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MMR・自閉症・腸炎(15)

Kawashimaらの論文に対する反論など


2001年7月,伊地知信二・奈緒美

5月と6月に出た記事を3つご紹介します.Kawashima先生らの論文の問題点はMMR・自閉症・腸炎(8)で詳しくご紹介しましたが,文献1はPCRのコンタミであろうと一蹴しています.文献2は2000年6月にイリノイ州のオークブルックでおこなわれたアメリカ小児科学会の学際的学会の報告書です.文献3はMMR・自閉症・腸炎(14)でご紹介しましたDalesのJAMA論文に対する質問と解答です.


炎症性腸疾患と自閉症例の腸組織の麻疹ウイルス持続感染について(文献1)

Kawashimaらによる論文(Dig Dis Sci 45:723-729, 2000)は我々にとっては興味あるものであった.炎症性腸疾患と自閉症のケースで,RT-PCR法で臨床検体に麻疹ウイルスのゲノム配列が存在することを指摘した最初の論文である.対照的に,我々の検討を含め,これまでにいくつかの研究グループから報告された論文では,どの論文でも,炎症性腸疾患や非炎症性腸疾患例からのいろいろな臨床検体に麻疹ウイルスの持続感染を証明することはできなかった.

Kawashimaらが報告したデータでは,クローン病患者の12.5%,潰瘍性大腸炎患者の33.3%で,麻疹ウイルスが検出されている.これが真実であれば,これまでに同じ方法で発表されている症例数に当てはめると,56例のクローン病検体から少なくとも7例,33例の潰瘍性大腸炎検体から少なくとも11例において麻疹ウイルスが検出されることになる.末梢血の血球成分が検討されているものでは,クローン病が16例で潰瘍性大腸炎が11例であるので,それぞれ2例および4例が麻疹ウイルス陽性ということになるはずである.ところが,実際は,これらの過去の報告例はKawashimaらの方法よりもより厳密で感度が高いにもかかわらず,全例がRT-PCRで麻疹ウイルスが検出されていなのである.Kawashimaらは過去の論文が麻疹ウイルスを検出できていない理由を,過去の論文がRT-PCRのゲノム上のターゲットを例えばN遺伝子などにしているため,原因は不明であるが検出できていなのであろうと主張している.これは誤解であり,ほとんどの過去の論文はRT-PCRのターゲットを複数の部位に設定している.事実,いくつかの研究はKawashimaらと同じ場所(H遺伝子)をターゲットとしているにもかかわらず,全例が陰性なのである.ゆえに,これまでに公表されてきたいくつかの論文の結果と,Kawashimaらの結果は,クローン病と潰瘍性大腸炎に関しては明らかに矛盾しているのである.自閉症ケースに関しては過去の報告はない.

我々は,Kawashimaらの研究では,コントロールとして使用した麻疹ウイルスか,あるいはあらかじめ存在していたDNAテンプレートによる交差コンタミネーションが起こったのではないかと考える.おそらく1株以上のコンタミで,過去においても研究室のコンタミネーションの一番の原因となるnested PCR増幅法の際のコンタミネーションであろう.この予想は炎症性腸疾患や自閉症例から検出されている遺伝子配列が野生株やワクチン株の遺伝子配列と明白に区別できない事実からも支持されている.Kawashimaらの表2の遺伝子配列に基づくと,クローン病ケースから分離された遺伝子配列はワクチン株とは2つの塩基のみが異なっており,自閉症から分離された配列は理論的にはワクチン株と一致するはずであるのが,3から4塩基異なっている.遺伝子配列に基ずく系統発生解析を,いくつかのワクチン株や野生株と行ってみても,症例の臨床歴と麻疹ウイルスの遺伝子配列の間の関連を確認することは不可能である.

Kawashimaらの論文の表1と表2に記載されている遺伝子配列にはいくつかの相違がある.この相違は8409,8419,8447,8492,8590の位置で明白である.これらが報告上のエラーなのかあるいは同じサンプルを使った異なるPCR産物における真の配列バリエーションなのかは不明である.しかし,このような相違は,PCR産物におけるDNAフラグメントの混在があったことを示す良い指標である.通常はこれは一つ以上のテンプレートの交差コンタミネーションで起こり,解決策はテンプレートのクローニング後のシークエンシングである.

加えて,Kawashimaらの論文には重要な部分で欠落している情報があり,研究の信頼性を落としている.例えば,クローン病1例,潰瘍性大腸炎1例,自閉症3例の計5例でH遺伝子領域が陽性としているが,F遺伝子領域の遺伝子配列に関しては1例のも報告している.他のサンプルはF遺伝子領域について検討しなかったのか,あるいは検討したが陰性だったのかが記載されていない.同様に陽性コントロールの由来についても記載がない.

麻疹ウイルスの遺伝子が残存し,多くの疾患の原因になる可能性は繰り返し取り上げられたが,今のところSSPE以外では科学者たちにとっては説得力はない.Kawashimaらの結果は矛盾が多く,他の報告とは一致せず,説得力のあるものとは思えない.

