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MRIによる自閉症者の脳計測

2002年7月,伊地知信二・奈緒美

神経学専門誌「Neurology」に掲載されました3つの論文を紹介します.以前より自閉症児の脳の大きさに関しては議論がありますが,最新のMRI研究の結果では,やはり自閉症児の頭は大きめで,中身の脳も大きめのようです.

Editorial:自閉症における脳計測MRI:ハイテクを駆使した脳計測は神経生物学的所見を得られるか?(文献1)

自閉症は,発達障害のスペクトルであり,反復性の行動パターンや興味のレパートリーの制限を伴った,社会的相互関係の障害およびコミュニケーションの障害で特徴付けられる.広汎性発達障害(PDD)は,DSM-IVにおいて自閉症スペクトルを指す時に使われる包括概念である.PDDsはまた,自閉性障害,アスペルガー症候群,小児崩壊性障害,特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)を含んでいる.自閉性障害はPDDのプロトタイプで,社会的相互関係,コミュニケーション,反復性または制限された行動パターンの3分野全てに異常を有し,3歳以前に始まる.アスペルガー症候群は,言語発達が正常である点で自閉性障害から区別される.小児崩壊性障害は,少なくとも2歳までの正常発達と,それに続く獲得されたスキルの消失と自閉症的側面の発現で特徴づけられる.PDD-NOSは,自閉症的症候を含むが他の定義されたPDDsのクライテリアを全部は満たさない.自閉性障害の特異的な診断基準にもかかわらず,自閉性障害内で臨床症候のかなりの非単一性が存在する.自閉症の原因は不明で,その神経生物学において,誰もが認める仮説は知られていない.臨床的な非単一性は,疑いなく神経生物学的コンセンサスが得られないことの原因である.自閉症に関する大規模な病理研究は存在せず,さらに,これまでに病理を検討できたケースにおいては,偶然に合併した死因が神経病理学的優位所見となっている.

神経画像研究は,生体内の自閉症の神経生物学的状態を非侵襲的に研究する機会を与える.脳全体のボリュームや脳領域別ボリュームに関する研究は自閉症に関して数多くあり,一致した結果は得られていない.全てではないものの多くの研究は,自閉症において,平均脳ボリュームが少し増加し,平均頭部周囲長が増加していることを明らかにした.Nerology誌の本号は,MRIを使った自閉症の脳ボリュームに関する綿密な2つの研究を含んでいる.

これらの2つの論文は,自閉症児とコントロールの間の脳ボリュームの違いが何を意味するかまで拡大して考察している.Aylwardらは精神遅滞を伴わない自閉症者(8歳から46歳)を,年齢が適合したコントロール群と比較検討した.12歳未満では,平均脳ボリュームは自閉症児においてコントロールに比べ5%大きかった.12歳を超えると,脳ボリュームには差がないが,頭部の周囲長は1%から2%自閉症者の方が大きかった.Sparksらは3歳から4歳の自閉症児を検討し,非自閉症発達障害群および正常発達群と比較した.彼らは平均脳ボリュームが脳幹と小脳を除き,正常児よりも自閉症児で10%大きいことを示した.また彼らは小脳,扁桃,海馬のボリュームが,大脳ボリュームの全体的増加に見合う割合で,自閉症児において増加していることを発見した.これらの2つの研究において,自閉症児における脳ボリュームの増加所見は一致している.しかし,その増加はわずかであり,自閉症児の脳のボリュームは正常範囲内にあると言える.

わずかな脳のボリューム増加または,特異的な脳領域のボリューム増加が何を意味するのであろうか? 一つの仮説としては,早期小児期における脳成長の促進時期が自閉症の脳発達を特徴づけるというものである.自閉症児においては12歳を超えると脳成長はプラトーになるが,健常児の脳は成長を続け,その結果成人の脳サイズは両グループで同じになる.この仮説を完全に検証するには,経時的な脳成長率を評価するために縦断研究が必要であろう.

これらの研究の神経生物学的意義が他にあるであろうか? 脳サイズから脳機能を推測するのには限界がある.種を超えあるいは種内で,脳のサイズを知性に関連付ける試みが長く失敗してきた歴史がある.近代神経学の基礎の一つは,神経システムの中で機能の局在を検討することがあるが,特異的な脳領域サイズを神経機能(あるいは欠損)に関連付ける試みは魅力あるものであった.局在化の妥当性は当初は局所的な脳病変の効果を基盤としており,最近の神経生理学と機能画像研究によって支えられている.自閉症においては,局所的な脳病変は一般的でなく,局所的な脳病変が存在している時は特異的な一ヶ所に起こっているわけではない.最近の神経画像研究は自閉症の神経生物学に関する我々の理解にほとんど寄与していない.疾患における構造的画像研究の役割の可能性は他の脳疾患のために認識されており,そのような疾患では目標を定め,仮説に基づく神経画像研究が意味のある構造機能相関を同定している.これらの研究は,公表された機能的障害が根拠となり,関連する神経生物学的疑問に答えるためには単一な研究対象において特異的な脳構造を解析している.

