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応用行動分析についての議論

2001年9月,伊地知信二・奈緒美

論文紹介のコーナーで掲載しましたJAMAの論文(文献1)に関する議論です.Rapin先生は,「疑わしきは全員介入を受けるべき」と主張し,Gill先生は,より集中性の低い介入を受けることにならないか(集中的な介入ができなくなるのでは)との懸念を表明しています.日本の現状からすると,たいへんうらやましい議論です.応用行動分析については,Rapin先生の立場の方がより客観的で一般的な立場のように思います.文末に応用行動分析について資料を付けます.

(Gill AR先生からの手紙:文献2)

JAMAの臨床交差点のコーナーで自閉症の少年が取り上げられたが,Rapin先生は早期診断と早期治療に関する米国におけるスタンダードを的確に紹介していない.自閉症児を持つ家族は,バラエティーに富む治療の選択肢があり,その多くは客観的な証拠を伴っておらず,効果に関する逸話的な主張に基づいている.Rapinは,全ての現在の介入プログラムは似たようなものであるとほのめかしているが,これは文献に支持されてはいない.Rapinは,「教育的アプローチの選択や強度は,教育的な決断であって,医学的な決断ではない」とアドバイスしている.残念なことに,最近は,自閉症の理解が不適切で,発達の遅れの診断をより非特異的な診断名にしようとする流行があり,集中性が低く非特異的な早期介入をスタンダードにする傾向がみられる.この方針は自閉症児にとっては悲惨である.集中的な早期介入は悲惨な自閉症の自然経過をかなり変えるための最善の方法としての証拠がそろっているが,この方針はその機会を逃してしまう原因となる.臨床家は効果的で特異的な早期介入に精通し,特異的な早期介入を指示しなければならない.

最近の証拠は,治療アプローチの有意な区別を可能にしているが,Rapinはこの点についての解析があまい.彼女はニューヨーク州の文献レビューの結果を引用しているが,「応用行動分析と行動介入戦略の原理は,自閉症若年者の全ての介入プログラムの重要な要素として含まれるべきである」とした勧告を引用していない.Rapinは応用行動分析については,「これまでのところ流行の治療」と表現しており,この表現は軽蔑的で,応用行動分析が確証のないアプローチのひとつに過ぎないと示唆している.米国公衆衛生総局長官は,もっと好意的な見解を持っており,「30年間の研究により,応用行動法の効果は明らかにされており,不適切行動を減らし,コミュニケーション,学習,そして適切な社会行動の点で改善がみられる」と語っている.効果においても,支持的研究の質においても,このような例は他には知られていない.

臨床医は歴史的に自閉症の診断を遅らせる傾向があり,多くの臨床医が効果的な治療についてはあまり知らない状態が続いている.残念なことに,健康と精神衛生と教育の境界を越えた発達における問題をかかえる児に責任を持って対処する専門分野は存在しない.臨床医が早期診断と中心的要素としての応用行動分析による迅速な集中的介入を取り入れることにより,このすきまを埋めることができるとする十分な証拠がある.

(Rapin先生の返事)

Gill先生が示唆したように,多くの臨床医は自閉症を同定することにおいていいかげんで,効果的な介入法のことを知らないことは事実である.彼は,早期(医学)教育において訓練を受けていなくても,臨床医は応用行動分析を指示すべきだと推奨している.私の考えだと,臨床医の役割は早期診断を行い,よけいな検査をせずに特別な介入を要する他の医学的状態(難聴など)がないことを確認することである.臨床医は,米国の法律が推奨するように,自閉症スペクトルを疑ったら率直にそう言うべきであり,直ちに早期介入のために紹介しなければならない.しかし,正確な教育プログラム,応用行動分析の時間数,職業訓練,理学療法,会話・言語療法などを指示することは,ほとんどの臨床医の能力を超えている.そのような決定は早期介入の学際的委員会に委ねるべきで,後には,それぞれの学校区障害児委員会に委ねるべきである.早期介入プログラムと学校区(委員会)は,自閉症スペクトル児のためのサービスの需要が増加していることに対応するために奮闘しているので,親の希望に答えてゴム版で治療の指示をするようなやり方では,そのような介入を本当に必要としている児から介入を受ける機会を奪ってしまうかもしれない.

