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MMR・自閉症・腸炎(18)
最近の論文・資料

2002年3月,伊地知信二・奈緒美

2001年の未紹介の資料と2002年3月までに公表されました資料を整理します.文献5,8,9ではダブリンの病理学教授のO'Leary JJ先生が,Molecular Pathology(インターネット版)に論文を発表したことを話題にしています.以前からWakefield先生がアメリカの公聴会などで予告していた論文ですが,MMR・自閉症・腸炎(19)としてなるべく急いで関連コメントといっしょにご紹介する予定です.

・Evansら:親の考え(文献1)

(背景)MMRワクチンのイギリスにおける接種率は,1998年から減少した.この1998年はMMRと腸症状および自閉症との関連が提唱された年である.MMRの安全性は再確認されたにもかかわらず,接種率は低いままである.需要に応じたサービスを提供できるためには,我々はMMRワクチンを子供に接種させるかさせないかに関する親の決断に影響するファクターを理解する必要がある.(目的)最初のMMRワクチンを子供に受けさせるか拒否するかの親の判断に何が影響するかを検討し,またMMRワクチンの安全性に関する最近の議論の影響を調査する.(デザイン)グループ間の議論による質的研究.(セッティング)児の年齢が14ヶ月から3歳の間である58人の親が,Avon地区とGloucestershire地区の6ヵ所でコミュニティーホールにて議論グループに参加した.(方法)いろいろな社会的・経済的背景からの親を含むために,意図的サンプリングを行った.議論グループはMMRワクチン接種を子供に受けさせた親で構成された3グループと,MMRワクチン接種を拒否した親から成る3グループである.データ解析は,改良した群化理論テクニックを使い,定数比較法を併用した.(結果)全ての親はMMRワクチンに関する意思決定が困難でストレスフルであったと感じており,接種を勧める実施医からのありがたくないプレッシャーを経験していた.MMRが最も安全で子供にとってのベストオプションであるとする健康省の発表に親は納得しておらず,多くの親はいやいやながら子供にMMRを接種させている.4つのキーファクターが親の判断に影響していた.1)病気にかかることに比較したMMRの危険と利益に関する信頼.2)メディアや他の情報源からのMMRの安全性に関する情報.3)実施医のアドバイスに対する信頼とこのアドバイスに従う姿勢.4)予防接種に関する行政政策における個人の選択の重要性に関する考え方.(結論)親はMMRの危険性と利益に関する最新の情報が予防接種前に提供されることを望んでいる.多くの親は,一般医(GPs)が接種対象者を集めたがっていることを知っているので,担当医の勧めを信頼していない.しかし,ほとんどの親は予防接種に関するより開かれた議論を担当医としたがっているようである.

・DeStefanoとChen:議論は終わったか?(文献2)

ワクチン接種,特にMMRワクチンが自閉症の発生に関与している可能性が示唆された.この推定された関係の主なエビデンスは,自閉症の有病率が増加した時期と幼児の接種率が増加した時期がいっしょであったことと,何例かにおいて接種後すぐに自閉症の特徴が出現したとする時間的関係があったことである.自閉症および関連状態の有病率は明らかに最近増加しているが,これが実際の増加であるのか,あるいは自閉症に対する理解が深まったためや,診断基準の変化のためであるのかは結論がでていない.接種時期に近接した明らかな自閉症オンセットは,単なる偶然の時間的関係であるのかもしれない.この関連を支持する臨床的エビデンスは,炎症性の腸炎と退行性発達障害を伴った12例から得られている.麻疹ワクチンが持続性の腸感染を起こして自閉症の原因になるとする可能性は,可能性のある生物学的機序を提供しているので,たいへん興味ある説である.しかし,疫学的研究はMMRワクチン接種と自閉症の間に関係を発見できなかった.この疫学的所見は,自閉症が強力な遺伝素因を有しており,神経学的障害が胎児発達の初期に起こっているのではとする,自閉症の原因に関する最近の理解に矛盾しない.出生後に接種されるワクチンが自閉症の原因となることは考えにくいのである.自閉症ケースの一部が,1歳以後に発症するが(退行型自閉症),そのようなケースを含んだ疫学的研究でもMMRワクチンとの関連は示されなかった.これまでのところ,発表される疫学的エビデンスおよび関連するエビデンスは,MMRワクチンあるいは他のワクチンやワクチン含有物と自閉症の因果関係を支持していない.

