頭蓋を持つ子供の親は「この手術で脳が発達しやすくなる」と勘違いしてしまいますので,この手術が軽度の三角頭蓋患者における発達のための条件として意義があるかどうかも科学的な結論がでていないことをはっきりと伝えて,「発達しやすくなるかどうかを検討する研究」であることを明記すべきと考えます.実験的臨床研究であることを表明した上で家族への協力を求める姿勢が重要であると思います(記事に含まれる情報に関してコメントしましたが,実際のインフォームドコンセント用の書類を見たわけではないので,私の勘違いがあるかもしれません).

自閉症傾向も多動傾向も,その病態の多様性がこれまでに多くの研究の障壁のひとつとなってきました.S先生らが主張されているように,軽度の三角頭蓋による狭頭症が直接的な原因となる病態がもし存在するとしても,自閉症傾向や多動傾向のある子供たちの中のほんの一部である可能性が考えられます.これまでに手術が行われた症例における,狭頭症の程度と手術効果の相関(最初の16例では相関はないようです)や,手術効果のあるグループと手術効果のないグループのそれぞれの特徴などのデータが科学的に提供されることがまず望まれます.手術を再開するかどうかは,これまでに手術が行われた症例の十分な科学的検討の後に,慎重に検討すべきと思います.

(このコメントは,7月19日に,関係する先生方宛に郵便で発送しました)



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