 


MMRワクチンと自閉症スペクトル:2000年6月の小児予防接種会議(イリノイ州,オークブルック)における報告(文献2)

(背景)親や医師が自閉症の原因や治療について気にかけているのは当然のことである.自閉症は深刻な状態であり,家族全体に影響を与える状態なのである.自閉症に関する研究は進んではいるが,自閉症の原因について我々が知っていることと,自閉症を予防するための具体策の間には大きなギャップが存在する.自閉症症候にはスペクトルがあり,しばしば自閉症スペクトルと表現される.MMRと炎症性腸疾患と自閉症(特に退行型)の間に関連があるのではという指摘は議論を呼んでいる.また,自閉症スペクトルの発生率の増加の可能性に関連して,自閉症スペクトルに関する教育サービスの需要が増加している.

(方法)2000年6月12日から13日に,アメリカ小児科学会は,「小児予防接種における新しい挑戦」と題した学会をイリノイ州のオークブルックで開いた.この学会において,親,臨床医,そして科学者たちはMMRワクチンと自閉症スペクトルに関する情報や研究結果を発表した.参加者はアメリカ小児科学会専門委員会および部門の代表や,合衆国およびその他の関連機関の代表も含まれていた.学際的な専門家のパネリストたちが,自閉症の病因,疫学,遺伝学などについてレビューし,炎症性腸疾患と麻疹とMMRワクチンの間の仮説的関連についての入手可能なデータを総括した.仮説を提供した著者や関連する領域におけるほかの専門家たちからは,求められた補足情報が提供された.

(結果)自閉症は複雑な障害であって,未知のおそらく複数の原因によるものであろう.自閉症スペクトルになり易くする遺伝子は,10個はあるであろう.多くの専門家たちが,自閉症において起こる脳の発達異常は多くの場合,受精30週よりも前に起こるであろうと信じている.胎児期の風疹暴露は自閉症の原因のひとつとして知られている.動物モデルでは,未知の感染や他の環境因子への暴露が自閉症スペクトルの原因となる可能性を示唆している.

いくつかの因子が,最近の自閉症スペクトルの発生率の明らかな増加に寄与しているであろう.多くのデータは,自閉症への理解が進み報告数が増加したことが一番の因子であることを示している.しかし,疫学的データは自閉症スペクトルの発生率が真に増加してきたのかどうかについては結論をだせないでいる.最近の自閉症スペクトル報告例の増加は,アメリカでは1971年にMMRワクチンが導入され1970年代に12ヶ月から15ヶ月での接種がルーチン化された後,時間をおいて起こっている.自閉症スペクトルの真の発生率や罹患率を確認するためには,適切で詳細な研究が必要である.ヨーロッパにおける疫学研究は,MMRワクチンと自閉症スペクトルの間に何の関連もないことを示している.

自閉症スペクトル児の中には消化管症状のある児も含まれているが,自閉症スペクトル児の中に特殊な消化管疾患が増加しているという確証はない.炎症性腸疾患や消化管症状を持つ自閉症児の腸組織検体から麻疹ウイルスを検出するための検討では技術的な統一が成されていない.いくつかの研究グループは炎症性腸疾患の腸組織から麻疹ウイルスは検出できないとしているが,2つの研究グループは異なる技術を使い麻疹ウイルスの存在を示している.この2つのうちの1つ(Kawashimaら)は,消化管症状を呈する自閉症児の末梢血リンパ球にも麻疹ウイルスの遺伝子配列の一部を検出したと報告している.これは因果関係の証拠ではなく,ウイルスが持続感染していても何も起こらないこともあり得る.コントロール研究をいくつかの研究施設で追加する必要がある.

(結論)MMRワクチンと自閉症との関連の可能性は,多くの人々と行政が関心を寄せ,個人的な経験に基づく独自の結論に至ったたくさんの人々が存在するが,MMRワクチンが自閉症やその関連状態や炎症性腸疾患の原因であるとする仮説を支持する証拠は今のところない.麻疹,おたふくかぜ,風疹のそれぞれのワクチンを別々に接種する方法は,一度にMMRワクチンとして行うことと比べて利点はなく,別々の接種ではかえって接種時期が送れてしまったり,抵抗力が獲得できない可能性がある.小児科医は家族と共に,子供たちが2歳までにこれらの予防可能な病気に罹らないように努力しなければならない.自閉症スペクトルの原因を突き止めるためには,そのために必要な科学的な努力を続ける必要がある.

 


JAMAのレター:Edwardes MとDales L(文献3)

(Edwardes Mのレター)
Dales先生らは,自閉症の頻度とMMRワクチンの間には本質的には相関は存在しないと報告したが,この結論は彼らの図を見たときの目の錯覚に基づく結論である.この図からY軸のデータを取り出し,自閉症総数と接種を受けた児の%の間の相関係数を計算すると,24ヶ月の接種で0.73,17ヶ月の接種で0.90である.関連がないように錯覚してしまうのは,グラフが垂直方向に縮小してあるからである.自閉症カーブの明らかな急勾配は,良く知られているように,自閉症がより注目されるようになり自閉症と診断される機会が増えたことによる疫学効果によるのかもしれない.