・Wakefield先生研究ポストから辞任(文献3)

MMRワクチンと炎症性腸疾患/自閉症との関係を提唱して議論を呼んだイギリスの研究者が職を追われた.Andrew Wakefield氏は12月30日に,ロンドンのRoyal Free and University College Medical Schoolを去った.Wakefield氏はランセット誌に対し,「医科大学のお偉方が,この件が学内で続くことは好ましくないと決定した」と語った.このMMR-自閉症議論は1998年の記者会見で,Wakefield氏が安全性の不確実性を理由にMMRワクチン接種を取りやめるべきと主張したことに端を発する.この主張は,彼の共同研究者たちが同意していなかったのであるが,12例の子供たちにおいて自閉症と腸異常に関連が示唆され,この状態にMMRワクチン接種が関与している可能性があったことを基盤に発表された.この発表に続き,この研究およびWakefield氏のデータ解釈に対する批判が相次いで表明されたのである.Wakefield氏の施設からも,Brent Taylor氏が中心となる異なる研究グループが,Wakefield氏が提案した関連に関して否定的なエビデンスを発表した.先週,University College Londonは,「Wakefield先生の研究はもはや医学部の研究戦略の方針上にはなく,彼は相互の了解を得て大学を去ることになった」と発表した.Wakefield氏は,この決定がWakefield氏の研究が科学というよりも政策に根ざしているとしていると評価した.「どうも私の研究は政策的に間違っていたようだ」とWakefield氏は語っている.しかし,この研究は続けられるであろう.Wakefield氏はランセット誌に,大学側とデータおよびサンプルへのアクセス同意を得たので,今後2年間は大学外共同研究者として,また他の研究センターにおいてMMRに関する研究が続けられると述べた.Wakefield氏は,自分が優先していることが,彼がワクチンによって発症したと信じている子供たちのためになると主張している.「彼らは放って置かれるべきでない.なぜなら彼らは医学にとって厄介なものを象徴しているのだから」と彼は言う.「私はワクチン反対論者ではなく,現在でも子供はワクチンを受けるべきと考えている.しかし現在の方式には反対である」と付け加えた.

・自閉症児の父親からの手紙(文献4)

BMJ編集者様:自閉症の発生率が増加しているという懸念があるため,BMJは関連団体の一部からのコメントに基づく手紙よりも,もっとよい情報を読者に提供する義務があります.どうか自分の子供の自閉症の原因がMMRワクチン接種であると信じている親からの手紙も是非ご掲載ください(ご掲載くださるかどうか心配です).相反する最近の仮説からすると,厳密な方法は特に重要であります.Fombonneは多くの国で報告されている自閉症有病率の増加にもかかわらず,真の発生率は一定であると主張しました.増加しているという印象は,自閉症の診断率が増加したことだけによるものであると彼は主張しています.この仮説を支持するしっかりとしたエビデンスはありません.この疑問をテーマにした唯一の研究は,自閉症児の多くが過去においては認識されていなかったことを示すことができませんでした.Burdらはノースダコタで自閉症の有病率研究を行い,彼らは1967年から1983年の間に生まれた小児のコホートの中で自閉症の有病率が1万人あたり3.26人であると発表しました.同じコホートを12年間フォローした結果,最初の有病率はこの地域の自閉症児の98%を把握していたことが示され,見過ごされていたのはたった1例でした.NylanderとGillbergは,自閉症スペクトルが診断されていないことのエビデンスを得るために,成人精神科外来をスクリーニングしました.この対象者たちは以前に自閉症に関してスクリーニングの行われていないケースでありました.著者らは未診断の自閉症者を高率に発見するのではと仮説を立てていました.このスクリーニングでは,以前に診断されていない19人の成人自閉症スペクトルケースを発見することができました.しかし,このグループにおける有病率は1万人あたりわずかに2.7であり,このことは診断されていない自閉症者がたくさんいるとする仮説を支持するものではありませんでした.著者らはこの点をしぶしぶ指摘し,観察された有病率が「絶対的に最低限とみなすべきもの」と主張しています.多くの科学者および保健担当者は,自閉症の頻度が最近増加していることに関するデータに関しては不愉快に感じているようです.2−3人の科学者は彼らのこの不愉快さのあらわれとして,突拍子も無い理論を持ち出しました.にもかかわらず,記録の最も単純な解釈は,自閉症の発生率が増加しているとする結論を支持しています.ひとりよがりの結論を避けるために,証明責任は過去数十年の疫学的研究に問題があるとして無視しようと努めている研究者達が負うべきと考えます.しかし,我々は現在新しい研究方法としてのサンプルグループになることを提案されています.BMJがこのような努力を推奨するとしたら驚きです.よいサイエンスは,たとえいかにその結果が都合の悪いものであっても,我々が実際のデータを直視することを要求しております.

