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MMR・自閉症・腸炎(16)

BMJなどの記事


2001年8月,伊地知信二・奈緒美

文献1は,Vaccine誌に掲載された論文で,ランセットのTaylorの論文(353:2026-9)の続編です.文献2以降はMMR・自閉症・腸炎(13)でご紹介しましたKayeらのBMJの論文に対する3つのレターと,それに対するKayeらの返答です.「MMRと自閉症の間に因果関係があるとする見解は説得力がないままである」としている点は共通しているようですが,因果関係を否定するための証拠作りもなかなか大変のようです.


Vaccine誌の論文(文献1)

MMRワクチンが自閉症の原因であるとする仮説は,当初発達上の退行現象がMMRワクチン接種の後すぐに起こったケースの報告により提唱された.これまでの研究はこの仮説を支持する証拠を得ていない.MMRワクチンが自閉症の原因であるかもしれないが,潜伏期間が短い必要はないとする示唆も最近提示された.この2番目の仮説を検証するために,早期の研究データが再検討された.我々の結果は,この仮説を支持せず,MMRワクチンと自閉症の間の因果関係がないことを示すさらなる証拠を提出する.

(結果)自閉症と診断を受けた357ケース(典型的例と非典型的例)に関し,観察期間の中央値は89ヶ月,最大191ヶ月であった.最高診断年齢は180ヶ月で64例はMMRの接種を受けていなかった.43ケースは2歳以後に1回のMMRを受け,(観察期間の)中央値は57ヶ月,最高値は165ヶ月.62ケースは2回目のMMRを受け,(観察期間の)中央値は54ヶ月,最高159ヶ月.診断年齢を横軸に,診断件数を縦軸にプロットした図と,接種年齢を横軸に,接種件数を縦軸にプロットした図を,接種歴のないグループ,1回接種グループ,2回接種グループで比較した(接種歴のないグループの図は診断年齢の図のみ).自閉症診断年齢の分布を解釈するには,フォローアップ期間の差を考慮する必要がある.例えば,接種歴のないグループには,MMRが導入される前のケースが多く含まれ,結果的に古いケースが多くなってフォローアップ期間が長くなっている.このことは,診断件数分布の後半に影響し平均値に影響する.しかし3グループ全てにおいて,ほとんどの診断は24ヶ月から48ヶ月の間になされている.相対発生率は,診断(357ケース),親の懸念(326ケース),退行現象(105ケース)の3つのイベントにおいて,MMRワクチン(1回又は2回)接種後あるいは麻疹ワクチン単体あるいは他の組み合わせでの麻疹ワクチン接種を含む2群で検討された.診断のリスク期間は接種後0から59ヶ月,親の懸念のリスク期間は接種後0から35ヶ月,退行現象のリスク期間は接種後0から23週とし,このリスク期間中に自閉症のイベントが起こった率と,接種後のイベント率(接種後であればいつでも)を計算した.全ての場合で,相対発生率は1から有意には違っておらず,このことはワクチン接種と自閉症の間に摂取後のリスク期間で関連がないことを示している.

(考察)我々の結果は,MMRまたは麻疹を含む予防接種が接種後いかなるタイミングでも自閉症の原因とはならないことを示している.ポイント評価は一般的に統一性があり,信頼区間を狭くでき,解析能力が高いことを示している.単純化に加え,自己適合ケースシリーズ法(self-matched case series method)は,コホート研究やケース・コントロール研究において起こるような個人レベルの混乱に基づくいかなるバイアスをも避けることにおいて有益である.例えば,接種情報の混乱や自閉症の未知のリスクファクターの存在などによるバイアスなどである.我々の研究は,推奨されるスケジュールよりも遅れて接種されたものを含み(脱漏プログラムの一部やブースターなど),MMRワクチン全てに関するデータを使った.2回目のMMR接種がさらに自閉症のリスクを増加させるとする示唆(意見)があったが,我々の結果はそのような可能性を支持しない.我々の結果はまた,正しい状況設定下では,ケースシリーズ法が予防接種の遅発性副反応の解析における強力な手法になり得ることを明らかにした.ケースシリーズ法は元々は特に急性反応を検討するために開発されたものである.一般的に,リスクインターバルが長くなった時,この方法のパワーは無くなる.しかし,接種年齢のひろがりがかなりであるか,ケースの一部がワクチン接種を受けていない場合か,あるいはその両方である場合,長いリスクインターバルでも高いパワーが得られるであろう.結論として,ここで記載した結果は,先に報告した結果と合わせ,MMRワクチンあるいは麻疹が含まれる予防接種が接種後いかなるタイミングでも自閉症の原因にはならないことの強力な証拠を提供する.


KayeらのBMJの論文(322: 460-463, 2001)に対するSmeethらのレター:ケース・コントロール研究やケースシリーズアプローチが必要(文献2)

Kayeらは,MMRワクチン接種率の経時的推移と自閉症と診断された症例数の変動を比較するecological研究を行った.その結果彼らは,11年以上にわたって小児一般診療記録(デジタル:電子カルテ)における自閉症の発生率が明らかに増加していることを発見したのである.

