Sorry, so far only available in Japanese.
情緒障害とその類似表現の定義

1999年4月,伊地知信二・奈緒美

情緒障害の定義についていくつかご質問をいただき,また,私自身もいろいろと教えていただきましたので,一度まとめてみようと思います.まず最初に,まぎらわしい表現の定義を全部列挙してみます.

(感情障害・情動障害・情緒障害の定義)
1.行政用語での情緒障害(狭義):主に心因性の問題行動や環境の影響を強く受けた問題行動.施設などでの治療対象としての問題行動で,感情・情動の不安定性が背景にあるとして情緒という言葉を使ったようです.英語の単語としてはemotional disturbanceが使われるようです.自閉症やADHDは含まれません.
2.行政・教育用語での情緒障害(広義):単に感情・情動の問題としての情緒障害.従って,1の狭義情緒障害を含み,かつ自閉症児やADHD児や器質的脳障害児を含み得る包括的使い方.この場合も英語はemotional disturbance.
3.教育用語(狭義):情緒障害児教室などと使う場合に,実際には自閉症児とADHD児だけが対象となっている場合もあるようです.
4.精神科用語のaffective disorder:通常は情動障害(あるいは感情障害)と訳されます.そううつ病に対して使われ,DSM-Wなどではmood disorder(気分障害)となっています.
5.精神科用語のemotional disorders:ICD-10による分類で,多動性障害や行為障害,不安障害,チックなどを含む.自閉症は含まれない.不安障害の小児例と行為障害の一部(うつ状態を含む)のみを情緒障害とする狭義の立場も有り得る.

4のaffective disorderは,自閉症やADHDとは直接関係のない表現ですが,affectiveが「感情の」とか「情緒の」という意味ですのでまぎらわしいので挙げてあります.それぞれの使い方と,自閉症,ADHDとの関連(含まれるか,含まれないか)を表にします.

表1 上記類似表現のまとめ
自閉症ADHDその他
××心因性の問題行動など
器質的脳障害児など
なし
××そううつ病(気分障害)のみ
×行為障害,不安障害など

情緒と情動と感情の3つの言葉の意味についてまとめますと,次のようになります.

表2
使われる場面英語
情緒情緒障害などの行政・学術用語にemotion
情動動的側面が強調emotion
感情質的差異を強調emotion

英語の辞書(Bookshelf)でemotionとfeelingとaffectをひいてみましたが,感情・情緒という意味では区別がはっきりしておりません.従って,わかりにくい原因の一つは,日本では動的側面と質的側面を使い分けて,それぞれ情動(情緒)と感情という言葉を区別してきたわけですが,欧米では動的側面も質的側面も両方共emotionという言葉で表現している場合が多いことにあります.

上述しました用法の5番の場合を以下に詳しく説明します.以下のICD-10の記載についてはインターネット上の資料:
http://www.who.int/msa/mnh/ems/icd10/icd10.htm
から引用しました.

F90-F98 Behavioural and emotional disorders with onset usually occurring in childhood and adolescence
F99 Unspecified mental disorder

F90 Hyperkinetic disorders

F91 Conduct disorders

F92 Mixed disorders of conduct and emotions
F92.0 Depressive conduct disorder
F92.8 Other mixed disorders of conduct and emotions
F92.9 Mixed disorders of conduct and emotions, unspecified

F93 Emotional disorders with onset specific to childhood
F93.0 Separation anxiety disorder of childhood
F93.1 Phobic anxiety disorder of childhood
F93.3 Sibling rivalry disorder
F93.8 Other childhood emotional disorders
F93.9 Childhood emotional disorder, unspecified

F94 Disorders of social functioning with onset specific to childhood and adolescence

F95 Tic disorders

F98 Other behavioural and emotional disorders with onset usually occurring in childhood and adolescence

F99 Mental disorder, not otherwise specified

F90〜F99の全体を「行動と情緒の障害」と解釈できますので,多動性障害(ADHD)や行為障害,不安障害小児例,チック,などが全部行動と情緒の障害と定義されます.また,内容をよく検討してみますとF92とF93にemotionという言葉が明記されており,狭義にこの二つだけを情緒障害と解釈する立場もあり得ることになります.F92は,うつ状態を伴った行為障害であり,ここではemotionsという表現はうつ病にも使ってあります.つまり,ICD-10では,emotionsという表現をADHDにもうつ病にも使っているわけです.一方,ICD-10をバイブルとして使っている精神科の専門医の先生方は,affective disorder:情動(感情)障害といえばそううつ病(気分障害)で,emotional disorder:情緒障害といえばADHDや不安障害と,非常にはっきりと区別しています.形容詞や名詞単独での意味は包括的で,熟語の場合は非常に特異的な使い方なわけです.

情緒障害という言葉とその類似表現は,表1にまとめましたように,だれが,どういう立場でその用語を使うかで自閉症とADHDについては意味が全く変わってきますのでご注意ください.



表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: shinji@po.synapse.ne.jp