・BMJのニュース(文献5)

自閉症と腸疾患の両方を持つ多くのケースがその腸組織に麻疹ウイルスを持っているとする新しい研究結果が発表され,この病態とMMRワクチンの間の提唱されている関連に関する議論に油を注ぐことになる.しかし,(他の)研究ではそのような関連は証明されていないのである.この論文は,専門誌Molecular Pathologyに掲載予定で,MMRワクチンの安全性に関するテレビ番組で既に取り上げられた.この論文はロンドンのRoyal Free Hospitalからのもので,自閉症と炎症性腸疾患を持つ91例の小児の組織サンプルを検討している.検査されたサンプルのうち75例で,腸組織に麻疹ウイルスが存在しており,これに対し70例のコントロールでは5例であった.この解析を行ったダブリンのCoombe Women's Hospitalの病理部門のJohn O'Leary教授は,この結果がこの子供たちがワクチンを受けたことの結果として彼らの状態になったことが証明されたわけではないと強調している.「現時点ではワクチンに関連していると言うことはできない」と彼は言い,「組織からは麻疹ウイルスのいくつかの変異株が検出され,野生型の可能性もある」と付け加えた.しかし,彼は親が子供の麻疹初感染時の症状を見のがすはずはないと考えている.「麻疹感染時の発疹は非常に典型的である」と述べ,「発疹は刺激症状を伴い,熱もでる.親はおそらくその症状に気づくであろう」としている.彼は,この件が公衆衛生上の大問題であるため,この論文が非常に慎重に準備されたものであると述べている.「これらの子供たちは本来の自閉症ではないのかもしれない」と彼は述べ,「非常に独特なサブセットで,生物学的な関連がある可能性が重要なポイントである」としている.Warwick大学の生物科学部門の査読者であり,この論文の編集者コメントの担当であるAlan Morrisは,「興味ある論文である」と記載している.「この論文は技術的にもデータ的にも問題が無いが,特異なサブセットを指摘しているのであって何かを証明しているわけではない.何を意味するかは今後の問題である」と述べた.しかし,この論文の共著者の一人であるAndrew Wakefield先生は,Royal Free病院の前の上級講演者でMMRワクチンと自閉症の関連を主張する中心人物であるが,この研究が重要な疑問を導き出すと述べた.「検出されたものがワクチン株かどうかは不明である」とWakefield氏は認め,「しかし,これらの子供たちの唯一のウイルスへの暴露はワクチンである.麻疹感染症の既往歴を持つ例は一例もなく,さらに科学的な検討が必要である」と述べた.Wakefield先生は,この論文でサンプルが集められたRoyal Free病院に昨年の11月まで所属していたが,彼の研究は「もはや医学部門の研究戦略にはない」と言われて辞任している.

・Taylorらのポピュレーション研究(文献6)

(目的)MMRワクチン接種が,自閉症児における腸症状や発達退行に関与しているかどうかを検討し,自閉症の新型バリアントが存在するエビデンスを探す.(デザイン)個人のワクチン歴との照合した記録レビューを行い,ポピュレーション研究を行った.(セッティング)北東部ロンドンの5つの地域.(参加者)典型的自閉症の278人と非典型的な自閉症の195人で,多くはコンピューターに登録された障害児データによりその存在を同定し,1979年から1998年の間に生まれた児である.(アウトカム)少なくとも3ヶ月持続する腸症状の記録,児の発達の退行がある場合はその年齢,また,それらとMMRワクチン接種との関連.(結果)発達退行(全体で25%)および腸症状(全体で17%)の頻度は1979年から20年の間で有意な変化はなかった(MMRワクチン接種の導入は1988年10月).児の発達に親が懸念をいだいた時期より前にMMRワクチン接種を受けたケースでは,親の懸念の後にワクチン接種を受けた児やワクチンを受けなかった児に比べて,腸症状においても退行においてもその頻度に有意差はなかった.自閉症児における非特異的な腸症状と退行の間に関連がある可能性はあるが,MMRワクチンとは無関係であった.(結論)これらの所見は,発達退行と腸症状を持つ自閉症新型バリアントにMMRが関連しているとする可能性に何の支持も供給しない.また,自閉症の発症においてMMRワクチンが関与しているとする説にさらなる反証を提供する.

