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MMR・自閉症・腸炎(7)


2000年5月,伊地知信二・奈緒美

医学雑誌ランセットの記事を2件紹介します.


MMRワクチンと自閉症の関係を否定したTaylorらの論文(文献1)に対するAltmannのレターとそれに対するTaylorらの返答

(Altmann Dのレター:文献2)
Taylorらは1つめの分析に関して,まとめの中で「自閉症者の誕生年毎の集計では年々一定の増加傾向がみられ,MMRワクチンが開始された後も突然の急増は起こっていない」と述べている.1987年生まれのコホート(2歳時にはワクチンが導入されていた最初のコホート)での自閉症症例の急増は統計学的にもみられない.しかし,この論法は,「1987年よりも前に生まれた人はワクチン接種を受けておらず,また,受けたとしても自閉症が判明してから受けたはずである」というアイデアに基づいている.しかし,実際は,1987年より前に生まれた人(109人)も2歳時以後に接種を受けた可能性があるのであるから,自閉症と診断される前に接種を受けたものがこの中に何人いたのか示すべきである.また,誕生年毎のワクチン摂取率を,60ヶ月(5歳)時の自閉症の診断以前にワクチンを受けた可能性のある1983年生まれのコホートから示すことも必要で,このようなデータがあって初めて,MMRと自閉症の関連がある場合の自閉症者数の変動を予想することができるのである.

2つめの分析については,2つの問題点がある.Taylorらは,18ヶ月(1歳半)前にワクチンを接種されたグループ,18ヶ月時あるいはその後に接種されたグループ,接種を受けていないグループの三つのグループ間で,自閉症診断時の年齢に差はないと述べている.しかし,この結果は,診断年齢が自閉症症候のオンセットである時に初めて意義があるわけであるが,実際はそうではないようである.全国自閉症協会(National Autistic Society)の調査によると,自閉症児の親の40%が,児の診断がつくまで3年以上も待つという結果であった.Taylorらもこのことはほのめかしている.ゆえに,診断年齢を根拠にした議論は困難であり,親が自閉症症候に気づいた年齢を用いるべきである.

もう一つの問題点は,関連がないことを示すためには,回帰係数と信頼区間の方がよいはずであるが,危険率(p value:0.41)を使っている点である(おそらく帰無仮説を3群の平均値に差がないとしたF検定).

(Taylorらの回答:文献3)
Altmannが言うように,1987年以前に生まれた子供の何例かはMMRワクチンを接種している.このことは以前Wakefieldにより指摘され,我々が既に回答している.1987年以前に生まれた児のうち,36人がMMRワクチンを受け,その中で29人は接種前に親が自閉症の兆候に気づいたことが確認されている(残りの7人は不明).従って,この点に関しては我々の見解は影響を受けない.

自閉症の診断がつくまでに時間がかかっているというAltmannの指摘には同意する.Altmannは,そのような診断の遅れが,我々の解析結果に影響する可能性を指摘した.我々は,危険率だけでなくパラメーター評価や信頼区間も論文中に記載している.Altmannが示唆したように,親が自閉症に気づいた年齢での検討も行ったのであるが,親が自閉症症候に気づいた年齢は,多くの場合ワクチン接種よりも前であるため,気づいた時を15ヶ月から48ヶ月の間に限定して244例を解析した(7歳時と11歳時に親が自閉症症候に気づいた2例は除外した).結果は,15ヶ月以前にMMRワクチンの接種を受けた108例と,15ヶ月以後に接種を受けた88例,そして接種を受けていない48例の3群の間に,親が自閉症症候に気づいた年齢における有意差を認めなかった.親が自閉症症候に気づいた年齢が18ヶ月以後の229例で,ワクチン接種時期を18ヶ月でグループ化してみても同じく有意差はなかった.


ランセット4月22日号のEditorial(文献4)

WHOは,1998年の麻疹発症数を全世界で3千万人と発表し,そのうち麻疹による死亡者数を888,000人とした.発展途上国における5歳以下の全死亡数の10%が麻疹によるものということになる.30年以上前から,麻疹はワクチンにより予防できる病気となっているはずであるのに,この悲惨な状況はどうしたことであろう.1990年に,子供のための世界サミットは,2000年までにワクチン接種率を90%にすることを目標とした.しかし実際は,1997年に79%で,翌年の1998年には72%と低下している.ワクチン接種率は国により非常に異なっており,1998年には接種率が50%に満たない国が16も報告されている.アフガニスタンがその一つで,そこでは麻疹が猛威をふるい,多くの死亡者を出している.

