ヨーロッパとアメリカの共同研究で,オックスホードとニューキャッスルとロンドンの専門家たちが,自閉症児を持つ99家系を3年間検討し,その結果が本年(平成10年)3月に論文発表されるとのことです.発表される医学雑誌名は報道されていないようですが,中心人物はオックスホードのAnthony Monaco先生らしく,この先生のコメントとして「We have found something very significant which pushes us to the next stage of analyzing these genes.(今回の重要な発見から,この遺伝子の解析は今後も進めていくべきである)」と「This is phase one in a long process.(今回の結果は最初の一歩にすぎない)」がSunday Timesに載ったそうです.コメントからしますと,研究費確保のためのマスコミ活動のひとつという側面も持っているようですが,“自閉症の出生前診断につながる重要な発見”とも書いてありますので,3月の論文発表に注目したいと思います.
上記研究グループの構成メンバーと経過報告
まず,結果が決定的なものではなく,「今後の検討によっては結論が変わるかもしれない」と前置きしてあり,研究のゴールは「自閉症や自閉症関連疾患を時に誘導する遺伝子(複数)を同定すること」としています.この報告文は一般向けのもので,詳細に関しては言及しておりませんが,研究対象が家族内重複家系(家族内に2人以上の自閉症者がいる家系)約100例で,形態的な遺伝子異常がなく,脆弱X症候群も含まれていないとのことです.家族から集められたサンプル(血液)は培養され増やしてストックされており(リンパ球),今後の一連の研究に際し採血を繰り返さないですむように計画されています.研究の方法は,これまで他の病気で採用されている方法と同じで,遺伝子上のマーカーを使って,発症に関連する遺伝子の場所を見つけようとしています.現時点では第7染色体と第16染色体上に自閉症関連遺伝子の存在が示されているとのことで,第7染色体上の自閉症関連遺伝子はイギリスの症例でみられ,第16染色体上の自閉症関連遺伝子は全ての国の症例でみられるとのことです.今後の方針は,これらの遺伝子の普遍性(対象を増やしても同じか/他の国の自閉症でも同じか)と,関連遺伝子部分のしぼり込み(第7染色体および第16染色体上のどの部分が関連しているのか)であるとしています.
これらの自閉症関連遺伝子が絶対的なものなのか(その遺伝子があれば必ず自閉症になるのか),遺伝子変異なのか,蛋白のレベルまで関連しているのか,などについては全て今後の問題です.X染色体上の関連遺伝子との関係などについても不明のままですので,まさに最初の一歩と言えると思います.