Sorry, so far only available in Japanese.
MMR・自閉症・腸炎(13)

自閉症は増加しているのか・など


2001年4月,伊地知信二・奈緒美

この話題に関する最近のレポートから3つ紹介します.自閉症の発症率が増加しているのかどうかに関しても,研究者の意見がいまだに分かれています.


「MMRワクチンは安全!」(イギリス当局のキャンペーン)(文献1)
経費300万ポンドをかけたマルチメディアキャンペーンがイギリスでスタートする.目的は麻疹,おたふくかぜ,風疹混合ワクチン(MMRワクチン)が安全であることを親に再確認してもらうことである.このワクチンの接種率は,自閉症と腸管異常の報告の直後から低下している.「このような恐れが話題となった時は,徹底的な調査が行われてきており,そのつどMMRは問題ないことが証明されてきた.」と担当官は1月21日の専門家会議の席上で語った.

この専門家会議は,ロンドン,Royal Free病院のAndrew WakefieldとScott Montgomeryによるレビュー論文が同日に公表されたために開催された.MMRが自閉症と腸疾患に関係するとした最初の論文の筆頭著者であるWakefield氏は,この会議に先立ち,週末の新聞で,「MMRの認可のためのトライアルは不適切であった.」と述べたことが伝えられていた.Independent on Sunday紙上で,彼は「検査した自閉症児の数は170人以上であり,日に日に予約者の数が増えている.」とも述べている.

WakefieldとMontgomery両氏は,問題のレビュー論文でMMR認可のための研究を解析し(Adverse Drug React Toxicol Rev誌の19:265-283,2000),「先進諸国の子供たちにおいては,消化管異常およびその他の副作用が明らかであったことが判明した」と述べている.彼らはまた,「MMRについての最近の懸念に関連する腸管の症候や退行性の自閉症は,報告されている安全性に関する研究では検出され得なかったであろう.」と付け加えた.この専門誌の編集者は,特別にこの話題の意義を重視し,この論文の5人の差読者のコメントまで掲載している.差読者の中には健康省(the Department of Health)の前の医学担当長であったPeter Fletcherがおり,彼は,「極端に寛大に判断しても,安全性の証拠は不十分」であり「MMRの認可は時期尚早であった」と述べた.

しかし,1982年から1996年の間のMMRワクチンのフィンランドにおけるサーベイランス(180万人)が,最近報告され(Pediatr Infect Dis 19: 1127-34, 2000),300万回の接種を含む長期のフォローアップ研究で炎症性腸炎も自閉症も検出されなかったことが結論されている.

翌1月22日,健康省の医療監督局は,Wakefield,Montgomery両氏のレビュー論文と同論文の査読者のコメントに対する見解を発表した.問題の論文を体系的でなく選択的な手法と批判しながら,「でまが,実際的な安心を供給する大規模データとは対照的な偏ったデータにより,一般大衆の信頼をくずすことは容易である.」と述べている.また,差読者のコメントについては,差読者がワクチンの専門家でないことを挙げ,「この専門誌の編集者はワクチン学の現役の専門家を少なくとも一人差読者に加えるべきであった.」と述べた.

入手可能な全てのデータを慎重に評価すると,MMRワクチンと炎症性腸疾患あるいは自閉症の関連を支持するデータは存在しないと追記し,これが世界中からのたくさんの専門家グループによる結論であるとしている.