我々は,MMRがこの観察された増加の原因ではあり得ないとする彼らの結論に賛成である.この結論の根拠は,同じ時期のワクチン接種率が横ばいであることである.自閉性疾患の分類における概念は変遷し,最近はケース確認の機会も変化している.またより厳密に症例をレビューすれば,増加の一部が診断実践における変化によるものなのかを明らかにするかもしない.Kayeらの論文では,わずかに81%のケースが専門家に紹介されて診断されており,診断の信頼性に関する疑問が生じる.また,出生時よりあって,自閉症のリスクが増加していることで知られている医学的状態(脆弱X症候群,結節性硬化症,フェニルケトン尿症,先天性風疹など)の児が除外されていない.

ワクチン接種率の動向と小児の電子カルテ中の自閉症件数の発生率の間の関連が見出せないことで,因果関係を否定することはできない.MMRワクチンへの暴露が自閉症のリスクを増加させるかどうかは,大変重要な公衆衛生上の問題であり,一般診療研究データベースを使うことにより有効に検証することができる.我々はイギリス医学研究省(the United Kingdom Medical Research Council)から研究費をもらい,自閉症の原因を研究する目的で,ケース・コントロールアプローチと,ケースシリーズアプローチを使ってMMRワクチンが役割を持っている可能性を評価しつつある.データベースの電子カルテの情報は,全てのケースの完全な記録レビューと倫理的承認を得た上での有症候児およびコントロール児両方の親に対するアンケートなどで補われるであろう.我々は,全ケースの詳細な検証と分類を行う予定で,症候の開始時期を同定するつもりである.加えて,ケースおよびコントロールの両者から可能性のある混乱因子に関する情報を得ることができるであろう.我々の研究の詳細なプロトコールはBMC Public Health誌に発表済みである.


KayeらのBMJの論文(322: 460-463, 2001)に対するEdwardesらのレター:議論が単純化しすぎ!(文献3)

KayeらはMMRワクチンの動向と自閉症の発生率を解析した.自閉症の増加は徐々に起こり,一方MMR接種率は横ばいであるので,彼らは関連がないと論じている.しかし,この議論は臨床症候のオンセット後のそれぞれの年の診断率が出生コホートに関してはコンスタントであり,マイルドな症例は診断される一定の機会を持つという仮定の上になされている.

Altmannは症例の40%で診断が3年まで遅れてなされていることを指摘している.小児科医と臨床医がこの期間に自閉症に気づくのが増えることで,徐々に増えている現象を説明可能であろうか?(説明できないであろう) 最初の予想外の症例増加は1991-2年に発見されている.そのことが,(自閉症に対する)警戒心を増加させ得たであろうか? 1993年を除き,早期診断への方向性があるように思われる.1998-9年は例外的である.なぜならその時のコホートはかなり変化しており情報的価値のないいくつかの臨床情報を伴っている.Kayeらは,診断年齢のシステマティックな若年化が存在するかどうかをみるために1988年から1997年の動向の検証を使うことができるであろうか? またケースの平均重症度がこの時期に軽減化しているという考えを検証することも可能ではないのか?

最後に,早期ワクチン接種の動向は,カリフォルニアからのデータに見受けられるように,事実なのか? 例えば,10ヶ月未満でのワクチン接種率は経時的に増加したのか?

我々は,Kayeらが提示した意見は,MMRと自閉症の間のリンクがないことを我々に再確認させるためには単純化しすぎていると提案する.しかし,このリンクを肯定する現在の意見は説得力のないままである.


KayeらのBMJの論文(322: 460-463, 2001)に対するYazbakのレター:自閉症発生率の増加が説明できなければMMR説は否定できない(文献4)

Kayeらは,検討の結果,自閉症の発生率の増加をMMRワクチンでは説明できないとした.その根拠をワクチン接種率が検討した期間では90%以上をコンスタントに推移していたからとしている.

私は彼らの研究に関していくつかの問題点を指摘する.

(1)選ばれた小児のコホートは1988-93年の間に生まれている.MMRはイギリスにおいては1988年に導入され,最初の年から90-95%の接種率が得られたとは信じがたい.

(2)Kayeらは効果的に,1988年かあるいはそれ以降に接種を受けたかもしれない1988年以前に生まれた子供達を除外してしまっている.

(3)選ばれた114名の少年は71ヶ月時まで観察されている.彼らの多くは,2回目のMMR接種(ブースター)の後に観察を中止している.2回目のブースターの接種は4歳(48ヶ月)か5歳(60ヶ月)であり,何人の子供達が2回の接種を受けたのかが記載されていない.