・イギリス政府がMMRワクチンパニックを沈静化しようと試みている(文献7)

MMRワクチンの安全性を親に納得させるためのイギリス政府の動きは,先週Andrew Wakefield氏に関するテレビ番組が放映された後に新しい局面を迎えた.1998年にWakefield氏は,MMRワクチン接種はやめるべきだと主張し,Wakefield氏と共同研修者たちは自閉症と腸異常の間の関連を12例の子供たちで発見し,MMRワクチン接種との関連の可能性を報告した.この研究とWakefield氏のデータ解釈に対する批判がその後発表された.しかし,一般人の心配は続いており,ワクチン実施施設には不安がる親の問合せが殺到した.ブレア首相は,彼の一番下の子供がMMRワクチンを接種したかどうかを明言することを拒否し多くの批判を集めた.しかし,彼は行政としてのメッセージを再強調し,「デマ報道は,政治的なものであれメディアであれ,遺憾である」と述べた.昨年,イギリス政府はワクチン接種率を増やすためのキャンペーンに300万ポンドを計上した.この予算には親と担当医のための情報供給を含んでいる.政府は現在テレビによる宣伝を考慮しており,その中で医学担当主任のLiam Donaldsonが親にアピールする予定である.健康省の発表担当者はランセット誌に対して,政府は親に正確な情報を提供する新しい方法を模索していると述べた.しかし,その発表担当者は,予防接種のコミュニティーとしての責任を親に啓蒙するためのキャンペーンの主旨に変えるプランはないとしている.伝えようとしている内容はあいかわらず個人の選択肢の一つとしての接種である.発表担当者は健康省の研究は既に親が困惑し不安を抱いていることを示していると述べ,「あやまちを積み重ねてはいけない.我々はメディアの狂乱にのってしまうのでなく,何が最善なのかで行動すべきである」と付け加えた.

・ランセット2月23日号のエディトリアル(文献8)