 


MMRワクチンと自閉症(臨床記録を使った経時的解析)(文献2)
目的:自閉症のリスクに経時的変化があるのか,自閉症とMMRワクチンの間に関連があるのかを検討する.デザイン:イギリス臨床研究データベースを用い経時的解析を行う.設定:イギリスにける臨床.対象:1988年から1999年に自閉症と診断された12歳以下の小児および1988年から1993年の間に生まれた2歳から5歳の男児.主な最終評価項目:最初の自閉症診断の年度毎の頻度および年齢毎の発症頻度を12歳以下の自閉症児で検討.2歳から5歳の男児では誕生年度コホート毎の自閉症発症危険率とMMRワクチンの接種率を検討.結果:新しく自閉症と診断される件数は1988年には1万パーソンイヤーあたり0.3人であったものが,1999年には7倍の2.1となっていた.発症(診断時)のピークは3歳から4歳の間で,83%(254/305)が男児であった.1988年から1993年の誕生年度コホート解析では,2歳から5歳における男児の自閉症危険率は1988年には8(95%信頼巾は4から14)であったものが,1993年にはほぼ4倍の29(20から43)となっていた.同じ誕生年度コホートでMMRワクチン接種率は毎年95%以上であった.結論:2歳から5歳での自閉症発症率は,1988年から1993年の間,男児において明らかに増加している.一方MMRワクチンの接種率は連続して95%以上である.従って,このデータからMMRワクチンの接種率と自閉症の急速な危険率増加の間に関連がないことが立証される.自閉症の急増の原因はいまだ不明である.


自閉症は増加しているのか?(文献3)
自閉症の発症率が増加しているとする仮説に関する議論のためには,現在あるデータの方法論的限界をはっきりと認識する必要がある.精神科症例登録研究では,これまでのところ自閉症的状態の発生率の経時的評価およびモニタリングを目的としたものはない.断面的調査は症例の定義においてさまざまであり,年度毎の罹患率および地域毎の罹患率の両方における大きなばらつきの原因とされている症例の同定法も(ひとつの調査の中で)統一されたものではない.このような因子が経時的解析の意義をなくしてしまっている.最近の発症率は30年前に比べるとかなり高率になっており,これは単に自閉症の広義の解釈が受け入れられ,知的能力が正常である自閉症が認識されるようになり,診断基準が変化し,自閉症者に対する公的サービスの向上に起因する診断件数が増加したことを反映しているのである.症例の定義と同定を一定にして行われた唯一の疫学的研究では,1972年から1985年の間に生まれた連続年度コホートにおける自閉症発生率に増加傾向は検出されなかった.

自閉症が増えているとしている多くの主張は,センター施設へ紹介されたケースの統計データに基づいている.カリフォルニアの発達サービス局の報告は,自閉症が増えていることの証拠として紹介され,いまだに広く引用されている.この報告の肝心の部分は批判的検証を受ける必要がある.

まず第一に,このデータは率でなく素データであり,母集団の大きさや構成要素の検討が含まれていない.1987年から1999年の間,カリフォルニアの人口は27777158から33145121人に増加し(+19.3%),そのうち自閉症増加現象の報告年齢である0歳から14歳の人口は6009165から7557886人に増加している(+25.8%).国内外からの人口の流入の影響も考えられる.このような基本的な疫学的考察は報告の中にはない.

二番目に,診断概念や定義の変遷を標準化しようとする試みがない.報告書ではDSM-IVを挙げているが,サンプルの年齢はばが広く,調査期間が1987年から1998年という長い間であることを考慮すると,実際は複数の診断基準が使われ,それぞれの誕生年コホート間で診断に統一性がないことを完全に無視している.1980年には,DSM-IIIが広汎性発達障害という診断名を導入し,それ以前にあった小児自閉症という診断名を広義解釈した.1987年にDSM-IIIからDSM-III-Rになり,特異性を犠牲にしてさらに広義解釈が行われた.1994年には,Asperger症候群,Rett症候群,および小児崩壊性障害の診断カテゴリーが,広汎性発達障害のサブカテゴリーとしてDSM-IVに初めてもりこまれた.さらに,特定不能の広汎性発達障害という診断名が,編集者の診断基準の全体的レイアウト変更に従って,不注意にも広汎性発達障害に加えられたために,診断の境界線はさらに健常側へ移動した.新しく加えられた4つのカテゴリーは,カリフォルニアのデータの中では最も増加したカテゴリーとなっている(その他の広汎性発達障害の増加率は+1965.8%).