今後の解剖学的画像研究が自閉症において本質的な新しい見識を供給するためには,いくつかの条件が満たされなければならない.第一に,対象者の非単一性は最低限にしなければならない.これは臨床的非単一性が病態生理学的非単一性の原因になるからである.自閉症の臨床的サブグループは,妥当性があり信頼できる評価に基づいて定義されるべきである.いくつかの研究はIQを基に対象者を制限したり,年齢やけいれんの既往,言語発達の程度などで対象者を選別している.しかし,これらの基準は,サンプルポピュレーションの非単一性を十分には制限していない.対象をどのように探すかについてのコンセンサスが必要で,対象として含むか除外するかの基準を研究間で共通して適応する必要がある.2番目に,構造的なMRデータを得るために,画像データを標準化するために,脳構造を分割するために,また計測値を報告するために,統一した方法論を使うことが重要である.自閉症における脳サイズの研究の中では,その方法論には研究の数だけ多くのバリエーションが存在する.従って,異なる所見が,神経生物学的違いと言うよりも,むしろ単純に方法論の違いによるのかどうかを知ることは困難である.技術的な進歩は必然的に方法論の変化を伴うが,同じ著者によって同じ時期に行われた研究でさえも,同一の方法を使っていない事実が問題である.3番目に,研究は仮説に基づいていなければならない.仮説は対象の選別に影響し,検討する脳領域や方法も仮説により選ばれるべきである.これらの目標が達成されるまでは,脳の部分におけるわずかなバリエーションが観察されても,骨相学の観察と同じであるかもしれない.


自閉症者の年齢による脳ボリュームと頭部周囲長(文献2)

目的:MRIスキャンで測定した脳ボリュームが,自閉症児とコントロール群との間で異なるか,またそのような差異があるとしたら年齢と関連があるかを検証する.背景:これまでの研究は,自閉症児において,脳重量,頭部周囲長,そしてMRIによる脳ボリュームが増加していると報告している.しかし,自閉症成人例の脳サイズに関する研究の結果は一致していない.著者らは,脳の増大が自閉症児の小児早期における脳発達の特徴であって,成熟過程と共に正常化するという仮説を立てた.方法:1.5mm間隔の冠状方向MRIにより脳ボリュームを計測した.対象者は精神遅滞のない自閉症者67人と,健常ボランティア83人である.年齢は8歳から46歳であった.頭部周囲長も計測した.自閉症者と健常者は,年齢,性,言語性IQ,または社会的状態において適合していた.結果:12歳以下の自閉症児においては,脳ボリュームは身長を適合させた健常児に比べ有意に大きかった.12歳を超える対象者においては,脳ボリュームは自閉症とコントロール群の間に差異はなかった.頭部周囲長は自閉症者においては,子供でも大人でも増加しており,12歳を超える自閉症者が子供と同じように増加した脳ボリュームを持っていることが示唆された.結論:自閉症における脳発達は,小児期の脳拡大につながる早期の脳成長促進を伴った異常パターンに始まる.しかし,自閉症青年例あるいは成人例においては,脳ボリュームは正常であり,健常児の脳ボリュームがわずかに増加する時期に,自閉症者は脳ボリュームがわずかに減る(成長が止まる?)ことによることが明らかになった.


自閉症スペクトル児における脳の構造的異常(文献3)

目的:脳発達障害である自閉症のおおまかな神経解剖学的検討を行うために,著者らは慎重に選別した3歳から4歳の自閉症児における脳の形態的特徴を,年齢を適合させた健常発達コントロールと発達遅滞コントロールと比較して検討した.方法:大脳,小脳,扁桃,海馬は3次元冠状方向MRイメージにおいて計測し,自閉症児45例,健常発達コントロール26人,発達遅滞コントロール14人を検討した.それぞれのボリュームは,年齢,性,大脳のボリューム,臨床状態との関連を解析した.結果:自閉症児においては,健常発達コントロールおよび発達遅滞コントロールに比べて,大脳ボリュームは有意に増加していた.小脳のボリュームは健常発達コントロールに比べると自閉症群で増加していたが,この増加は大脳のボリュームが示唆する全体的なボリュームの増加で説明できる程度であった.発達遅滞コントロールグループでは,小脳のボリュームはその他のグループと比べてより小さかった.自閉症グループでは,扁桃および海馬の計測値は,大脳ボリュームの全体的増大に見合う程度,両側性に拡大していた.自閉症児においては,男児でも女児でもこれらの所見は同じであった.部分的な解析では,構造的な異常は主に男児にみられたが,これは自閉症女児サンプルが7例というサンプルサイズの小ささに由来する統計学的なパワーの低さを反映しているものと思われる.自閉症群では,構造的所見は非言語性IQとは無関係であった.厳密に診断基準を満たす自閉症児のサブグループにおいては,扁桃の拡大は大脳ボリュームの増加の程度以上であった.結論:このような構造的所見は自閉症の臨床経過の早期における,脳発達過程の異常を示唆する.これらの構造的異常の背景となるメカニズムをさらに明らかにするための研究と,その経時的進行を検討するための研究が現在進行中である.


文献
1. Mink JW & McKinstry RC. Volumetric MRI in autism: can high-tech craniometry provide neurological insights? Neurology 59: 158-159, 2002.

2. Aylward EH, et al. Effects of age on brain volume and head circumference in autism. Neurology 59: 175-183, 2002.

3. Sparks BF, et al. Brain structural abnormalities in young children with autism spectrum disorder. Neurology 59: 184-192, 2002.


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