先進国では,麻疹はしばしば軽症の病気と解釈されているが,これは,1989年〜1991年の間に55,000人の麻疹の流行があり,120人以上の人が死んだという事実を誤解したものである.気管支肺炎,下痢,脳炎,亜急性硬化性全脳炎(SSPE)などを含む合併症が死亡の原因となり,2歳以前に感染した子供の8000人に一人がこのような致死的な合併症に罹るのである.SSPEケースは,麻疹ワクチンの導入後激減した.

麻疹撲滅計画は2年前の記者会見の席上で大打撃を受けた.イギリスのRoyal Free HospitalのAndrew Wakefieldの発表である.彼は,MMRワクチン(麻疹,おたふく風邪,風疹)の危険性を提唱したのである.彼の主張は,共同研究者との統一見解ではないが,MMRワクチン接種と関連しているとされた自閉症と腸管異常の症例(12人の小児)に基づくものである(文献5).Wakefieldの研究についても主張についても,よく吟味された批判が後に発表され,同じ施設から異なる研究グループがWakefieldが主張したことを否定する疫学的証拠を公表した(文献6).4月3日,イギリス医学研究会議の分科会からの報告書で,ロンドンのKing's ColleggeのAlan McGregorらは,「1998年3月から1999年9月までの間に,MMRと炎症性腸疾患/自閉症の因果関係を示す新しい証拠は報告されていない」と結論した.

新展開として,WakefieldとJohn O'Leary(Coombe Women's Hospitalの病理主任)は,4月6日に,ワシントンで行われた,アメリカ上院議会調査委員会において未発表のデータを発表し,さらに親の心配を煽っている.ヒアリングは,孫が自閉症児であり,昨年12月にRoyal Free Hospitalを訪れたことのあるDan Burton議長(インディアナ州,共和党)の招聘によるものであった.ヒアリングでは,自閉症児の親6人が子供の自閉症について感動的な証言を行った.6人の選ばれた専門家たちが科学的な証拠を提示したが,Wakefieldの証言によると,現在彼は150人以上の自閉症傾向のある腸炎(autistic enterocolitis)の小児を検討中で,最初の60例の詳細はAmerican Journal of Gastroenterologyに本年中に発表の予定とのことである.

Wakefieldは,彼の説を否定した研究に反論することのみにポイントをおいて,難解な結果を提示した.彼の結論は,「ウイルス学的データは,何人かの児において麻疹ウイルスが存在することを示している」というもので,「MMRとの関係を偶然として説明するのは,最終的な結果がでるまでは軽率であろう」と付け加えた.O'Learyは,25例の自閉症児のうち,24例の腸管生検組織に麻疹ウイルスが同定され,15例のコントロールでは1例のみ麻疹ウイルスがみつかったと説明した.また,この検査は盲検法により行われたとのことである.コントロールについてや,麻疹ウイルスが腸管に存在するとする所見の詳細も不明であり,彼らの発表は解答ではなくさらに疑問を生じせしめている.

自閉症は,まだよく解明されていない神経発達疾患スペクトラムであり,全ての症例が胸を打つ個人的なストーリーを持っている.しかし,自閉症児の親には,このような最新の議論についての情報が十分に入ってきているとは言えない.記者会見と同様,議会ヒアリングの場は,科学的評価を行える場所ではなく,もし科学者たちが十分に透明性のある証拠を示すことなしにワクチンの安全性に疑問をなげかけるのであれば,子供を守るのではなく,さらに多くの子供たちに害を与えることになるかもしれない.


(コメント)Wakefield先生は,まだやっているようです.それにO'Leary先生という病理の先生が加わっています.当分は,彼らの発表論文から目が離せないようです.


文献
1. Taylor B et al. Autism and measles, mumps, and rubella vaccine: no epidemiological evidence for a causal association. Lancet 353: 2026-2029, 1999.
2. Altmann D. Autism and measles, mumps, and rubella vaccine. Lancet 355: 409, 2000.
3. Taylor B et al. Lancet 355: 409-410, 2000.
4. Editorial. Measles, MMR, and autism: the confusion continues. Lancet 355: 1379, 2000.
5. Wakefield A, et al. Lancet 351: 637-641, 1998.
6. Lancet 353: 2026-2029, 1999.


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