三番目に,カリフォルニアおよびその他の場所では,自閉症児は現在かなり早期に診断されている.診断平均年齢の若年化傾向は,罹患率や発症率に変化がなくても,必然的に報告件数の増加の原因となる.従って,年長児における年齢毎の率が経時的検討には必要である.

四番目に,この報告で行われている疫学的計算値との唯一の比較が不正確である.報告では,1998年に彼らのデータベースに入力された全ての年齢での新患が1685例であり,この数が年度コホートから予想された値を上回ると述べている.しかし,この比較はばかげている.なぜならこの比較は年齢差と混同しているからである.より意味のある比較はまったく異なる結論を導き出す.最近のレビューに基づく22.125/10000という全てのタイプの広汎性発達障害の控えめな値と1999年1月の国勢調査のデータを使うと,カリフォルニアでの1998年度の広汎性発達障害者は全体で73334人,0歳から19歳で21940人となる.さらに2000年7月現在,カリフォルニアサービス局に登録された自閉症者の総数は13054人である.従って,通常の届け出に基づく統計値を使ったために,カリフォルニアの報告は自閉症者の実際の数を非常に少なく認識している.さらに我々の計算は,この報告の数字に基づいて自閉症が増加しているとする主張に何の根拠も提供しない.

五番目に,増加現象は自閉症に限らず,脳性まひ,てんかん,精神発達遅滞などにおいても報告されており,実際の増加は疫学的には証明されていない.報告されている増加現象の背景には一般的な方法論的アーティファクトや記録アーティファクトがあることが示唆される.

しかし,カリフォルニアレポートのもっともやっかいな点は,出生年度を横軸に,新患数を縦軸にして経時的な変化を図示したデータである.報告では,1991年時の7915人という自閉症者の数に基づくと記載している.ゆえにこのデータは明らかにサンプルの断面的性質を示唆している.年齢の変わりに,報告では誕生年度を横軸にしたため,前向きのデータ収集である印象を故意に作り出している.文章中には,「このデータはその年度に何人が新しく診断されたかを示しているのではなく,把握している対象者の中でその年度に生まれた人数を示す.」と注記してあるが,ほとんどのコメンテーターはこのことを見のがしている.問題の図は,故意に年齢効果をコホート効果に転化しているが,コホート効果はこのような断面的データでは検証することはできないのである.

このようなデータの研究者による間違った使用は,研究方法論が間違っていることを示す.Wakefieldらによる,MMRワクチンの自閉症の関連の指摘もその例の一つである.これまでのところ,広汎性発達障害の発症率が増加していることを示している疫学的証拠は乏しくかつそもそも存在しないのである.我々は単に,自閉症の発症率の変化に関する仮説を検証するための良いデータを持ち合わせていないのである.特異的な方法論的限界のために,最近の自閉症調査で報告されている高い罹患率は,この問題に結論を導くために使うことはできない.とはいっても,最近の罹患率のデータは,過去において明らかに過小評価されてきた事の重大さを指摘している(自閉症の数が実際は多いことを指摘している).しかし,偽りの警鐘を打ち鳴らす必要はなく,偽りの科学が導き出す結論を自閉症者が望んでいるとは限らない.自閉症が増加しているかを結論するためには,現在行われているよりももっと複雑なモニタリングシステムが必要であり,この分野での将来的な疫学的研究のためには,定義および同定基準を一定に保ち,高学年の児にも注目し,人の移動などの集団における変化を標準化し,十分なサンプルサイズを確保する必要がある.

 


文献
1. Ramsay S. UK starts campaign to reassure parents about MMR-vaccine safety. Lancet 357: 290, 2001.
2. Kaye JA, et al. Mumps, measles, and rubella vaccine and the incidence of autism recorded by general practitioners: a time trend analysis. BMJ 322: 460-463, 2001.
3. Fombonne E. Is there an epidemic of autism? Pediatrics 107: 411-412,2001.


表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: shinji@po.synapse.ne.jp