(4)MMRワクチンは以前は15ヶ月時かそれ以後に接種された.それから,接種年齢は12-14ヶ月に早まり,その他のワクチンが同時に接種されるようになった.その結果低年齢で感染により弱い時期に免疫原性の抗原暴露が増加し,効果的に自閉症の発生率が増加している(可能性はないのか?).

(5)主な解析においてケースを114例の少年に絞り込んだのは重要問題である.1990-9年の出生コホートにおける290人の小児を,年齢や出生年で分析(分類)することが情報としては理想的であった.176例の中の除外された少女の情報も関連する情報を持っていたかもしれない.

(6)DSM-IVもICD-10もイギリスでは使用されていないという事実もまた,所見の有意性にさらに疑問を生じさせる.

Brent Taylor教授がランセット誌(353:2026-9)で示したのと同様に,Kayeらはイギリスにおける自閉症の疫学動向を明らかにした.1988年以前は,自閉症の発生率は1万人あたり1名であり,MMRが導入された1988年以後は,1万人あたり8人と急増し,1993年までには1万人あたり29人となっている.

Kayeらは,この増加のリーゾナブルな説明を提供することなしに,MMRを除外することはできない.

MMRの安全性に関する研究がワクチン製造会社と独立して大規模に包括的に行われ,研究者たちが親達と共にこの報告された副反応(腸疾患と自閉症)をレビューするまでは,MMRは疑わしいままである.


Kayeらの返答(文献5)

我々は,我々のMMR接種と自閉症に関する研究をecologicalとしているSmeethらの見解には賛成できない.ecological研究においては,解析のユニットは一般大衆(populations)あるいは集団(groups)である.しかし,我々の研究は自閉症と診断された小児に注目している(我々はまた,1988-93年に生まれた小児の一般臨床研究データベースにおいて全ての子供達のMMR暴露の率も報告してはいるのだが).

自閉症のリスクを増加させる状態を持つ数ケースを含んでいるかどうかという点は重要ではない.なぜなら我々はMMRワクチン接種と自閉症と診断されるリスク自体の関係を評価しているからである.我々は,MMRワクチン以外で自閉症の最近の増加の原因を評価する必要性については同意見である.

ノン・パラメトリックテスト(Stata, version 7.0でのWilcoxonランク合計テストの応用)は,1988-99年に診断された305例での診断年齢が低年齢化しているという動向については何の証拠も提供していない(p=0.88).これは,1998年以前に診断されたケースにしぼっても同じ結果である(p=0.61).診断時のより低い年齢で,1988-93年出生コホートにおける2歳から5歳児のリスクの4倍近い増加を説明できるかどうかは疑わしい.ベースポピュレーションにおける最初のMMR接種年齢の中央値は1988年出生コホートにおいては15ヶ月で,1989-1996年出生コホートでは14ヶ月,1997年コホートでは13ヶ月である.2歳から5歳での自閉症診断のリスクの実際の大きな増加を,この小さな初回MMR年齢の差が説明できるとは思われない.我々は診断基準の変遷(例えば,マイルドなケースが診断されるようになったこと)が自閉症診断件数の増加のひとつの説明であろうことには賛成する.

我々はクラッシックなケースのみを対象とはしなかった.我々は,少女は診断ケースのわずかに5分の1であるので,リスク予想の正確性を最大にするために主な解析では男児に限って検討した.診断発生率が最も高い2歳から5歳の子供に注目し,2歳から5歳の4年間のリスクを計算するのに十分なフォローアップ情報を得るために1988-93年出生コホートを解析した.いくつかの出生コホートで異なる診断年齢上限を使うことは,複数のコホート間のリスクの比較性を障害する可能性がある.

MMRはイギリスでは1988年に導入され,約15ヶ月の年齢を対象として最初に接種された.1988年に生まれた子供達は1989年または1990年に接種され,したがって我々のデータはその最初の年から95%の接種率が得られたとは示唆していない.1988年以前に生まれたケースを除くことは,報告した出生コホートのリスク評価に何ら影響をもたず,またはMMRワクチンとこのコホートにおける自閉症診断件数の間の関係にも何ら影響はない.114人の男児のうちたった12例のみが我々の主な解析において自閉症の診断の前に1回以上のMMR接種を受けている.この12例という数は,1回接種と2回接種を比較するには少なすぎる.我々はMMR以外の予防接種と自閉症発生率の増加との関連は検討していない.


文献

1. Farrington CP, et al. MMR and autism: further evidence against a causal association. Vaccine 19: 3632-3635, 2001.

2. Smeeth L, et al. Measles, mumps, and rubella (MMR) vaccine and autism: ecological studies cannot answer main question. BMJ 323: 163, 2001.

3. Edwardes M & Baltzan M. Argument is too simplistic. BMJ 323: 163, 2001.

4. Yazbak FE. MMR cannot be exonerated without explaining increased incidence of autism. BMJ 323: 163-164, 2001.

5. Kaye JA, et al. Authors' reply. BMJ 323: 164, 2001.


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