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「腸炎に関連した後天性の自閉症?」に関する議論(5)
MMR・自閉症・腸炎(5)

1999年11月、伊地知信二/奈緒美

臨床系医学専門雑誌ランセットに載りましたMMRワクチンと自閉症の論文(文献1)は,既にたくさんの批判や議論を集め,完全に否定されたかと思っておりましたが(同じタイトルの1〜4として話題に掲載),議論(4)として紹介しましたTaylorらの結果(文献2)に対して,きっかけの論文(文献1)を書いたWakefieldらが反論しています(文献3).
文献3:自閉症とMMRワクチンの関係(Wakefieldの反論)
Taylorらの報告(文献2)は,方法論に問題があり,データに矛盾を含んでいる.原因暴露と潜行性発症の疾患の関連を調べるためには症例シリーズ解析(case-series analysis)は不適切である.1998年のMMRワクチンの再啓蒙運動のことが無視されている.彼らのが呈示したデータにおいてこの啓蒙運動の後に最初にワクチン接種を受けたコホートは1986年生まれであり(2歳の時にMMRワクチンのキャンペーンが始まった),この年生まれの自閉症者の数は前のデータの倍に増加し,その後急激に増加している.このMMRワクチン接種後の急激な自閉症児の増加を診断体制の変遷だけで説明することができるであろうか?カリフォルニアにおける自閉症児のデータでもMMRワクチン接種が導入された時期に一致して自閉症者の増加がみられ,Taylorらのデータとカリフォルニアのデータにおける自閉症者の急増(1977年と1986年)を同じ時期に変遷したはずの診断体制で説明するのは無理がある.


文献4:Taylorらの返答
1. Wakefieldは,症例シリーズ解析(case-series analysis)は,ワクチン接種と診断が遅れることのある病態との経時的な関連を検出するには検出力が弱いと述べた.しかし,Wakefieldらが報告した自閉症関連状態(autistic spectrum disorders)はMMR接種後数時間から数週の間に出現しており,このような近接した関連を検出するためには症例シリーズ解析は非常に適している.我々は,ワクチン接種後の症候の検出期間を1〜2年に設定している.

2. 我々はMMR接種後0〜5ヶ月に,最初に「この子は他の子と違うんじゃないか?」と気づいたケースが有意に増加していることをアーティファクトと考えたが,Wakefieldはこの点でも我々を非難している.しかし,このような親の訴えはワクチン接種後ちょうど5ヶ月後に集中しており,生物学的なデータとしては不自然である.我々はこの現象はワクチン接種時期からちょうど5ヶ月後の健康記録の実施に関係していると考えている.

3. Wakefieldは,「1998年のMMRワクチンの再啓蒙運動のことが無視されている.彼らのが呈示したデータにおいてこの啓蒙運動の後に最初にワクチン接種を受けたコホートは1986年生まれであり(2歳の時にMMRワクチンのキャンペーンが始まった),この年生まれの自閉症者の数は前のデータの倍に増加し,その後急激に増加している.」と指摘している.しかしこれも正しい指摘ではなく,我々のデータで1987年以前に生まれた自閉症児は36例で,そのうち29例が問題行動の発現時期が親により記録されており,その全てがMMR接種より前なのである.問題行動発現の平均時期(19ヶ月)よりも前(12ヶ月)にワクチンの接種が行われるようになったのは1987年生まれのコホートからである.


コメント:Wakefieldの反論は空振りだったようですが,MMRワクチンが自閉症や炎症性腸疾患とは関係ないとする論文(文献2や文献5)にも,いくつかの議論上の弱点があるようで(文献6),おそらくしばらくはWakefield先生も黙っていないでしょう.


文献
1. Wakefield AJ, et al. Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children. Lancet 351: 637-641, 1998.
2. Taylor B, et al. Autism and measles, mumps, and rubella vaccine: no epidemiological evidence for a causal association. Lancet 353: 2026-2029, 1999.
3. Wakefield AJ, et al. MMR vaccination and autism. Lancet 354: 949-950, 1999.
4. Taylor B, et al. Lancet 354: 950, 1999.
5. MCA/CSM. The safety of MMR vaccine. Curr Probl Curr Pharmacovigilance 25: 9-10, 1999.
6. Roberts GT. Lancet 354: 951, 1999.


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