さらに,彼らのデータは1981年と1993年の間は接種年齢がしだいに若年化していることを示している.17ヶ月以前に接種を受けた児と17ヶ月と24ヶ月の間に接種を受けた児の比を年毎にプロットすると,1981年から1993年の間は,200%の増加が見られる.従って自閉症の総数を出生総数で割った値がカリフォルニア州での真の発生率に近いとすると,データはまた,MMR接種を早期に受けるケースの比率が自閉症の発生率に相関していることを示唆していることになる.

しかし,相関があるからといって因果関係が証明されたわけではない.カリフォルニア州のオリジナルレポートは,地域発達障害センターでの自閉症の総頻度がそのまま発生率といわけにはいかないと警告している.このような施設でのデータでは,数多くの因子が増加に寄与する可能性がある.ひとつのはっきりした因子は,入手性であり,これはセンターの数が増えればそれを利用できる人が増えて頻度も増える.その他の因子としては,1988年12月に放映された映画レインマンの影響である.この映画は自閉症に関する汚名(スティグマ)の多くを除去することに役立った.最近のメタ解析は,自閉症の発生率の増加は自閉症診断基準の広義化や,医師の目に触れるようになったこと,移住などの影響によることを報告している.このような因子すべてを考慮しなければならない.

予防接種施行者を,そして恐らく公衆を安心させる研究は,自閉症の年間発生率の増加が,MMRワクチンが1995年以前には導入されていない発展途上国でも1995年以前に導入された国と同時期に起こっていることを示す報告であろう(まだ報告されていない).とにかく,一番の疑問は,MMRワクチン接種が自閉症の原因になるかではなく,早期のワクチン接種がリスクファクターとなるか,あるいはMMRワクチン接種によるリスクがフランスなどでMMRワクチンの代わりに行われるようになった麻疹ワクチン単独接種でのリスクと異なるかという命題というわけである.我々は何らかの形で予防接種を続けるべきであることを強く信じている.

(Dales Lの返答)
我々は我々の論文でも述べたように,Edwardes先生らの「相関することが強い証拠というわけではない」という意見に賛成である.しかし,親や行政担当者からの頻回の電話から,我々はそのような一時的な相関やMMRワクチン使用と自閉症の発生率の因果関係の可能性は,大きな懸念を巻き起こし,さらに詳細なデータの検討や提示が必要になっていることを確信するに至った.

我々が入手可能であったデータおよびカリフォルニア州における小児のMMR予防接種率のために使ったデータは,17ヶ月および24ヶ月までの接種率のまとめの表を作るためのデータとしては問題があった.これらのデータは,MMRワクチンの接種時期がより若年化している一次的な傾向を示していた.しかし,この傾向は著明なものではなく,ひとつにはMMR接種時期が12ヶ月以後であるように推奨されてきているためである(12ヶ月以前に希望する親は少ない).いかにコンピューター処理しても,1980年から1994年の間の出生コホートにおけるMMRワクチン接種率の相対増加では,自閉症の発生率の相対増加400%を説明できるものではない.24ヶ月時の接種率の相対増加は14%,17ヶ月時の相対増加は57%程度なのである.

しかし,それぞれの変動カーブの特異的な形状に見出される重要な情報が存在すると我々は信じる.MMR接種率は,1980から1994年の間に生まれた児において緩やかな上昇傾向を示している.一方,自閉症のカーブは最初の数年は緩やかな上昇傾向であるが,1987年からは毎年劇的に増加している.この劇的変化は目の錯覚ではないのである.Y軸のスケールは,自閉症カーブの激変の前後で同じものが使われているのである.さらに,相関係数の計算はこういった重要な所見を判りにくくする.観察期間の後半6年間(1988年から1994年)は,自閉症増加の相対率は少なくとも150%であるのに,MMRワクチン接種率の増加率は15%以下なのである.

明らかな劇的な持続的増加が自閉症発生率において1980年代後半から1990年代の間に起こっていることが,真の発生率の増加を意味するのか,それとも単に検出頻度の変化や診断基準の変化によるものなのかについては,結論が出ておらず議論が存在することには我々も同意する.我々のデータと,イギリスからの同様の2つの報告は,もし自閉症発生率の劇的持続的増加が真の発生率の増加を反映しているとしても,小児早期におけるMMRワクチン接種率の変動はその原因になり得ないことを示唆している.同様に,アメリカ医学局は最近入手可能な疫学的および研究室レベルの証拠の全般的総括を済ませ,MMRワクチン接種と自閉症発生率の間の因果関係を支持する証拠はないと結論している.

 


文献

1. Afzal MA, et al. Measles virus persistence in specimens of inflammatory bowel disease and autism cases. Dig Dis Sci 46: 658-660, 2001.

2. Halsey NA, et al. Measles-mumps-rubella vaccine and autistic spectrum disorder: report from the new challenges in childhood immunizations conference convened in Oak Brook, Illinois, June 12-13, 2000. Pediatrics 107: e84, 2001.

3. MMR immunization and autism. JAMA 285: 2852-2853, 2001.


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