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MECP2遺伝子変異と自閉症

2002年10月,伊地知信二・奈緒美

以前,論文のコーナーでご紹介しました遺伝に関する総説(文献1)に,以下のような記載があり,自閉症的側面を持つRett症候群の責任遺伝子であるMECP2と自閉症との関連が示唆されておりました.
最近,Duke大学の研究者たちは,Rett症候群ではない自閉症者において,MECP2(methyl CpG-binding protein 2:Rett症候群の変異遺伝子)に変異を発見した(未発表).Rett症候群ではなく,自閉症と診断された69例の女児例から,2人がMECP2遺伝子に変異を持っていたのである.このことは,Rett症候群が以前考えられていたよりもさらに非単一性を持っていることの証拠なのかもしれない(文献1).

また,Neuron誌の総説(文献2)にも,以下ような記載があります.

自閉症に関連する最も重要は遺伝的発見は,おそらくRett症候群の責任遺伝子の同定であろう.Rett症候群は,精神発達遅滞,コミュニケーションスキルの消失,異なる発達ステージで表面化する自閉症症候と関連した神経発達障害である.いくぶん議論があるものの,Rett症候群は広汎性発達障害に分類されており,自閉症は広汎性発達障害のプロトタイプである.Rett症候群はmethyl-CpG結合蛋白2遺伝子(MECP2)における変異により起こることが示されたのである.MECP2の表出が減少すると,メチル化により制御されている遺伝子の表出抑制ができなくなる.MECP2変異の病態生理がさらに明らかにされれば,自閉性障害の理解もさらに進むであろう.

しかし,前述のDuke大学からは未だに論文がでておりません.今回は,この件に関しての最近の論文2つのサマリーをご紹介します.

(文献3)MECP2遺伝子異常の表現型
MECP2は最初は古典的なRett症候群の原因遺伝子として同定されたが,この遺伝子は現在いくつかの表現型に関連していることが示唆されており,臨床的には一くくりにできない症候のひろがりを持っている.MECP2の変異はいろいろな疾患で発見されており,これには,軽度の症候を持つ女性や,健常女性のキャリアー以外に,新生児発症の脳症,X染色体性劣性精神遅滞,古典的なRett症候群,非典型的なRett症候群,自閉症,そしてAngelman症候群がある.さらに複雑なことには,孤発例の古典的Rett症候群の約20%において,また症候を有する姉妹ペアの50%以上で,MECP2に変異のないケースが発見されている.X染色体の不活性化パターンは,女性における表現型表出に影響することが明らかであり,一方,変異のタイプや位置による効果が,Rett症候群という疾患単位におさまりきれないより広い表現型においてより明らかである.古典的Rett症候群の大半においては父親から受け継いだ変異が多いことが報告されているが,男性と女性の両方がリスクを持っている.従って,本質的に異なる表現型のはばが存在するので,この遺伝子はおそらくポピュレーションにおける精神遅滞の比較的大きな部分の原因になっているかもしれない.

(文献4)自閉症におけるMECP2遺伝子変異
MECP2遺伝子のコーディング領域における変異はRett症候群の原因であり,また,多くのX染色体性精神遅滞例のおいても報告されている.さらに,そのような変異は最近数例の(a few)自閉症者においても記載された.本研究では,自閉症者の大規模サンプルを使い,MECP2における特異的な変異が,自閉症に関与しているかどうかを体系的に明らかにする.MECP2遺伝子のコーディング配列の変異解析は変性条件での高圧リキッドクロマトグラフィーと直接シークエンス法により行われた.134家系のドイツ人自閉症家系の152例およびMGSACの有症候親戚ペアサンプルから50例の孤発例の中から,全部で14の配列バリアントが同定された.これらのバリアントのうち11個は,アミノ酸配列に変化を与えないものであり,家系内で自閉症に一致して伝播していなかった.残りの3つは,MECP2の機能的ドメイン内にはなく,またおそらくまれな遺伝子多型と考えられたが,自閉症との関連は否定することはできなかった.本研究のサンプルサイズが大きいことを考慮すると,我々はMECP2のコーディング領域の変異が自閉症の易罹患性において役割を持っていないと結論する.ゆえに,小児自閉症およびRett症候群は,おそらく,分子遺伝学的レベルでは二つの異なる疾患単位であると思われる.

現時点では,否定的ということになりますが,今後もこの件に関しては論文チェックを続けます.MECP2遺伝子に物理的にあるいは機能的に密接に関連する他の遺伝子が関与している可能性については,今後の検討が待たれます.


文献
1. Folstein SE & Rosen-Sheidley. Genetics of autism: complex aetiology for a heterogenous disorder. Nature Reviews Genetics 2: 943-955, 2001.

2. Lord C, et al. Autism spectrum disorders. Neuron 28: 355-363, 2000.

3. Hammer S, et al. The phenotypic consequences of MECP2 mutations extend beyond Rett syndrome. Ment Retard Dev Disabil Res Rev 8: 94-98, 2002.

4. Beyer KS, et al. Mutation analysis of the coding sequence of the MECP2 gene in infantile autism. Hum Genet 111: 305-309, 2002.


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