条件付けは,行動およびコミュニケーションの両方に対処しなければならない全ての効果的なプログラムの要素である.しかし,応用行動分析を厳密に行う場合には必要ない.私は,応用行動分析は,しゃべらないまたはわずかしかしゃべれず,指示に従えない児で提供される活動に参加できないケースに推奨する.古典的な応用行動分析を全ての児が必要としているのではなく,また全ての児が利益を得るわけではない.応用行動分析を必要としない児は,他の効果的な介入が存在することを文献と私の個人的経験が示唆している.

ゼロ歳から3歳の児のためのニューヨーク州のガイドラインは応用行動分析を支持している.なぜなら4年間の集中的介入により19人の児のうち47%が応用行動分析でドラマティックに改善したという報告が唯一の効果に関する報告論文であるからである.学校入学前の児で,再現性を調べた研究では,15人の児に無作為に一週間に25時間の個別応用行動分析を受けさせ,1年から3年経過をみたところ,知性,視覚的空間スキル,言語,学術において有意な改善がみられたが,適応機能や適応行動には改善はみられなかった.コントロールは親が3ヶ月から9ヶ月間の一週間に5時間の応用行動分析のトレーニングを受けた児13例である.持続性の発達障害を持つ児は,自閉性障害児よりもより効果があった.最近の証拠は,非言語性IQから有利な結果を強力に予想することができることを示している.私は,非言語性IQの方が,児が参加した個々の早期個別集中的介入プログラムよりもより強力に予後を予測できる因子だと考える.応用行動分析の急激な普及は,特に非常に若年児童での有効性を示唆しているが,それはまた,その他全ての教育的介入に対する優位性を厳密に示しているというよりも,教育コミュニティー内の集中的な啓蒙を反映している.応用行動分析と他のアプローチを比較した研究はまだほとんどないので,全ての自閉症スペクトルの年少児に応用行動分析介入を推奨している米国ガイドラインは最終的なものではない.

(おまけ:応用行動分析について,文献3)

応用行動分析は,社会的に有益な(行動)レパートリーを確立し,社会的に問題となる(行動)レパートリーを減ずるための科学的行動原則を基盤とした方法を利用している.行動分析的見方では,自閉症は行動の欠質と過剰の症候群であり,神経学的背景があるにもかかわらず,特異的に慎重にプログラムを立てれば,環境との構造的相互関係に反応して変化しやすい状態ということになる.

自閉症の行動分析治療は,小さな計測可能な行動のユニットをシステマティックに教えることにフォーカスをおいている.自閉症児ができない全てのスキル(他人を見るとかの比較的単純な反応から,自発的なコミュニケーションや社会的相互関係などの複雑な行動まで)は,小さなステップに細分化される.それぞれのステップは,始めのうちはしばしば1対1ティーチングシチュエーションで教えられ,特異的なきっかけ(cue)や指示(instruction)を提示することで教えられる.しばしば,自閉症児に行動のきっかけを与えるために,やさしい体をつかったガイダンスなどの促進刺激(prompt)が加えられる.(警告:全ての種類の促進刺激は,児がそれらに依存性になることを避けるために,最小限に使い速やかに止めるべきである.)適切な反応ができれば,再強化因子(reinforcers)として効果的に機能することが見つかっている結果(consequence)が反応に続く.つまり,これらの結果が児の反応に首尾一貫して続けば,その反応は再び起こるようになることが示されている.最優先のゴールは,児が学習に興味をもつことである(児にとっておもしろい学習).もう一つ大事なことは,たくさんの刺激を区別する方法を教えることである.例えば,話された単語の中から自分の名前を区別したり,色,形,文字,数,そして似たものの区別,適切な行動と不適切な行動の区別などである.癇癪や,ステレオタイピー,自傷,脱落などの問題反応は,明示的に再強化されない.これらの問題反応にとって,再強化因子として機能するイベントが何なのかを正確に突き止めるためのシステマティックな解析がしばしば必要である.できれば,問題反応とは相容れない適切な反応の方を起こすように児はガイドされる.

