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食物アレルギーと多動など

1998年5月、伊地知信二/奈緒美

自閉症でも一つの仮説として,「アレルギーが原因である」という話は時々耳にしますが,全ての専門家が納得するような科学的な証拠はこれまでのところ報告されておりません.Swanson先生らの注意欠陥/多動性障害についての総説(文献1)に対して以下のようなコメントがだされ,それにSwanson先生たちが返答しています.
(Maberly DJら:文献2)潜在性の食物アレルギーを明らかにし,抗原となる食材を摂らないことで多動が著明に改善することや,微量栄養素(鉛,エッセンシャル脂肪酸など)の欠乏状態などのチェックが必要であることなどが触れられていないのは驚きである.1985年から,二重盲検,プラセボコントロール法による三つの研究が,特定の食材を除去した食事療法について行われ,多動児の73〜76%で有効であることが示されている(文献3).RobinsonとFergusonは,食品と食品添加物の両方が検討されるべきと結論しており(文献4),多動児の多くが抗原を食事から除去することで多動が改善すると述べている(文献3).また,短期間あるいは中期間の抗原食材除去で多動児の4分の3に効果があるという報告もある(文献5).数ヶ月間の抗原食材除去後は,その食材を摂っても多動が悪化しなくなり,特定の補助療法(アレルギー療法?)によりこの期間は短縮する.食物アレルギーの検討を行わずに,薬物や心理療法を受けている多動児が多いことは問題である.抗原はしばしば複数であり,化学物質やねり歯磨き,入浴剤,洗剤,タバコの煙である可能性もある.
(Krug V EF:文献2)注意欠陥/多動性障害は多因子的病態であり,予後も多様であることを強調すべきである.アメリカでのフォローアップ研究が予後不良と結論したのは,極端な見解である.予後において重要な因子は,反社会的行動の有無や社会的環境因子であり,安定した住居,機能的な教育環境,課外活動の機会などが与えられれば,多くの患児の予後は良好なのである.
(Soothill JF:文献2)Swansonらの総説では,著者の中に食物アレルギー原因説を支持する論文(文献6)の著者であるTaylor氏が含まれているにもかかわらず,食物不耐症や食物アレルギー説について述べられていない.
(著者返答,Taylor EとSwanson J:文献2)食物アレルギー説に関しては異論も多く,過去における研究は一部のケースでの結果である.アレルギーの免疫学的機序が解明された訳ではなく,抗原食材除去療法で効果があるのは限られたケースのみであることも指摘されている(文献7).RobinsonとFergusonも,一部の限られたケースでのことであると結論しており,選別された症例に慎重に行うべきと記載している(文献4).栄養失調などの副反応や方法論的な問題点も存在する.予後決定因子については,現在いくつかの研究が続行中である.


文献
1. Swanson JM et al. Attention-deficit hyperactivity disorder and hyperkinetic disorder. Lancet 351: 429-433, 1998.
2. Correspondence. Management of hyperactive inattentive children. Lancet 351: 1432-1433, 1998.
3. Anthony HM, et al. Environmental medicine in clinical practice. BSAENM Publications, 259-260, 1997.
4. Robinson J, Ferguson A. Food sensitivity and the nervous system: hyperactivity, addiction and criminal behaviour. Nutr Res Rev 5: 203-223, 1992.
5. Boris M, Mandel FS. Foods and additives are common causes of the attention deficit hyperactive disorder in children. Ann Allergy 72: 462-468, 1994.
6. Egger J, et al. A controlled trial of oligoantigenic diet treatment in the hyperkinetic syndrome. Lancet i: 940-945, 1985.
7. Young E, et al. The prevalence of reaction to food additives in a survey population. J R Coll Phys Lond 21: 241-247, 1987.


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