新しい研究結果は自閉症者はある種の課題における記憶力においては健常者よりも優れている場合があることを示唆した.
オハイオ州立大学の研究者たちは,自閉症スペクトル(自閉症関連状態)である対象者では,false-memoryテストの成績が健常コントロールよりも良いことを発見した.他の研究結果は自閉症スペクトルでは文脈・状況(context)を使う能力が障害されていることを示しているが,この場合は文脈・状況を使えないことが単語リストにどの単語があったかを記憶する能力を高めている.
健常者は(文脈や状況に引きずられて)偽った記憶(false-memory)をしてしまい易い傾向があり,単語リストの文脈(統一されたテーマ)に一致する単語をリストには実際にはなかったのにあったと勘違いしてしまう傾向がある.
false-memoryテストは文脈・状況における障害を検出する良い方法であるとDavid Beversdorf先生(この研究の共著者でオハイオ州立大学神経学助教授)は語る.「文脈・状況を使えないと点数がよくなるのです.」
結果は自閉症スペクトルの人々の記憶能力に適した就職への可能性を示唆している.
この研究結果は医学雑誌Proceedings of the National Academy of Scienceに最近掲載された(文献1).自閉症スペクトルの成人が8人,自閉症でない成人コントロールが16人を対象としている.false-memoryテストでは24種類の単語リストから,12個の単語を聞かされた後,ある単語がそのリストにあったかどうかを質問される.
例えば,対象者は次のような単語のリストを聞かされる.
thread(糸)
pin(ピン)
eye(目)
sewing(裁縫)
sharp(鋭い)
point(点)
prick(刺す)
thimble(裁縫用指ぬき)
haystack(干し草の山)
thorn(とげ)
hurt(けが)
injection(注射)
その後,検査者は対象者に7つの単語アイテムを提示する.一つはインデックス単語と呼ばれる単語リストに密接に関連する単語で上のリストの場合はneedle(針)である.2つの単語はリストにあるもので,2つはリストにはないがインデックス単語に関連するもの,残りの2つはインデックス単語に関係のないものである.
自閉症スペクトルの人とそうでない人との主な違いは,自閉症スペクトルでない人はインデックス単語やそれに関連する単語がリストにあったように勘違いしやすいという点である.
「自閉症スペクトルの人の中には通常記憶能力が高い人がおり,ある状況下では,自閉症スペクトルの高機能成人は健常成人よりも記憶検査の成績が優れている.」とBeversdorf先生は述べている.「多くの状況では文脈や状況を使うことは我々を助けてくれているが,そのために健常コントロールの中の何人かはインデックス単語がリストにあったものと勘違いしてしまう.このテストにおいては自閉症者が文脈や状況をじょうずに使えないことが助けになっている.」
しかし,自閉症スペクトルの人にfalse-memoryテストで好成績を挙げさせる同じメカニズムが,日々の生活の中では彼らの到達点を下げているかもしれない.
「文脈・状況は,ある種の学習,問題解決(能力),特定の社会的状況での至適反応の決定などにおいて重要である.」とBeversdorfは主張する.「ある種の職業に関しては,高機能自閉症者は知的可能性を発揮することができる.もし我々が自閉症者が何が得意なのかを知ることができれば,それを雇用者に提示し,雇用者も利益を得ることになる.」
文献
1. Beversdorf DQ, et al. Increased discrimination of "false memories" in autism spectrum disorder. PNAS 97: 8734-8737, 2000.