教育トライアルは何度も繰り返される.最初は迅速に連続させて繰り返され,児が大人の促進刺激なしに用意に反応を達成するまで繰り返される.児の反応は記録され,特異的で客観的な定義と基準に従って評価される.これらのデータはグラフ化され,児の進歩がわかりやすく図示される.図示することで教師や親は,データが期待通りの改善を示していない時はいつでも教育方法を調整することを可能にする.それぞれの児において,それぞれのスキルに関して,教育会議(teaching sessions),実践機会,結果(consequence)などのタイミングと速度が正確に決定される.このようにして,指示は高度に個別化され,それぞれの児の学習スタイルやペースに適合される.

児の成功を最大にするために,出現したスキルはまた,多くのより構造的でない状況で実践され再強化される.最初から比較的構造化されていない状況においてある種のスキルを完璧に学ぶことのできる児もいる.そのような「偶発的な」または「自然主義的な」実践機会は慎重にアレンジされなければならないが,そのような機会が頻回にあって,結果(consequence)が首尾一貫して得られることを確認しなければならない.理想的には,1対1の関係から,スモールグループ,そしてラージグループでの指示へと徐々に進めていく.単純な反応は,複雑で,典型的で年齢相応の反応の流動的組み合わせへと体系的に組み合わされていく.正常の環境からいかに学ぶか,また児本人,家族,および他人にとってポジティブな結果を一貫して出すような方法で,その環境下でどう行動するかを児に教えることに全体としてのポイントが置かれている.

効果的で倫理的な応用行動分析法の使用は,特別なトレーニングを必要とし,興味のある親はそのようなトレーニングの機会を捜している.他の治療法の場合と同様に,不注意にあるいは意図的に,この方法も誤用されることがあり得る.特に重要なことは,能力のあるよくトレーニングされた行動分析家が,自閉症児の行動治療をガイドしスーパーバイズしなければならない.これにはいくつかの理由がある.ステレオタイピーや破壊的反応は,特異的な(しかし常にはっきりしているわけではない)イベントによってしばしば促進され,感覚的刺激,他人からの注意,要求や需要などのイベントの中止,またはこれらの組み合わせによって維持される(治らなくなる).このような研究のことやその意義を知らない個人や,必要な評価や行動変化法に不慣れな個人が児と相互関係を持てば,問題行動はさらに悪化することになる.例えば,自傷に続いて,注意や,感覚刺激や,または需要から逃避する機会を提供してしまうと,自傷の起こる頻度は急増するかもしれない.

加えて,ポジティブな再強化の中断のような,不適切な反応を減らすことを目的とした方法は,誤用されやすくまた乱用されやすい.よく訓練されたプロフェッショナルによって監督されモニターされた上で慎重に行われなければ,そのような方法は児の基本的権利を危機に陥れる可能性があり,行動を改善するよりもむしろ悪化させる.治療の効用を持続させる鍵のひとつは,自閉症児においては首尾一貫性である.問題行動のトリッガーとなり問題行動を持続させるエベントのことを知らない保護者は,しばしば自閉症児との相互関係において一貫性がない.彼らは,意図的でなく,児に混合したメッセージを供給し,適応スキルの発達を促進するよりもむしろ遅らせてしまい,問題反応を減らすよりもむしろ強めてしまうかもしれない.さらに,もし行動変化法が,状況(setting),人々,時間を通して,首尾一貫して行われなければ,児にみられるいかなる進歩も失われてしまうであろう.幸運なことに,多くの親は一貫性を持つことを学んでおり,自分の子供にとって効果的な行動変化エージェントを知っており,治療において不可欠な役割を演ずることができることを,研究結果が示している.

応用行動分析の訓練法は,50年以上にわたる科学研究を基盤としており,新しい証拠も次々と提出され現在も進化している.理想的には,自閉症児のための行動介入は,関連領域の研究に加え,行動分析に関する以前と現在の研究所見を,持続的に解析している能力のある専門家のガイドの下に行われるべきである.


文献
1. Rapin I. An 8-year-old boy with autism. JAMA 285:1749-1757, 2001.

2. Gill AR. Interventions for autism. JAMA 286: 670-671, 2001.

3. Green G. Early behavioral intervention for autism: the intervention of choice: applied behavior analysis. Chapter 3. Behavioral Intervention for Young Children with Autism: A Manual for Parents and Professionals. Edited by Maurice C, Green G, & Luce SC. PRO-ED Inc. 1996, p29-p31.


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