MMRワクチンは安全なのだろうか?疫学的エビデンスから到達する唯一の結論はイエスである.MMRワクチンが自閉症,小腸大腸炎,またはAndrew Wakefieldらが1998年にランセット誌に発表した症候群の原因であることを立証するデータは存在しない.同じ研究者らはJohn O'Leary教授を中心とするダブリングループと組んで新しい研究結果をMolecular Pathologyのオンライン版に発表した.麻疹ウイルスゲノムの断片が,リンパ様結節性過形成,小腸大腸炎,そして発達障害を有する91例の小児の中の75例で検出されたと報告しており,70例のコントロールグループからはわずかに5例で検出されたとしている.しかし,重要なことに,このデータはMMRワクチンとの関連については何の情報も持っていない.なぜなら,麻疹についてもおたふくかぜウイルスについても,風疹についてもワクチン特異的なウイルス株についてのデータがないからである.このO'Learyらの報告は,1998年の論文以来沈黙を守っていたJohn Walker-Smith教授(Wakefieldらの問題の論文のラストオーサー)を動かし,氏はランセット本号の通信コラムに投稿している.Walker-Smith氏はMMRワクチンの使用を保証し,この小さな選別されたサンプルにおける腸障害と行動障害の原因に関する独立した研究が必要と提唱している.哀しいことに,バランスのとれた科学的議論よりも議論は個人攻撃になってしまい,ワクチンを複合でなく短剤にとする不合理な要求がなされている.MMRワクチンにおける公的信頼は損なわれ,接種率は下がり,イギリスでは麻疹の流行が起こっている.パブリックオピニオンがすぐに変化しない限り,麻疹,おたふくかぜ,風疹の症例が増え,結果として死亡者が出て,場合によっては1970年代の百日咳ワクチン恐慌のように死亡者が増えることも考えられる.医師は親たちが,説明を受けた上での決定ができるように全てのエビデンスを提示しなければならず,そのエビデンスはMMR接種を支持するものでなければならない.しかし,議論はまたMMRの安全性で終止してはならない.イギリスの健康省は,先週,250万ポンドが自閉症研究をサポートする医学研究会議に与えられると発表した.これは2001年の12月の自閉症に関する同会議の論文発表に対するものであり,この論文は8歳以下の1000人あたり6人が自閉症スペクトルであると報告した.現在の実際の症例数が増えているのか,あるいはこの高い有病率が自閉症がより広く認知されるようになったためであるのか,などが今後の研究において重要なテーマであろう.医学研究会議の論文で明らかとなったのは,自閉症の原因だけでなく,自閉症の背景にあるかもしれない身体的および心理学的異常に関しても,いかに知られていないかということだけである.機能的脳画像研究は,複雑な活動のプランニングやコントロールに関連する脳領域および,社会性−感情的情報の処理に関連する脳領域における活動低下を示した.脳の神経伝達物質の異常も報告されている.心理学的理論は,社会的理解,行動の制御,そして細部に集中する能力に注目しているが,理論と実際の間には大きなギャップがある.自閉症スペクトルの遺伝素因についても論文が発表され,自閉症易罹患性遺伝子の研究が行われている.しかし,自閉症行動表現型の複雑性と自閉症で障害されている発達過程に関する理解の欠乏は分子レベルの研究の障壁となっている.感染に加え,薬物への出生前暴露,周産期合併症,そして食物など全てが自閉症の環境トリッガ−として示唆されている.しかし,これらの因子のどれが関連しているかについての研究においては独立した再現性が重要であろう.1998年にランセット誌において,ワクチンに関連した副作用を検出するための効果的薬剤監視システムの必要性が提唱され,Robert Chen氏とFrank DeStefano氏は,「そのようなシステムなしでは,Wakefield氏らが提唱したようなワクチンの安全性に関する懸念は雪だるま式に大きくなり,メディアと大衆が関連と原因を混同し,予防接種をしないようになった時に社会的悲劇が起こるかもしれない」と述べた.残念なことに,このことはMMRに関しては実際に起こってしまった.そのようなシステムに加え,自閉症スペクトルの原因,発達異常,そして治療に関する明確な研究計画が必要であろう.

・Wakefield論文のラストオーサーのレター(文献9)

私は,1998年に報告された回腸リンパ様結節性過形成,非特異的腸炎,そして広汎性発達障害に関する予備的研究におけるラストオーサーである.我々の報告のあとに発表したレターの他には,私はこの件に関するいくつかの論文の共著者となった以外は,何も発言してこなかった.私は,重要な医学的,科学的議論はピアレビューの過程を経た専門誌に発表された論文を基に,専門的なメディアを介してなされるべきと信じる.この件に関する最新のエビデンスはインターネットで発表され,BBCのパノラマプログラムで2002年2月3日に報道された.私は,2000年の9月にRoyal Free病院と医科大学のポストを辞し,その後患者は診ていないが,私の意見が何かの役に立てばと希望する.わたしは,専門誌に発表されたデータは2つのことを示していると信じる.第一は,発達障害を持ち多くは退行現象を伴った自閉症である厳選された症例グループが存在し,彼らが回腸リンパ様結節性過形成と典型的な炎症性腸炎ではない非特異的腸炎で特徴づけられる特異な胃腸異常を持っているということである.この障害の免疫病理学的研究はFurlanoらによって報告され,慢性炎症性腸疾患とは明らかに異なることが示されている.2番目は,そのような厳選されたグループにおいて,Uhlmannらは麻疹が関与している可能性を示す新しい証拠を提出した.彼らは回腸リンパ様過形成,腸炎,発達障害のある91例の中で,75例において麻疹ウイルスゲノムの存在を分子生物学的手法で示した.コントロール70例では5例のみ陽性であった.麻疹ウイルスは主に回腸の反応性濾胞性過形成中心の樹状細胞の中に局在していた.この局在はHIV-1に類似している.Uhlmannらは麻疹ウイルスが発達障害児において既に報告されている特異な炎症に部分的に関与しているかどうかという問題を提示した.この問題に答えるための研究は現在高いプライオリティーがあると言えよう.Wakefieldらの研究に関しては多くの批判があった.彼の結果は誤りでありそれを証明すべきと言われてきた.この批判の大半は疫学的なものである.しかし,MorrisとAldulaimiがダブリンからの報告に関してコメントしているように,「疫学はあまりはっきりしない方法であり,行われた研究はMMRと自閉症/腸炎症状態との関連が存在するリスクグループの可能性を除外していない」のである.私にとっては,疫学が示したことは,MMRワクチンが多くの子供にとっては安全であるということだけのように思える.Furlanoらの自閉症における炎症性変化と腸の研究は医学研究会議の2001年のレポートにおいてレビューされた.いくつかの批判はあったが否定されなかったのは確かである.逸話的であるが,現在私がみるところでは,MMRが自閉症と腸疾患のトリッガ−的役割をはたす可能性について,自閉症児の多くの親たちが重大な懸念を持っている.この懸念はテレビを通じてより多くの視聴者に広がった.この件は最初の論文に関する議論と,後に続く研究発表によって言及されるべき問題と信じる.小児科医として,私は麻疹の危険性はよく知っている.麻疹流行がアフリカの子供たちを蹂躙した現状を私は見,また医学歴史家の一人として,イギリスにおける麻疹が原因となった大量死に関してもよく知っている.パノラマプログラムにおいてS Murch氏は,麻疹予防接種率に影響するような研究に携わることは小児科医にとってはいかに気まずいことであるかを述べた.私はこの見解に賛成であるが,私はまたRoyal Free病院で1995年から2000年の間に毎週診察した子供たちにおける自閉症の重症度にもショックを受けた.また,私はこのような子供たちの親の考えにも耳を傾けた.私は,MMRワクチン接種を支持することには変わりはない.MMR支持は,最初からこの研究においてRoyal Free病院の小児科医全てがもっていたものである.私の3人の孫は,MMRワクチンの接種を受けた.昨今の麻疹感染症の流行には懸念をいだいているが,MMR接種を自閉症のオンセットに関連づけて考えている親の真の懸念を解決し,そのような障害のリスクをもつ大変小さなかつ重要な症例群を決定する因子が存在するのかどうかを同定するための,さらなる研究が大至急行われる必要あると考える.私は,ワクチン製造会社に対する現在の法的動きに関与する対立関係を伴ったアプローチが子供たちに悪影響を及ぼしていると信じる.またこの対立関係は健康省の何人かの担当者によってAndrew Wakefield氏らをも巻き込んでいる.この姿勢は,パノラマプログラム(テレビ番組)でのDavid Salisburyが,Wakefield氏の研究を軽蔑したあざけりのコメントを述べたことに象徴される.研究計画はこのような子供たちの腸に焦点をしぼった,非疫学的研究を含んでいなければならない.全体としての疑問は今後もそう関単には解明されず,親の心労の大きな原因となっていることは自明のことである.最初の観察結果が拡大研究され,追加のエビデンスと共に示されたのであるが,この問題の解決は遠いように思われる.最近報告された研究は,麻疹ウイルスが役割を担っている可能性に関するエビデンスを供給した.この研究の重要性は至急確認され精査される必要がある.


文献
1. Evans M, et al. Parents' perspectives on the MMR immunisation: a focus group study. British Journal General Practice 51: 904-910, 2001.

2. DeStefano F & Chen RT. Autism and measles-mumps-rubella vaccination: controversy laid to rest? CNS Drugs 15: 831-837, 2001.

3. Ramsay S. Controversial MMR-autism investigator resigns from research post. Lancet 358: 1972, 2001.

4. Blaxill MF. Any changes in prevalence of autism must be determined. BMJ 324: 296, 2002.

5. Eaton L. New research on autism and measles "proves nothing". BMJ 324: 315, 2002.

6. Taylor B, et al. Measles, mumps, and rubella vaccination and bowel problems or developmental regression in children with autism: population study. BMJ 324: 393-396, 2002.

7. Ramsay S. UK government tries to control MMR panic. Lancet 359: 590, 2002.

8. Time to look beyond MMR in autism research. Lancet 359: 637, 2002.

9. Walker-Smith J. Autism, bowel inflammation, and measles. Lancet 359: 705-706, 2002.


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